33・ふたりぼっちだった(悪党星系の少年10)
「あなたはどこまで知ってるの? この世界のこと」
まずそう聞き返したリーザ。
「ここが銀河系を構成する1つの惑星だってこと。そしてこの銀河系で構成される集団、フィラメントか世界だってこと。その外にも何かがあるってことは知ってるけど、それ以上は知らない」
少なくともそのフィラメントのみと比べても、自分たちの知っている世界なんて、ごくごく小さな点にすぎないはず。
それがルカが知っていたこと。
だから希望も絶望もあった。
「このフィラメント、"世界樹"もね、本当の世界にいくつもあるフィラメントの中では結構小さい方よ。単純な大きさで考えても、軍事的な強さに関してもね。まあ、いろいろ賢いやり方で立場を高めてはいるから、たいていどこからも一目置かれてはいるけどね」
辺境の世界で世界を開発したことによる、侵略する価値の軽減。
完全に自分たちの中だけで徹底して科学技術を回すことによる、独自テクノロジーの確保。
理屈は簡単でも、フィラメント単位で実行するにはなかなか難しいやり方を、いくつも上手く続けている様は、確かに見事なものだった。
「ルカくん。誰だか知らないけど、あなたのお友達よ、わたしたちに助けを求めたのは。あなたたち、あなたは迷ってたんじゃない? 助けを求めるべきなのかどうか。わたしたちがわからないから、信頼できるかも、あなたたちの敵をどうにか出来る強さを持ってるのかどうかも」
もうすっかりリーザには理解できていたこと。
「きっとあなたも助けを求めるべきよ。わたしは、この宇宙で1番強い力を持ってるフィラメントから来た軍人だから。この"世界樹"で、あなたが知ってる世界で、わたしより強い存在なんて、まず間違いなくいないよ」
そんなことを断言するのに、リーザには迷いもうぬぼれも必要なかった。
ただ、かなり確実な真実であるから、素直に口にしただけ。
「ここは」
ルカの声には、今や少し震えがあった。
「小さな国だったんだ、多分正式じゃない。自分たちで勝手にそういうふうに考えてただけの国。名前は覚えてない、ぼくはかなり小さかったし」
もちろん見た目の話じゃなく、まだ彼は、本当に一桁の年齢だった。
「あいつらがここに来たのは突然のことだった。ぼくは長く子供の姿のまま成長しなくて、そのことであいつらの目を逃れ続けることができたんだ。そして長い時間で少しずつ知っていった。あいつらの国《ルセドラ》、フィラメント、それにあいつらの目的」
正確には、ルカの生まれた銀河。というより《ルセドラ》が有していた無法銀河すべてを、情報的に完全に封鎖された世界へと作り替えるという計画。
「隠されたのはきっと、あいつら、フィラメントに対して何かをしようとしてて、ぼくらは武器に使われようとしてるとか、その辺りは想像でしかないけど」
ルカにとって重要だったのは、自分の目に見える世界で行われた、何もかも利用され、奪われるためだけに命が作られていく光景。自分のかつての仲間たちの、大切な人たちの子供たちの心が、永遠に奪われてしまった現実。
「本当に」
そういうものなのかもしれない。
彼らが来たのは唐突だった。
そして今回も。
「ぼくらを助けられる?」
「正直に言うとね。あなたの敵はわたしだけでも倒せるだろうけど、あなたたちを助けるのは無理かも、わたし1人なら」
ミズガラクタ号が上空に姿を現したのは、ちょうどその時だった。
「だけど、わたしの仲間に、あなたたちを助けられる人もいるわ」
リーザがそう言ったところで、近くに現れたザラ。
「ルカ、もう仮にあなたが嫌といっても、あなたたちのことは助けることになると思います。リーザ、姉上たちとの話はつけときましたから。我が国は《ルセドラ》と戦うわたしたちを全面的にバックアップしてくれます」
どうやら、リーザがもう決心していたことも知っていたようであるザラ。
「それじゃ船に」
「ま、待って」
船に戻ろうとした2人を、ほぼ反射的に止めたルカ。
この後にどういうふうになるかなんて彼にはわからない。
つまりもうここで、恩人となる彼女らと話せる機会は最後かもしれないから。
ひとつだけはどうしても伝えたかった。
「ありがとう」
もう、涙も抑えきれなかったルカ。
リーザもザラも、ただ何も言わないで、笑顔だけ見せて、今度こそ船と戻った。
ーー
ミリルは、今でもたった1人だけ生き残っている、自分たちの小さな国が、少なくとも自分たちにとっては平和だった頃からの仲間。
きっと信じられないくらいに低い可能性だ。
珍しい、永遠の少年と少女が、ごく小さな世界で出会い、助けあえた。
「ルカ」
部屋で、椅子に座って待っていたミリルは、かなり不安げだった。
もちろんのことながら、彼女だって賭けだったろう。
ただ彼女は、ルカよりも無謀で無計画で、そして勇気があった。
「きっと、ううん、おまえが正しかったと思う」
ルカは笑みを見せ、ずっと昔からの友達の隣に座った。
「あの人たち」
「ぼくたちを助けてくれるし、助けられる力を持ってる」
「そっ、か」
ルカの言葉に、ミリルも心底安堵した様子を見せた。
「なあ、ミリル」
ルカには今もわからないこと。
わからないから聞こうと思った。
「おまえはどこまで知ってるんだ?」
実のところ、それははっきり確かめたことはなかった。
別にあえてとかではない。
ただ本当に、単にそういうことに関して詳しく話し合う機会が、これまでになかっただけのこと。
かつて、幼いルカより、さらに幼かったミリル。
ルカが説明したことがあることなら、もちろん知っているだろう。《ケルベル》の星系は銀河系の一部で、その外に存在する国に支配されていることとかだ。
だが、広大なフィラメント構造やさらにその外、それらの科学技術がいったいどういうレベルにあるのかなど、詳しくは知らないはずではあった。
「ねえルカ」
質問に答えないで、ミリルはルカの肩にもたれかかった。
「いつでもさ、あなたが泣いてたのも知ってたよ」
彼の悲しみも悔しさも、彼女にはちゃんとわかってた。
ずっと一緒にいたから当たり前だ。
きっと……。
「わたしは、あなたほどお人好しじゃないしさ、それに強く生きれもしなかった」
「ミリル」
「本当にさ、ほんと」
顔を伏せてはいたが、その口元が笑みを浮かべているのは、ルカにはわかった。
「よかったね、ルカ」
そして、顔をあげたミリル。
ルカには、わかっていた通りに、素敵な笑顔だった。
ーー
ザラと一緒に船に戻ってきたリーザ。
「それでさ、どうするの?」
とりあえず聞いたスブレット。
「奪った敵の船を使って、いろいろ調べさせてもらったわ、敵の戦力。このミズガラクタ号を上手く使えば、正面からでも簡単に潰せる程度ではあるけど、正攻法だとさすがに時間的な問題がありそうよ。つまり犠牲をだしちゃうかも」
「正攻法以外にも方法が?」
「まあ、敵の武器的には、ある意味こっちの方が正攻法なんだけどね」
エクエスの問いにそう返し、リーザはザラの方を向いた。
「ザラさん、共鳴通信で、ちょっとメッセージを送ってほしい」
共鳴通信は、宇宙自体を1つの空間系として、揺れと言われる特殊な情報移動を利用した通信。
いろいろ制約は多いが、速度という点に関しては実質的には無限である唯一の通信技術である。
「そんなに遠いところへ?」
わざわざ共鳴通信を手段として指定するということは、そういうことだろう。
実際に、その送り先はとても遠い。
「遠いよ」
そして、一瞬落ち込んだような表情を見せたが、すぐに真顔に戻り、リーザは続けた。
「わたしの故郷宛てだから」




