20・最終防衛エリア戦(自分の世界でひとりぼっち6)
人工惑星というのは、大まかに2つのタイプに分かれる。
かなり自然下での生成物を意識されている、その見た目だけなら、人工的に作られたものだと判断しようがないようなタイプが1つ。
もう1つは、惑星と定義できる条件を備えてはいるが、明らかに機械的な要素が見られる、はっきり人工だとわかりやすいタイプ。
《ボロン》は後者だった。
というか、それはもはや、人工だということを隠す気が完全になかった。
表面は滑らかな合金に覆われていて、明らかに人工の金属森があちこちにある。それ以上に、惑星中に張り巡らされた線路上を、メンテナンスマシンだろう巨大な三角が動きまくっている。
惑星に着陸する前から、分析によって見つけだしていた、おそらくは彼女、スブレットの家。
それは、大きさや見た目は、そのまま一軒家であるが、実質的にはエネルギー施設と研究所が合わさったような施設。
そしてその家から数百メートル程度離れたところに、ザラは宇宙船を着陸させた。
「ここまでの守備は上手く回避してきましたけど、ここからはどうしようもありませんね」
素材は合金ではあるが、その感触は土と同じようになるよう調整されている地面に、ペイント銃で線をつけたザラ。
「この線は、彼女の最終防衛エリアのボーダーラインです。 ここを越えた者には、今は透明化して待機してるセキュリティロボットの攻撃がお見舞いされます」
「そのロボットってどのくらいの強さ?」
ミーケが聞く。
「実のところわかりません。データが少ないので本当に解析しようと思ったら、かなり時間がかかります。そもそも、ここまであの家に近づけたのも、多分わたしたちが初めてです」
そして、ザラとミーケが緊張を高める中、さすがに、余裕そうという感じではないが、別に怯えなどもなさそうなリーザが、線のすぐ前まで歩みよる。
「リーザ」
「大丈夫なの?」
彼女に同時に声を投げたエクエスとミーケ。
「任せて。こういう、あまり広くない領域での戦いなら、コンピューターの解析よりも、人の技術の方が役に立つ場合があるの」
ただそうとだけ言って、何かを探しているかのように、ボーダーラインの先の家の周囲のエリアをじっくり見渡すリーザ。
ミーケとザラはぽかんとしていたが、エクエスは何かに驚いているようだった。
「リーザ、もう聞こえてないか」
そう声をかけるが、聞こえていないようであるリーザに、エクエスは苦笑いする。
「これはすごく集中してるってこと?」
エクエスに聞いてみるミーケ。
「集中というよりも、余計な情報のシャットダウンに近い」
相当な量の訓練を必要とする。感覚器と神経系を意図的にコントロールし、感知した時点で、自分や特定の対象に、危険も大きな影響もないと無意識で理解した情報を、意識の領域からはじき出す技術がある。
「この子は3000歳くらいなんだろ。そんな年でこんなことが可能だなんて。多分、相当な才能があって、かつかなり幼い頃からの徹底的な軍事訓練が必要だ。この子、何者なんだ?」
「えっと、"世界樹"に来る前は、どこかの国の軍人だったって噂なんだけど」
しかしミーケもそれ以上は答えられない。
「なんか、あまり触れてほしくなさそうなところみたいで、昔のことは。だからあまり聞いてないんだ」
「まあ、そうか。"世界樹"の田舎惑星に来たなんて。いろいろあったんだろうな」
納得しつつ、なぜかますます驚きを高めたようであるエクエス。
「ですけど、それほどに集中していったい何を?」
今度はザラが聞く。
「まさかロボットのハイ出力を確かめているわけではないですよね」
だが真っ先に考えられる可能性といえばそれだった。
ロボットがどれくらいの強さがわからないから慎重になっていたザラたちに対して、リーザは「任せて」といった。
しかし仮に彼女の解析能力が(それは絶対にありえないが)高性能のコンピューターをはるかに上回っているのだとしても、彼女はそもそも、ロボットの素材や構成などに関しての理解が十分でないはず。
考えられるとしたら、彼女が周囲の環境などから、経験と感覚的に、この宇宙のいかなる素材のものであろうが、実現できる限界の動き、つまりハイ出力を察知できるという可能性。
物質が可能な限界の動きは、そのまま限界の強さとも言える。確かにそれを察知できるなら、実際に戦闘する場合におけるリスクを、事前に確認できるに等しい。
「普通にそのまさかだと思う。他にこれほど集中する理由は考えられない」
エクエスはあっさりそう言った。
そして次の瞬間だった。
軽く跳んで、ボーダーラインを越えたリーザ。
(2体)
そもそも早すぎてよくわからなかったのだが、もししっかり見えていたとしても、ミーケたちには、まるで単独演武でもしているように見えたろう。
透明な状態のまま襲いかかってきた2体の、手足が細長い人型ロボットの攻撃。それをリーザは、目にも止まらぬ速度で次々かわしながら、何度かは軽く、拳や蹴りで反撃もする。
(呼吸ちょっと乱しちゃった。さすがに久々だもんね、なまってて当たり前か)
一旦後ろに跳んで、ボーダーラインの外へと逃れたリーザ。
ロボットたちは完全に、ボーダーラインの内側の者のみ攻撃する仕様のようで、リーザが外に出た途端に、動きをピタリと止めた。
「ふう」と一息ついて、まっすぐ立つリーザ。
(す、すごい)
(なんて、強い)
ミーケもザラも、つい先ほどのほんの数秒だろう攻防に、あんぐりと口を開けて、なかなかまぬけであった。
(視覚に頼らずに(どうせ頼れないのだけど)空気の動きだけで透明な敵の動きを完全に見切ってた。しかも、敵の装甲の硬さを見越して、自分には衝撃を受けないようにした慎重な反撃をあの速度で。リーザ、おまえ、ほんとにいったい、どこの誰だよ)
ミーケたちに比べると、かなり冷静な感じだったエクエス。
ーー
スブレットはそもそも、自分の家の周囲に来るまで、全ての防御を回避されたことにも、かなり驚かされていた。
どうやら、カミーラのメッセージにあった通り、それまで彼女のもとにやってきていた雑魚共とは一味違うらしい。
ただ、たった今、堂々と防衛ラインを越えてきて、守護兵として置いている戦闘ロボットの攻撃を、普通の人間ではありえないような速度でしのぎきった少女という衝撃は、それまでの比ではない。
(何よ、何なの、あの女は。何の化物よ)
さっきのわずかな時間の戦いは、スブレットもしっかりモニターで見ていた。
リーザに関して、まったく何の情報も持たず、エクエスの解説もない彼女の驚きはとてつもない。
(わたしとそんなに、いや違うだっけ)
また、別のモニターを用意して、カミーラのメッセージを再び確認するスブレット。
(トマテクスの記録か、何よ、レトロマニア?)
それから彼女は、2つのモニターのどちらからも目を離し、 部屋の隅にあった、壁一面に備え付けられていたクローゼットを隠していた、壁の表示を消した。
さらにほぼ同時に、自身のワンピースに何か文字を書くような動作をする。それは自身の服に備わっている切り替えシステムを起動させるためのもの。布地がスブレットの体の表面を二次元場として、ねじれながら別の素材に変わっていくような変化をしていく。
そして数秒程度で、その着ていた服装は、短パンにスパッツを合わせた動きやすそうなものに変わる。上衣もシックな感じの白黒服に、妙にカラフルなマフラーを合わせていて、すっかり印象を変えている。
(ううん、バカみたい。あいつらただ、わたしが持ってる記録をほしいだけなのよ。別にわたしは)
そしてスブレットはすぐ、クローゼットを隠す壁の表示を戻したが、服は戻さなかった。




