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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
18/142

18・今は学園外(自分の世界でひとりぼっち4)

 まるで壁の役割も果たしているような岩石地帯に囲まれた着陸広場。

 宇宙船から出てくるや、ザラはすぐ近くの球体の移動装置に乗り込む。

 そしてその場から、なんとか目視できるくらいの距離にあった巨大施設へと、飛んでいく。


 巧みな慣性コントロールシステムにより、素早く移動する球体の中で、ザラはわずかな揺れすら感じなかった。


ーー


 巨大施設に入って、球体はそのまま、ザラセニタ宛にメッセージを送ってきた女の前で止まった。


「とりあえず、さっそくひとつ聞いていい?」

 まだ球体から出てきてもいないザラに質問した女。


「いいですよ」と球体から出てきたザラ。

「わたし、まだ何もあなたに伝えてなかったのに、なぜ、それに乗ってほしいってことわかったの?」

「簡単に言うと、あなたのメッセージを逆探知した情報から、ネットワークを探りました」

「わたしはあまりネット関連のことは詳しくないのだけど、それは多分簡単なことではないわよね。王家の特別技術とか使ったのかしら?」


 どうやら、地質学者ザラセニタが、一国の姫であることも、しっかり知っていたようである女。


「『学術委員会』の技術です。これでもわたし、立場がかなり上の方なので、いろいろ使用できる権限もあるんですよ」

「そういえばあなたは委員会の幹部でもあったわね。その若さで大したもんね。わりと真面目に、教師にスカウトしたいんだけど」

「そういう話に関しては、さっさとはっきり言っておきますけど、興味ありません」


 ただ、女の言葉の感じから、ザラはなんとなく、あることを察した。


「あなたは教師なんですね。わたしに見てほしい研究があるということは、担当は地質学ですか?」

「そうよ。まだ名乗ってなかったけど、わたしの名前はカミーラ。大学では地質学教師をしてます。そして」


 ザラの前に、1枚の紙を出現させたカミーラ。

 そこには小さな文字でびっしり、赤色の土が発生しうるパターンについての研究の報告が書かれていた。


「それがあなたに見せたかった研究。で、それを読んでもらったらわかると思うんだけど、赤色の土に関する仮説を立てたのはいいんだけど、シミュレーション結果の資料がわりと不十分なの」

「そういうことですか」

 そこで、自分が呼ばれた理由は完全に把握できたザラ。


「シミュレーションの構築ですね」

「ええ、わたしはわりとあなたのファンでね、世間的にはマイナーな、シミュレーション構築論の論文も読んでるの。地質学者で、かつシミュレーションのエキスパート。まさしくあなた、わたしが今求めている人材よ」


 ミラとエルクスから引き継いだ研究自体は極秘にしている。しかしその副産物としてのいくつかの研究成果に関しては、ザラは普通に公表している。

 シミュレーション構築に関する論文も、そういうものの1つであった。


(これなら、あまり時間も取られないでしょうし、ちょうどいいですかね)

 ザラにとっては、カミーラの研究に必要なシミュレーションは、あまり複雑でも、大規模なものでもない。


「いいです。それじゃ少し手伝ってあげます。ただし」

「あなたの方のお願いね。もちろんいいわよ。わたしに可能な限りで協力はする」

「ありがたいです」

 ものわかりよい女教師に、ザラは笑みを見せた。


ーー


 ミーケは、宇宙船から出てくるや、ブックキューブの一時データ用予備メモリーにすでに入れていた、カルディラ大学の案内図を、手元に表示させた。


「ジオ暦時代研究室に行くんでしょ」とリーザ。

「うん。まあ、わかるか」

 頷くミーケ。


 最初のきっかけは、単に失われた水に関するかもしれない記憶への興味だった。しかしそれについての独学研究を進めるうちに、《地球》というものが存在していた太古の時代のこと自体にも、ミーケはいつしか強い関心を抱くようになった。

 リーザもそのことをよく知っている。

 《フラテル》では、ミーケはそういう興味あることに関して、何かを発見するたびに、実に楽しそうにリーザに語っていたから。


「研究室は第一惑星。軌道(きどう)エレベーターで直接行けるみたい」

 着陸場に置かれている、粒子コンピューターのひとつを起動するミーケ。そのための動作は、空中に数文字程度の文字を書くかのようである。


 軌道エレベーターは、惑星間昇降機(エレベーター)の総称。現在では、単に軌道エレベーターと言った場合、 設定されている目的地に応じて、その時々に最適な軌道を用意する、電磁気通路エレベーターであることが多い。


 粒子コンピューターは、原子か、あまり大きくない分子1つを核とした構造の、たいていは0.00001メートル以下のサイズのコンピューター。着陸場を飛び交っていたものは、やや大きめな、0.0001メートルほどのものだった。


「とりあえずエレベーター呼ぶよ」

 手元にコンピューターの操作パネルを表示させ、それに手で触れたミーケ。


 そしてミーケが告げてから、ほんの数秒程度の後。

 上空に現れ、そこからはまるで普通の宇宙船のように、適当なエリアに着陸してきた、5メートルくらいの高さに、10メートルくらいの幅の箱。

 その扉は何もせずとも勝手に開き、もう操作の必要はなくなったので、粒子コンピューターを停止させたミーケ。操作パネルもすぐ消えた。



「外からのお客さんね」

 ミーケらを見て、すぐにそうだと気づいたらしい、エレベーターから出てきた少女。


 さらに彼女は、リーザを一瞬見てから、 一瞬とはとても言えないくらいの時間、ミーケを見た。

 そして、まったく予想だにしない質問をいきなり投げてきた。


「あなたたち、恋人かな?」

「あ、いや、友達だと思うけど、普通に」

「う、うん」

 ミーケの言葉に、リーザもすぐ頷く。


「ふうん、そっか、そっか」

何か楽しげに頷き、彼女は2人の間をすり抜けて、おそらくは彼女自身のものだろう、小型の宇宙船に乗り込んでいった。



「さっきの子、なんか、いきなりだったね」

 エレベーターに入ってすぐ、リーザが言った。

「うん、ほんといきなり」

 苦笑いのミーケ。


「なんで、あんなこと聞いたのかな? どうだと思う?」

 ほんの少しばかり恐さもあったが、好奇心に勝てず、そんな問いを投げてみたリーザ。

「えっと、あくまでも推測だよ、推測。"世界樹"じゃ、 普通に大好き同士って感じの恋愛には興味がなくて、ただ身体的な触れあいや接続、それに関係してる作用とか快感には関心があるって人も多いらしくて」


 リーザもそれは知っている。

 だからこそ"世界樹"では、容姿を調整しにくい受精法があまり好まれないという話すら聞いたことがある。


「で、そういうことに慣れてる人たちの中にはさ、ちょっと見ただけで、その、体の相性とかがわかるって人もいるらしいから。だから、つまりそういうことだったのかも」

 そんなことを言うのに、なるべく平静を保っているようで、しかし恥ずかしさを隠しきれていないミーケ。

 そんな彼に、なんとなくリーザはほッとする。


ーー


 学園のものでなく、自分が胸ポケットに持っていた小さな薄い板のような見た目のコンピュータを起動させたザラ。すぐに、指で動かせるような歯車がいくつかついた操作パネルが表示される。


「それで、お願いていうのは、多分何かの記録よね」

 これから作業しようというザラに構わず、確認してきたカミーラ。


「そうですね、具体的にはこの学園の創始者であるミィンの父トマテクスが持っていたはずの、彼がしょぞ」


 ミィンかトマテクスか、その両方か、とにかくその名前を聞くや、何か明らかに気まずい感じなカミーラに、ザラは言葉を止める。


「あ、いや、 別に、続きを話して」とカミーラは言うので、ザラはあらためて話した。


 自分たちが求めているのは、ミィンがトマテクスから受け継いでいた可能性がある、『水文学会』という組織の研究成果を保存したレコードの欠片であること。


「ミィンに継がせた。ということは、それはおそらく重要と考えられていたものなのよね」

「そうだと思うからここに来たわけです」

「そういうことなら」


 そして、少しばかり申し訳なさそうな感じで、カミーラは言った。

「それはもう、この大学にはない可能性が高いわ」

「ですけど、行方に関して、まったく知らないわけではなさそうですね」

「ええ、ミィンは、トマテクスから受け継いでいたものも含めて、大事な記録は、彼の弟子の1人に継がせたらしいの。それからその記録はいろいろな人が継いだけど、だいたいの時代において、この学園にあったみたい。だけど」

「今は学園外の人が、その記録を受け継いでいるというわけですか?」

「ええ」

 頷くカミーラ。

「元々は彼女も、というか、300年くらい前までは、ここの学生だった子です。スブレットという名前なのですが」


 さらに彼女は続けた。

「とても優秀な子でした。ザラセニタ博士、科学者としての資質はあなたより上だと思います。ただいろいろ、人付き合いが苦手な子で」


 そして次に発した言葉で、カミーラが気まずそうになっていた理由がザラにもわかった。


「えっと、問題起こして、ここを退学になってからはずっと、《ボロン》という自作の人工惑星でひきこもっているんです。で、彼女が受け継いでいたミィンの残した記録も全部持ってっちゃってるの」

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