34・離れてもずっと(悪党星系の少年11)
共鳴通信の最大の特徴は、よくも悪くも、その影響のスケール上、宇宙(厳密には個々の領域)のどこにいる者にでも、使用を探知されてしまうこと。だから、メッセージは利用者同士であらかじめ決められている暗号を使うのが普通。
リーザが使った暗号は、《ヴァルキュス》軍アシェレ部、第3大部隊の第2小部隊、つまりは、かつて彼女が所属していた部隊の専用のもの。
返事は共鳴通信でなく、ワープコントロールと、タキオン領域を組み合わせた、《ヴァルキュス》独自の通信方法で返されてきたが、かなり早く、1時間もたたない間のことだった。
〔「お嬢、お嬢ですよね」〕
まだ真っ白で何も表示されていないモニターの出現とともに、ミズガラクタ号の内部に響いてきた男の声。
「テミンね、久しぶりね」
当たり前なのだろうが、声の主をしっかり知っていたリーザ。
「というか、お嬢?」
とりあえず口を挟んでおいたスブレット。
「いろいろ気にしないで、そうしてくれると助かる」
やや照れくさそうなリーザ。
〔「かなり遠いですけど、どこなんですか?」〕
モニターに映った、なかなか髭が似合う男、テミン。
「もし知ってたら意外なとこと思う」
そうとしか答えなかったリーザ。
〔「まあ、どこだっていいですよ。お元気そうでほんとによかったです。そちらの方々、新しい友達でしょう」〕
「よ、よろしくお願いします」
順番に見ていくテミンの目が、自分の方をむいたところでミーケだけは口を開く。
それで、何か悟ったのか、勘違いしたのか、テミンはふっと笑う。
「あ、それと、とりあえず感謝しとくわ。わたしを除名しないでいてくれたから、ちょっと助かることがあって」
照れ隠しなのか、ちょっと早口になるリーザ。
〔「除名どころか、まだ正式に副隊長ですよ。もちろん必要な場合には代理たててますけど。やっぱりあなたの後釜はプレッシャーもすごいですし」〕
「まったく。そっちも人の事言えないくらいに変わらないわね」
それから、2人のしばらくの会話から、リーザの所属していた部隊は、《ヴァルキュス》の軍の中でも、問題児たちばかりの不良部隊だったこと。実はけっこうな違反行為である、副隊長不在状態の放置も、彼らだからこそ平気な顔をしてやれること。その才能により、あまりに若くして指揮官クラスとなったリーザを嫌う者、警戒する者なども上層部には多く、おかげで、本来ならもっと 上の立場になっていなければおかしかった彼女なのに、小部隊の副隊長に甘んじていたこと。しかし部隊の中では、リーザはとても慕われていたことなどは、ミーケたちにもわかった。
〔「ああと、それで? お嬢のことだし、感謝とか、ただ元気ですって報告だけじゃないですよね?」〕
喜びを一旦抑えたように、真面目な雰囲気となるテミン。
「うん、科学部の方の、そうね、マリツキ研究所に通信回線を繋いでくれない。あっ、言うまでもないことだろうけど、全部そっちでのネットワークでね」
つまり、テミンがすぐに知れた、リーザの現在地に関する情報を隠すための工作。
〔「ああ、了解です。ですが、あの」〕
そこで、一気に緊張感を緩め、笑みを見せたテミン。
〔「我らが副隊長は、お元気変わりなく。てことくらいはみんなに伝えていいですよね。ていうか伝えますからね」〕
そして、リーザがまた何か言う間もなく、一旦消えたモニター。
「まったく」
しかし呆れつつも、少し嬉しそうなリーザは少し微笑ましかった。
それからまた数分ほどしてから、今度は、リーザと見かけの年代は同じくらいの少女がモニターに現れる。
「アーシェ」
その名を口にしながら、テミンが現れた時よりも、かなり意外そうな顔をするリーザ。
〔「こいつは驚きだのう、リーザよ。ずいぶん久しぶりじゃな」〕
妙に古風な感じのしゃべり方のアーシェ。
「驚かされたのはこっちだけど。あなた今マリツキに?」
〔「あ、いや、いろいろ複雑ではあるが、わしはもともとここの所属じゃ。そういえば、おまえさんは知らなかったけか」〕
「うん、まあ、でも結局運がよかったかもね。あなたになら直接頼めるだろうし」
〔「科学部にか?」〕
「ええ、今送ったデータの」
画面上の、アーシェの手元の辺りに、そのデータなのだろう、回転する球体が表示される。
「それの機体のコントロール権、渡してくれない。わたしの今の装備じゃ、内部に入る必要があるから」
〔「まあ、それはよいが、よいんだが、おまえさん」〕
そこで、何か探るように、ミーケたち他の者たちを見たアーシェ。
〔「弱くなったわけではないよな?」〕
「試すのはあまりおすすめしないよ」
〔「いや、まあ、それもそうよな。しかしわしは立場上、今回のこの接触のことは、上に報告しなければならん。あのバカモノどもがどう思うかはわからんぞ」〕
「正直どう思われたところで問題はないわ。そもそもあの人たちなら大丈夫、恐怖の記憶って残るものよ」
〔「どうやってあの追っ手を諦めさせたのか、聞きたいとは思ってたが、聞かない方がよいかもしれんな」〕
「まあそうでしょうね」
〔「しかし、そういうことならば、おまえさん」〕
そしてアーシェもふっと笑う。
〔「厄介な性分じゃのう、あいかわらず」〕
それから、モニターが消えるとともに、リーザの手元に現れた球体。
「まあ、そういう感じなんだけどさ」
あらためて、今の自分の仲間たちに向きなおったリーザ。
「やっぱり、あまりいろいろ気にしないでくれると助かる」
「う、うん。了解」
とりあえず、みなを代表してミーケが言った。
ーー
まるで何事も変わらなかったように、しかし何事も変わっていた。
リーザは、《ルセドラ》が所有していた《ヴァルキュス》の兵器のコントロールを、内部から奪って使い、その兵力のすべてをあっさり無力化してしまった。
宣戦布告した《アズテア》の仕事は、自分たちが支配することになった、広大な新たな領域の整理をすることだけ。
四大国の《ルセドラ》以外の3つの国は、同盟を即座に解消し、政治的な責任からもうまく逃げたが、代償として、弱体化を余儀なくされてしまった。
ルカたちは《アズテア》の民となって、そして、1日も経たない内に、大量の支援物資が与えられた。まだまだ文明の遅れた地域ではあるが、彼らは、ルカの記憶にあるよりもずっと豊かな世界を得ることもできたわけである。
《アズテア》は慈悲深いレトギナ教の国家であるから、その辺りの気配りはかなり細かい。
ルカは、あちこちで騒がしく喜び合う仲間たちと違い、いつもの部屋で、昔からの友人であるミリルと2人と、わりと静かでいた。
「ルカ、よかったの?」
「何も悪いことなんてなかったろ。あいつら本当に、いや、本当の世界ってとっても広いよ。ぼくたちは本当に子供だったみたいだ」
「そういうことじゃなくて、その後」
ミリルにはよくわかっていた。
ルカの今の気持ち。
自分に出来る限り恩を返したいという気持ちも。本当はずっと押さえ込んでいた、もっとずっと広いはずの世界への憧れも。
「本当はさ、あの人たちについて行きたいんでしょう。ついて行きたいってお願いすればよかったのに」
「いや、だけど、ぼくは」
「わたしさ、また通信を送っておいたから」
「だけど、別に役に立てないだろうから。ぼくは、この狭い世界で強かっただけ。学なんてないぼくが一番役に立てそうなことでも、そんな程度」
そうそれが、ルカがついて行きたい気持ちを諦めようとしていた理由。
戦いでなら役に立てるかもしれないけど、リーザのことを考えると、それも自信はなかった。
「リーザのことなら、あの強さはわたしたちにとっても相当な規格外ですよ。ルカ、あなたは十分強いです。少なくともわたしの国では、一番の兵士になれるくらいには」
唐突にその場に姿を現した、どこからか会話も聞いていたようであるザラ。
「あなたがその気なら、仲間になってくれるなら正直心強いです。特にわたしたち、戦闘面、軍事面に関しては、リーザ1人に頼りっぱなしですから」
顔を見合わせたルカとミリル。
(ミリル)
むしろ寂しさも隠しきれてない彼女の方が喜んでもくれていることに、心が熱くなったルカ。
「ミリル、今までありがとう」
「うん、いってらっしゃい。みんなの事はわたしに任せて。あと、外に馴染んじゃっても、たまにはこっちに顔見せてよね」
「ああ」
そうして、涙は見せないで、長い間を2人だけで戦ってきた永遠の少年と少女は、笑顔で別れた。




