29・ネオテニー(悪党星系の少年6)
「ミーケ、ザラさん。よかった」
再会するや、捕まっていた2人よりも、ほっとした様子を見せたリーザ。
「ねえ、これは単に好奇心から聞きたいんだけどさ」
ミーケらを自ら連れてきていたルカ。
「あなたたちには寿命とか、老化というものがあるの? それともそんなものなくて、姿形を自由自在に変えれるの?」
ミーケとリーザとしては、やや意味不明な感じの質問であった。しかしザラはまた、何か納得したようだった。
それこそ《RR114》のような、過剰なレベルでの情報操作がされている小領域を除いた、田舎惑星《フラテル》から《アズテア》のような国家まで、"世界樹"ならどこでだって常識であろう科学的事実。それをいくつか説明したザラ。
生命体の構造を成す各要素の絶え間ない変化。移り変わりこそが、ジオ系生物の最大の特徴。
それはこのジオ系という生命体群が、時間による変化に乏しい最下層の基底構造|(つまり基底物質)に左右されない、粒子|(素粒子)と呼ばれるエネルギーの集合体構造のみを基盤とした存在だからである。
物質粒子の集合体構造というのは、変化を起こしやすい。そしてそれだけでもない。ある特定状態を出発点とした場合に、調整なしでは、そこからのズレを大きくしていく、という法則もある。
それはよく、安定状態が崩れていく法則と表現されるが、その最終段階、安定状態の完全な崩壊こそ、生命体構造の終焉。つまり死である。
寿命とは、一般的には、調整を一切しない場合に、生命体構造の誕生から、その安定状態が完全に崩れ去るまでの時間のことである。
「つまり、わたしたちにも寿命はあります。もちろん私たちも、何も調整しなければ、やがて死ぬだけです」
老化、というより成長というのは、生命体構造の性質というわけではなく、生命体構造が作り出している性質である。表面的な要素物質を、構造体自体がある程度、自動的に変化させていく。生命体として必要な、様々な事象のコントロールシステムとも言える。
ただしそれも当然のように、今は、調整が容易に行われる。
「ここでは、どちらの調整も行われない。それでいておそらくあなたは、なぜかいつまでも、今の状態から成長というものをしないのでしょう」
ザラはすでにそれを見抜いていた。
「わかったの?」
そう、ルカは何も調整をしていないはずなのに、なぜか、かなり長い間ずっと子供のままの容姿が続いていて、かついつまでも死にそうにもないのだった。
「それって、永遠少年」
そういう現象があるということくらいは知っていたリーザ。
「て何?」
ミーケには初耳であった。
「ようするに調整なしで、いつまでも子供のまま成長しないという、特異な生命構造ですよ。この宇宙全体でかなり珍しい現象ではありますが」
実際、ザラも実例を目の当たりにしたのは初めてであった。
さらに子供の場合、安定の崩れが非常に鈍いから、結果的にネオテニーは寿命が大幅に長い。
「一応言っておきますけど、ネオテニーにも寿命はあります。ですが本当にかなり長いですから、例えばこの惑星の終焉の時にも、ルカ、あなたは生きてると思います」
ザラのその推測に対し、何も言葉を返さなかったルカ。
たださっきまでよりも、何か思い悩んでいるようだった。
「ルカくん、わたしの方でも、あなたに聞きたいことがあるのだけど」
短い沈黙を破ったリーザ。
「あなたがわたし相手に使った戦闘機、あなたはあれが何か知ってるの?」
「ぼくの理解の限りでは、あれはロタレイという無人戦闘兵器だ。もうずいぶん昔だけど、本国、つまりこの銀河を持ってる国、なんだけど」
「《ルセドラ》」
ルカが思い出そうとしてるらしい、その名をだしたザラ。
「そう、《ルセドラ》、それの軍から盗んだものだ。でもあれがどうした? このフィラメントじゃ、あんなの普通の兵器じゃ」
ルカだけでなく、ミーケも、ザラですら、それはそういう認識であった。
「普通でもないの。あれは多分あなたが思ってるよりもずっと危険な兵器だよ。もしあの1機だけじゃないのなら、もう使わないことね」
意味深な感じに、リーザはそれだけ言った。
「肝に銘じておくよ」
ルカも、その辺りのことは深く聞かず、ただそう返した。
「なあ、もうひとつだけ、もうひとつだけ教えてくれ」
そして、まっすぐザラを見て、ルカは聞いた。
「《ルセドラ》というのは、国家として強力なのか? 《アズテア》よりも」
「かなり確実に」
別にそれは隠すようなことでもない。
「国家としてのいかなる基準においても、アズテアよりは《ルセドラ》の方が強力だと思います」
ルカはまた何も言わなかった。
そして、もうそれからはミーケたちも何も言わず、とりあえずは彼と別れて、去っていった。
ーー
「ザラさん」
ある程度、ルカたちの基地から離れたところで、また口を開いたリーザ。
「わたしは、"世界樹"にあれが流れてきてるなんて思いもしなかった。さっきのルカくんが使ったロタレイって兵器ね。あれは少し古い型だけど、"世界樹"の外、というか《ヴァルキュス》で開発された兵器なんだよ、元はね」
ただ、輸出は別に禁じられていない。ヴァルキュスの基準ではそれほど強力な兵器というわけではないから。
それにそもそも、少なくともルカが用いたそれは、リーザが確認できた限り、いくつか機能が制限されている粗悪品だった。
「違法輸入ですね」とザラ。
"世界樹"というフィラメント全体で共通しているいくつかの決まりの1つ。
フィラメント外の国家からは、兵器に限らず、何かテクノロジー品を得ることは禁止されている。
「ここの予想以上にひどい状況といい、《ルセドラ》て国、 何か妙だよ」
ザラもミーケも、今や同じく、胸騒ぎがしていた。
「レコードの件は少し後回しですね。一旦船に戻りましょう。これまでわたしたちが掴んだ情報からでも、エクエスなら何か気づくかもしれませんし」
ザラの言葉にミーケもリーザもすぐ頷く。
そして3人は、一旦ミズガラクタ号へと帰還した。
ーー
ミーケたちが帰還するほんの数分くらい前のことだった。
ミズガラクタ号の方で、《ケルベル》に、正確にはそれを含む惑星連結構造の領域への、どう考えても遅れた文明の産物とは思えないほどハイテクで巨大な宇宙船の接近が感知されたのは。
「ここって確か文明が閉ざされてるんだよね? あれって、わたしたちみたいな変わり者の旅行者船かな?」などと適当に言ってはみるが、スブレットには、それがどの程度にありえそうな推測なのかもよくわからない。
「普通に考えるなら、《ルセドラ》の船だろうな」とエクエス。
さらにいくつかのデータを解析した後。
「いや違うかもな。信じがたいが、どこの玩具にしろ、元は"世界樹"外のものらしい」
エクエスがそう告げたのと、ミーケたちの帰還はほぼ同時刻だった。




