28・要求すること(悪党星系の少年5)
『キルディ』は、《ケルベル》と繋がっている惑星の1つ《フラミン》で、大きな勢力を誇っているギャング組織。『レデン』とは、友好的な関係とはいえないだろうが、明確に敵対しているというわけではない。
その『キルディ』からの使者であるカルアレという男を出迎えたルカは、メーシャという少女を連れていた。
「カルアレ、久しぶりね」
「久しぶりです、メーシャ」
メーシャはルカを慕う愛人|(を自称している1人)だが、元々『キルディ』のボスであるドロワーの妹でもある。
だから、使者としてやってきたドロワーの忠実な部下の1人であるカルアレとも普通に知り合いだった。
ちなみに、ルカが1人での面会を望んだザラに嫉妬していた2人の少女、怒っていたミシェルも、複雑そうだったエイミも、やはり自称愛人である。
「思い出話なら後にしてくれよ。カルアレ、おまえが直接来たってことは、何か重要な用じゃないのか」
ルカ本人はと言えば、 メーシャたちの自分へのその淡い思いを忠義心として利用するくらいには、冷徹な指揮官でもあった。
「それが、いくつか気になることがあって、あなたにそれに関する情報を、とボスから」
そして、"世界樹"の他のほとんどの地域では、とてつもなくレトロな遺物と思われてしまうような、立方体の記録装置をルカに手渡したカルアレ。
「おまえは、これの中身について聞いてるか?」
ルカのその問いに、カルアレはすぐ首を横に振る。
「そうか。で、他にもぼくに何か用があるか?」
「いえ、用件はこれだけです」とカルアレが答えたので、別に急ぎの用があるとばかりに、ルカはさっさとその場を去っていった。
「メーシャ」
「兄貴には、もしうちと戦うことになったら、別に容赦しないからねって伝えといて」
「了解です」
使者の役目を終えたところで、再び使者にされてしまったカルアレは、なかなかに苦労人な感じだった。
ーー
ミリルは、『レデン』という組織において、ボスであるルカの部屋に、勝手な出入りが許されている数人の1人。
そして、カルアレが持ってきた記録装置の情報を確認しようと、自室に来た彼を、彼女は待っていた。
「ルカ」
「ミリル、何の用だ?」
「大変なの」
そしてミリルは、来るかもしれないとは考えていたが、予想よりあまりに早すぎる襲撃者のことを告げた。
ーー
ルカが言うように、確かに発信器なんてもの、ミーケにもザラにもついていない。通信機はあるが、それはすでに壊されていた。
しかしあまり問題にもならなかった。リーザはその驚異的な感知能力を持って、人の気配を手当たり次第に探し、見つけた者から情報を得ては、確実に、ミーケたちが捕らえられている基地へと近づいていけた。
そしてリーザはミーケのことを、物理的にはむしろ、本人以上によく知っている。だから、基地近くで、数人の見張りを気絶させる頃には、もうその、呼吸や震えのリズムパターンを感知することで、彼の無事も確認していた。
さらに、すぐ近くに、おそらくは同じように捕まっている誰かがいて、ミーケにはまだ安心感も感じられたから、ザラが無事なのもほぼ確実。
2人の無事を確認し、怒りをだいぶ和らげたリーザは、あえて1人だけダメージを軽くしておいた見張りを起こして、捕まえた2人の解放という自分の要求を伝えさせていた。
「あなた、ルカね」
自分の前に現れた少年のことはもう知っていたリーザ。
「ボスが直々に交渉にでも来たの? けど、わたしは交渉する気なんてないわ。要求は変わらない、わたしの友達を解放しろ」
かなり淡々とした言い方だったが、要求というより、普通に脅しであった。
「あんた、名前は?」
聞きながら、リーザの周囲で倒れている、自分の仲間たちのことを気にしていたルカ。
「わたしはリーザ」と、名乗ったところで、ルカの視線の動きの意味も悟ったリーザ。
「大丈夫よ、誰も殺してないわ。ここに来るまで出会ってきた人たちもね」
とにかくミーケたちを返してほしいだけのリーザとしては、当然のことであろう。
「ここにどうやってたどり着いたの?」
「覚えとけばいい。人は鍛えれば、人を感知することができるようになるのよ。というか早くあの2人を解放しろって、質問ならその後に受け付けてやるわ」
それも脅しのつもりで、少し苛立ってきたような雰囲気を見せるリーザ。
「おまえ」
ルカはしかし、緊張しながらも、主導権は握ろうと試みた。
「まだあの2人はこっちの手の内なんだぞ。人質なんだ」
「それを言うなら、あなたが心配してるこの周りの人たちだってそうじゃない。言っとくけどわたしがその気なら、1秒もあれば、あなたも含めて皆殺しよ」
本当に、それが何でもない事のように言うリーザ。
「もし」
どういう感情からか、微妙な笑みも見せるルカ。
「もしぼくらが、そもそもあの2人を殺してたら」
「2人が無事なのはもうわかってる」
「仮にの話だよ。ぼくらがあの2人をもしも殺してたなら」
「そうね」
微妙に悲しげな表情で、リーザは問いの答えを告げた。
「あなたたちは後悔してたでしょうね」
さっきまでで1番くらいに背筋を震わせられたルカ。
リーザ。本当に彼女だけは、完全に特別な兵士のようだった。
「わかった。ぼくらの負けだ。あの2人は返すよ。ここに連れてくる」
ルカとしては、そう言うしかなかった。
「ここに連れてくるのにどのくらいの時間がかかるの?」
「30分はかからない」
「じゃあ待つわ。もし予想よりも長くかかりそうなら、早めに連絡してくれた方がいいよ」
「そうするよ」
そして、リーザを残して、その場を後にしたルカ。
ーー
実際、30分なんてかからないだろう。5分ほどで、ミーケたちのいる部屋まで来たルカ。
「どうやらさ、おまえたちの期待通りの展開だよ」
ミーケたちを縛るロープをほどいてやるルカ。
「リーザが?」とミーケ
「ああ」
別に悔しげな感じも、不満そうな感じもなかったルカ。
「ルカ、あなたは」
椅子から立ち上がるや、彼と向き合ったザラ。
「実際、何を要求するつもりだったの? わたしたちに」
「悪いけど、ぼくは、あんたらを信用して解放するわけじゃない。ただ恐怖から解放するだけだ。もうあんたらは開放して、それからは何もしないから、そっちも干渉はしないでくれ。何も聞かないでくれ」
そんなふうに言ったルカだが、ザラもミーケも、彼は何か迷っているような印象を受けた。
ーー
(文明的に封鎖された無法地帯に、ロタレイね)
ミーケたちを待ちながら、さっきまでは後回しにしていた、いくつかの疑問について考えていたリーザ。
(実は管理がある? それとも最近まで……?)
いったい今、この銀河、《RR114》がどういう状況にあるのか。
いくつか推測はできても、確信とまではいかない。
(嫌な感じ。気のせいだといいけど)
実際には気のせいどころか、リーザがいくつか推測していたどのパターンよりも、それは最悪の状況にあった。




