24・ガラクタ船改め、ミズガラクタ号(悪党星系の少年1)
《ルセドラ》は、"世界樹"において、最大級のものをいくつか含む、255の銀河系で構成されている国。
"世界樹"において、特に規模が大きい四大国の1つでもあり、特に一般的には、「最も感情に乏しい国」として知られている。
「平均的な"世界樹"の住人でも、わりと意外な事なんですけど、わたしたちは結構な感情主義者です」
「なんとなくわかるわ」
ザラの言葉に、一番はっきり納得したような様子を見せたのは、元はよそ者であるリーザだった。
それから、彼女の視線を受けて、なんとなく照れるミーケとスブレット。
エクエスも意味深に見られはしたが、さすがに彼は無表情をまったく崩さない。
「まあとにかく、《ルセドラ》が感情が乏しいと言われることが多いのは、その徹底的な国家優先主義ゆえです」
ようするに《ルセドラ》は、国全体の利益をひたすらに追及してきたことで、"世界樹"で最大規模にまでなった国。普通はこのような国は、"世界樹"ではあまり好まれない。ゆえに敵が多くなりすぎるため、普通はあまり大きく発展できないものだが、《ルセドラ》という国は特例すぎた。
「異質すぎたと言ってもいいですね。この国の発展は、実質的に言うと自力なんです。他国との関係を完全に度外視しても大丈夫な内部システムが、この国の中には出来上がってるわけです」
簡潔に言うとそれは、ごく一部の圧倒的優遇である。
実のところ、《ルセドラ》を構成している255の銀河系の内、 しっかりと法治国家の場として機能しているのはたった4つほど。
では、他の251もの無法銀河はいったい何なのかと言うと、一方的に搾取される関係にある、早い話が植民地、もっとはっきり言うなら奴隷銀河なわけである。
「賢いのか愚かなのかは微妙にわからないのが、文明のコントロールです。4つの主要銀河は、この251の他銀河の文明水準を非常に下げることによって、自然な形での搾取を実現すると共に、反乱を防止しているらしいです」
しかしザラの国《アズテア》も、《ルセドラ》とは国交を持ったこともないので、あまり明確な情報はない。
「でももしそんな方法をとってるなら、確かにそれも嫌われてる一因になるよね」
とりあえずミーケの感想。
「むしろそんなのよく滅ぼされないね。確か四大国でしょ。そこらの小国はともかく、他の3国はそれを潰そうとか思わないの?」
特に興味がないことなのか、あまり深くは考えてなさそうなスブレット。
しかし確かに、《ルセドラ》の方法では、"世界樹"においては一番の悲劇であろう、教育の問題による研究者の死滅が頻繁に起こりうるだろう。
どんな知的好奇心を持つ者であっても、低い文明水準の中で長く生きていれば、何も知らずにいることも普通になってしまう。そしてそれは結果的に、ある科学的研究の発展を止めてしまう。最悪は、忘れ去ってしまうことにつながるのだ。
科学者たちのフィラメント"世界樹"では、そういうのはまぎれもなく悲劇なわけである。
「まあ、放置されてる理由に関して推測はできます。危険視された者たちの追放先の確保とか、大規模な生体や社会の実験場とか、とにかく他の3国にもメリットがあるのでしょう」
しかし推測はするも、確信できるような理由は思いつかないのか、ザラも多少不可思議そうにはしていた。
「そういうのもあるだろうが」
そこで気まずそうな感じを見せながらも、口を挟んだエクエス。
「一番の理由は、単にそれの恩恵を受けてるからだ。今や《ルセドラ》だけでなく、四大国の全部がな」
四大国。
《ルセドラ》の他に、《カトメド》、《イシュキル》、《アニデラ》という国々。
そして、まだ他の3国がなく、《アニデラ》だけがあり、それが"世界樹"で最大の国と呼ばれていた頃を、エクエスは覚えている。
彼以外のほとんどの者にとっては、それでもすでに大昔のことだろうが、彼の長い人生を基準に考えると、少し前のことにすぎない。
「《ルセドラ》は長い間、自分たちの方法を隠していた。そしてそれが明るみになる頃には、同じ時期に台頭していた2つの強国、つまり《カトメド》と《イシュキル》はすでに、水面下で《ルセドラ》との繋がりを持っていた」
そして《アニデラ》も、3国がかりのプレッシャーに勝てず、結局は《ルセドラ》と手を組み、その大量の奴隷たちの無法銀河群の恩恵を受けることになった。
「つまり、その251の無法銀河は、四大国を長く維持していくための必要悪ってこと。もっと起源をたどるなら、好奇心と欲望のために 、国家という体制を許したがゆえに出現した、このフィラメントの癌ってわけだ」
そういうふうにエクエスは表現した。
「まあでも」
エクエスはさらに続ける。
「そういうの自体は、単にこの宇宙にありふれてる悲劇の1つにすぎないよ。ただ目下、おれたちの問題は、レコードがその《ルセドラ》の無法銀河の1つ、《RR114》にある可能性が高いってことだ」
そこは実質的に、"世界樹"で一番危険な場とも言える領域。
そしてなぜそこにレコードがあるのかと言うと、それはまた単純な話。
カーライルの子孫の1人で、かつレコードを受け継いでいた可能性が高いラリーが、9万年ほど前に消息を絶ったのが、その《RR114》という銀河なのである。
「仮にもうあいつがそれを持っていないとしても、例えばそこの誰かに託してるとか、誰かに奪われてるのだとしても、あそこなら外に持っていかれる可能性は低いと思う。だからまだあるはず」
エクエスはそう結論した。
ーー
ちょうど危険な地域に行くことだし、乗り物には、設計の達人でもあるスブレットのアイデアも加えて、完全に実用化させたガラクタ船を使うことにしたミーケたち。
そういうわけで、また1週間ほど、《アミデラス》で過ごした後。いよいよその船、新たにミズガラクタ号という、かなりそのままな名前を付けた宇宙船で、一行は出発した。
船の新しい見かけのデザインは、スブレットが考案した、三角ぽい本体ボディに、ある程度自由な可動式になっている、それぞれ細長い直方体、円盤型、三日月型の3つのサブボディがくっついているというもの。以前と変わらず、おそらく一般的には、ややヘンテコと言えるような形。
いちおう全体的に速度重視の流線型か細長い円錐型。あるいはカムフラージュ機能の効率を最大限に高めた平べったい円盤型への変形機能も備わっていて、実は扱い方によっては、さらに幅広い形にもなれる。
推進エンジンに関しては、メインの変換水エンジンは、ミーケがいないと長期間は使えないため、他に超光速粒子エンジンと、反物質エンジン、汎用原子力エンジンもつけた。
ザラは、全体的なエネルギー効率の問題から、サブエンジンは1つがいいと考えていたが、リーザは汎用性を高めるために3つがいいと提案。さらにスブレットが、それぞれのエンジンがあまり干渉しあわないですむような、見事な設備構造を考案してくれたこともあって、3つ構成となった。
そして、質量探査や通信波域などの一般的な有人宇宙船システムに加え、合わせて4つのエンジンとの相性や兼ね合いも考慮した、特殊コントロールシステムも付けられた。平面空間操作、空間跳び、重力再現の3つ。
また、防御システムは、他のシステムと組み合わせることで、結局ありうるすべての攻撃に対抗できるので、標準的な粒子波動式のシールドのみ。
船につける装備は、最低限必要だろうというものをミーケたちも含めた話し合いで決めた後、搭載可能な残り質量をスブレットとザラが算出し、残りはリーザがすべて決めた。
基本的にリーザには武器を選んでもらうはずだったが、彼女は、17段階のレベル調整と各々いくつかの方式によって性質などを変えられる加速式銃いくつか、レーザー砲、フォースコントロール砲を付けた時点で、もう武器は十分だと告げた。
リーザはさらに、その余裕がある以上は、戦略的に絶対つけたほうがいいと、残った多くの容量を存分に活用し、光帆、時空点シミュレーター、高機能デコイポッドを追加させた。
この時点でも、まだいくらかは搭載できる余裕があったが、今後追加が必要になる可能性もあるだろうので、ひとまず残りは空きとしておいた。
そうして、完全に起動可能となったミズガラクタ号で、アミデラスを発ったミーケたち。
何度か、テストも兼ねた、テレポートを利用する超光速航法を利用したくらいで、基本的にはあまり大きなエネルギーも使わない移動。
目的地の銀河|《RR114》に到達したのは、出発からちょうど1日くらいであった。




