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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
31/142

31・空からの悪魔の収穫祭(悪党星系の少年8)

「まず、ルカって誰?」

 メッセージを確認するや、まず疑問の声を上げたスブレット。

「例のネオテニーの子です」とザラ。


「その後にどうするにしても、今は、おれは助けてあげたい。あのルカって人、悪い人じゃなさそうだったし」


 確かに、ルカはミーケを殺すことだって平気というようなことを言っていた。しかし後になって思えば、本気ではなかったろうと、なんとなく確信もできていた。


「ミーケ」

 ザラは迷っているようだった。


「ザラさん、今、《ケルベル》の星系に近づいてるっていう宇宙船の取得できるデータを見せてほしい」

「これだな」

 リーザがそれを聞いてくるのがわかっていたかのように、それの表示準備をすでにしていたらしいエクエス。


「この船も知ってるものよ。で、《ヴァルキュス》外じゃ、これが生身でも破壊できることは知られてないから、そうしても、これの持ち主は単に予期せぬ故障としか思わないのは確実」


 つまり、ザラが今危惧しているのだろう事態。外部からの介入が、それのせいで、《ルセドラ》の政府に伝わることはないと説明したリーザ。


「ザラさん、ミーケの言う通り、その後にどうするかには関係なく、今はわたし行ってくるよ」

「まあ、結局それがいいですね」

 ザラもそこで納得した。


「リーザ」

 何か言いたげなミーケ。

「あの、ごめんねミーケ。正直に言うと1人の方が全然大丈夫だから」

 今さら言われるまでもなく、わかっているようなことではあるが、あらためてはっきりそう告げるリーザ。

「いや、そうじゃなくてさ、こっちこそごめんね。結局きみに頼っちゃって」


 しかし、ミーケの心から申し訳なさそうな様子が、まるでとても面白いことかのように、リーザは、思わずというふうな笑みを見せた。

 

「ミーケ、そういうことならさ、わたしだってごめんだよ。あなたが、ザラさんやスブレットちゃんと専門的な話をする時に、話についていけないこと多くて、わたしほんとに情けなくて、申し訳ないと思ってるからさ」

「そんなこと」

「わたしたちはみんな足りない存在で、だからこそお互いの足りない部分を補うために友情があるんでしょう」

「無神論者のくせに」

 そこで、ミーケもようやく自然な笑みを浮かべた。


「いいの、だってあなたはとても信心深くて、わたしはその親友なんだから」

「うん、意味わかんないよ」

「実はわたしも、自分で言ってて意味不明」

 そしてまた、笑いあう2人。


「それじゃ、行ってくる」

 そしてリーザは、《ケルベル》の地上にまた降りていった。


「今のリーザの、足りない存在がどうたらっていうやつ、レトギナ教なのですか?」

 《アズテア》の王家は一応レトギナ教に属しているが、少なくともザラには、それに関する信仰心も知識もほとんどない。

「第3聖典、第234章の8節だね」

 ミーケほどではないと本人は言っているが、意外とかなり信心深いところがあるスブレット。

「正確には8節、アコーディオンの説教の第5だ」


 ミーケの言葉に、ザラもエクエスも呆れ顔をしたが、スブレットは素直に少し恥ずかしげであった。


ーー


 ルカもミリルも、そういうことが"世界樹"において、どれほど強く忌み嫌われていることなのかを正確には知らない。彼らの他の仲間たちにおいては、そういうことが、より大きな世界において本来は禁じられていること自体を知らない。

 《ルセドラ》どころか、《RR114》どころか、《ケルベル》が属する、全体から見れば本当に小さな小さな世界が全てである者たち。


 もうずいぶん前、彼の感覚ではずいぶん前からそう。

 ルカは自分の思い出にあるかつての故郷を取り戻すことなんて、すっかり諦めている。

 だけど、たとえどれほどそれが無駄なあがきに思えても、どうしても守りたいものがあった。


 ロタレイと違って名前は知らない。

 生身なのか、サイボーグなのか、ロボットなのかも判断つかないが、とにかく搭乗員を乗せた宇宙船。

 それは定期的にやってきて、おそらくはランダムに選んだ半分くらいの人口と多くの資源を奪い去り、代わりに、生物がまた繁殖するための種をまいていく。

 そしてその事実に関する、あらゆる情報は、《RR114》の外には決して出ないシステムが構築されている。

 さらに重大なこととして、その閉鎖システム銀河は、禁じられた性質の奴隷の他、禁じられた性質の大量の武器の隠し場所にまでなっているのである。


 前に来たのは250年ほど前。

 それは空からの悪魔。

 仲間たちを奪っていく謎の巨大機械と、そこから地上へと降りてくる、異常な雰囲気の何者かたち。


 毎回、各惑星に、少なくとも数千人ずつぐらいは現れる何者かたちの目的は、子種の植え付けである。

 技術の片鱗を完璧に隠すためなのか、それとも他に何か目的があるのかは謎だ。とにかく彼らは、一時的に女を捕らえては、死なないように調整をしながら体を素早く切り裂き、わざわざ内部の卵細胞に種を植えつける。つまりある意味で、ものすごく強引な受精法を強制的に実行するわけである。


 切り裂き魔たちの与える子種は、あるいはそれのあたえ方は何か特殊なようで、母にされたものは、それから死ぬくらいのエネルギーの負担があるほど、何人も子を産むことになってしまう。

 その哀れな母の死に様は、ルカにとっては恐ろしい光景であった。


 謎の引力で、質量を吸収する巨大機械がどうしようもないことは、ルカも完全に理解している。

 だが、切り裂き魔たちなら、多少は抵抗できる。


「逃げろ」

 いくつもある瓦礫の風景の1つで、今まさに切り裂かれそうになっていた少女にそれだけ言う。さらに地面に叩きつけた、その機械のような金属部品と、生身の人間らしき部分を、どちらも見境なく破壊するルカ。

「この」


 これまでの何度もの戦いからも知っている。

 彼らの根本的な部分はおそらく、金属であろう謎の物質でできた骨格のようなもので、それを破壊しない限り彼らはまたすぐに復活してしまう。そこら辺にある、例えば岩とか鉄とかを、骨格に適当にくっつけることで、また人の形に変わり、元のように動き出すのである。


「ルカ」

「メニリィ、よく聞け」


 メニリィも愛人の1人。

 ルカがこれほど愛人を囲うのは、彼女らの忠義の他に、実はなるべく敵、毎回充分に連れ去っていくためか、やたら女たちに子を産ませたがるどこかの誰かを、少しでも欺くためのつもりでもあった。

 つまり、ルカには愛人が多くいるわけだが、受精法によって彼女らに生んでもらった子供もかなりいる。最も親子という概念は、今はほぼない。


 本当にそうなのか確信はないが、種をもたらす切り裂き魔たちを破壊しても、敵はおそらく感知しない。しかしその切り裂き魔の毎回の数と、惑星の人口の相関関係から、敵が、子供の数を把握しているのはほぼ間違いないこと。


「こいつらはまだまだ湧いてくるし、広がる速度が早すぎて、ぼくだって全員を倒しきることなんて絶対できない。だけどなるべく倒さないと」

 そして、今にも泣きそうな顔で抱きついてきそうなメニリィを、優しくとは言えないだろう、押し方で突き放し、その場を去ったルカ。


 《ケルベル》においてだけでない。

 本人が考えている以上に、ルカは《RR114》で圧倒的な物理的強さを誇る存在。

 寿命がむしろ短く調整されている銀河において、その珍しい特異体質のおかげで長く生き、とても強くなれた。


(悪魔め、悪魔め。おまえらの好きになんてさせるもんか。絶対、絶対)

 長い時間と、その気持ちだけで、ルカは強くなったのだ。


ーー


 敵のその襲来は、だいたい200年から500年の間くらいでのことだから、今回はかなり早め。ルカはもしかしたら、ミーケたちという予期せぬ来訪者があったからかもと推測したが、それはある意味当たっていた。


(ロタレイの破壊のせいね)

 そうだと、リーザにはすでにわかっていた。


 そしてだとしたら、やはりリーザは来てよかったろう。その破壊の原因である彼女自身がもしもいなければ、おそらくは《ケルベル》の星系自体が消滅させられることになる。


(だけどこれ、妙な気配)


 それに最初に気づいてから、その内1体を粉々に粉砕するまで、1秒くらい。


「あ、あ、あの」

 おそらく、自分をとらえた謎の誰かと同じくらい、その誰かを瞬殺したリーザに怯えていた少女。

「心配しないで、あなたはもう大丈夫よ」

 恐怖の目で見られても、リーザはまるで気にしない。


 もう、少女が何をされようとしていたのかも。今、自分のいる星系で何が起きているのかも、ほぼ完全に彼女は理解する。


「あなたたちはもう大丈夫」

 リーザはすぐに、そう言いかえた。

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