32・玩具の強奪(悪党星系の少年9)
《ケルベル》だけではない。明らかに接続された全ての惑星に対して、種まきの切り裂きサイボーグたちは放たれている。
(クラーケ)
サイボーグたちを放ってきた戦艦の名前。
それはやはり《ヴァルキュス》で造られたものであり、リーザはよく知っている。
だから、すぐに結論できる。
それを使うのが一番早くすむ。
(急ぎだし、仕方ないか)
ブックキューブにいれておいた、《ケルベル》のデータの内、いくらか、今必要なものをチェックする。
(なら、これくらい)
そして、必要なだけ力を込めたその拳で、リーザは惑星の地面に衝撃を与えた。
ーー
「どうやら」
ミズガラクタ号の方で、そのことに真っ先に気づいたのはザラだった。
「惑星を、揺らしたみたいです。軽くといえば軽くですけど」
誰がやったかまでは、言わなくても全員わかった。
「どうやって?」
とりあえず聞いたスブレット。
「多分叩いて、いや、殴ってですかね 」
とりあえず答えはするものの、自分でちょっと信じきれていない様子のザラ。
「でもさ、それはもうその、何と言うか、力がどうたらって次元じゃなくて、その、物理的に不可能じゃない? 質量比率的に」
もっともであったミーケの疑問。
「構成粒子加速法を使ったんだろう。そういう技があるんだ。極めれば、生身の拳で星を粉砕することもできると聞いたことがある」
エクエスだけはやはり驚きもしない。
「まあ、それができるって事はいいとして、なんでそんなことをしたのかな?」
またスブレットの問い。
「それはおれにもわからん」とエクエスはまた即座に答えた。
ーー
そんなことをしたのは、お目当ての戦艦、クラーケの位置を正確に特定するためだった。
惑星を揺らすほど、構成粒子加速法を派手に使えば、それの警戒システムが作動すること。そして自分なら、その警戒システムの作動を感覚で逆探知できることを、リーザはよく理解していたから。
(見つけた)
すぐに、常人の目では確認できないような速度で、あっという間にそこへとたどり着くリーザ。
惑星の空に浮かぶその戦艦の下。
一旦立ち止まるや、さらに空を覆い尽くすような大量のミサイルが放たれてくる。しかしリーザは、それらが自分の所へと到達するよりも前に、さっさと跳び上がり、一見は扉には見えないような扉から、それの中へと入っていった。
ーー
《ヴァルキュス》の軍人相手に、《ヴァルキュス》産の兵器で戦いを挑むのは、とても愚かなことだ。
《ヴァルキュス》で造られる全ての兵器には、他国の者には決して明らかにされない、コントロールを乗っ取るためのものを含む、いくつもの特殊機能が存在している。
それら全兵器の全機能の全知識の把握は、兵士と認められる最低条件。
ようするに、そういう強力な武器の配布自体が《ヴァルキュス》という国の防衛戦術なのである。いざ相手に回した時に、戦う前から勝利する戦法だ。
最も、《ヴァルキュス》軍の兵がまさか"世界樹"にいて、しかも敵対するなんて、それを使ってる者たちも夢にも思っていなかったのだろうが。
「あなたは誰ですか?」
その中で部屋といえる唯一の部屋に入ってくるや、艦内に響き渡った人工知能の声。
「排除を」
「わたしは《ヴァルキュス》軍『アシェレ』、第3大部隊、第2小部隊のリーザよ」
それは彼女が《ヴァルキュス》を発った140年ほど前まで、副隊長の地位についていた部隊。さすがに副隊長の席は別の誰かに譲られているだろうものの、リーザは今でもそこに所属している扱いのはずなのである。
「し、失礼しました。リーザさま。ご命令をどうぞ、それとも操作権限を使いますか?」
ただリーザの素性を、その声で聞いただけで、一気に従順になる人工知能。
「操作権限を使うわ。αマニュアルモードにして。その後は、わたしが自分で全部やるから」
(ありがとう、フラゴさん、みんな、兄貴)
今必要な操作をしながらも、 軍隊内の自分の席を確保し続けてくれているのだろう、かつての部隊の部下たちや上司のことも、リーザは思いだし、感謝しておく。
ーー
「ザラ、ミーケ、リーザ。おまえたちなの?」
ルカにはまったく意味がわからなかった。
わかったのは、おそらく自分たちが助けられたということだけ。
唐突にどこかから、一斉に放たれてきた大量のビーム。それらは、細かく適切に、切り裂き魔たちをすべて、少なくともルカが確認できる限りは、すべての切り裂き魔たちを貫き、その勢いなのか、別の効果なのか、粉々にしてしまった。
「正確にはわたしだけよ」
いつの間にか、すぐ近くの空に来ていた、本来は敵のものなはずな戦艦から、飛び降りてきたリーザ。
そしてリーザは、唖然とするルカに説明するより先に、その戦艦クラーケの通信システムを介して、ミズガラクタ号とネットワークを繋げる。
「ザラさん、エクエスさん、クラーケという戦艦を1つ奪ったわ。それに関するデータ送るから。内部に今の持ち主に関する情報もあったからそれも一緒に」
〔「《ヴァルキュス》の玩具だったわけか?」〕
さすがにそういうことなのだろうと、よくわかっているようであったエクエス。
「まあそういうことね。あと、とりあえず今はもう終わったから、迎えに来て」
それから、通信を終えるや、ルカとあらためて向き合ったリーザ。
「何か質問があるなら答えるよ」
もちろんあるというか、ルカからしてみれば、聞きたいことばかりであった。
「あ、あのさ」
しかし、まずは一番気になっていることを聞いた。
「あんた、何者なの?」




