17・カルディラ大学(自分の世界でひとりぼっち3)
1週間ほどで、リーザとザラも地下から出てきた。
「完成したの?」
とりあえず聞いたミーケ。
「まだだけど、後はプログラムがシステムを有効化するのを待つだけだって」
リーザが答えた。
「ちょうど少し前に、シェアラ姉さまが、《ラスミ》の通行許可をとってくれたようなので、とりあえずはカルディラ大学の方に行きましょう。帰ってくる頃には、すべて完了していると思います」
そう言いながら、もう宇宙船のドアを開けたザラ。
そうしてミーケたち4人は、宇宙船で、カルディラ大学に向け、飛び発った。
ーー
「ここは密集地帯な方なの?」
宇宙船の窓から確認できる光景に対して、ミーケが抱いた疑問。
《ラスミ》の巨大岩石惑星の数々と、その間をブロックのように繋がりあう小惑星群。
宇宙船も、星と星の間を飛んでいくというよりも、むしろ巨大な1つの星のトンネルをくぐり抜けていくというような感じだった。
「"世界樹"ではそうですけど、ジオ系の領域においては、これは普通ぐらいですね」
ザラの答。
「やっぱりそうだよね。わたしも、最初"世界樹"に来た時は、空洞だらけで驚いたもん」
それどころか、実は透明な星が大量に存在しているのではないかと、リーザは真剣に疑ったほど。
「多分、宇宙全体で言ったら、ここでもまだまだ空洞があるほうだ。 いや正確には、生命体がいる全領域ではだな」
さらにエクエスは説明する。
大災害によって、物質の性質が変わった時。
素粒子同士を結びつける力は、それ以前に比べて、相対的に高まった可能性が高いこと。それが結果的には、密集した固体物質の領域を、宇宙のあちこちに形成したこと。
「いろいろ複雑な過程を経て、空間自体も縮こまったって説も昔はあった」
しかし、それに関しては、現在の知見から言うと、かなりありえなさそうなこと。
実際には、 宇宙のあちこちで、そこに生きている知的生物たちが、それぞれ「我々の領域」としている巨大物質構造が、それ以前に比べて極度に圧縮されたのだと考えられている。
「領域同士の間がどうなっているかは、今も知りようがないが、そもそもそこに大きさとか距離とかいう概念があるのかも怪しい」
「それって真空? 本当にあるものなの?」
そこで質問を挟んだミーケ。
もしも完全に異なる時空間の宇宙なんてものを想定しないのなら、唯一の宇宙の中に、それぞれ普通には干渉しあうことができない、いくつもの領域が存在していることは確かであった。一般的には、それらの領域の間には真空、つまりは真に空っぽな空間か、何らかの物理的障壁があるとされている。
「あった方がいろいろ説明しやすい」としかエクエスも答えられなかった。
ーー
「着きましたね」
ザラがそう言った直後くらい。
密集しあう岩石惑星のトンネルを抜け、ずいぶん開けた領域に出てきた宇宙船。
恒星の周囲で、一定間隔ごとに、岩石惑星が7つほど公転しているだけの星系。
「ここがカルディラ大学?」とリーザ。
「はい」
ザラはすぐ頷く。
「力学的にかなりありえない構成になってるな。なかなか面白いな」
エクエスの感想。
「《太陽系》に似てる?」
そうでないかとミーケは思う。
「《太陽系》かはわかりませんが、そういう感じの星系を、ある程度は意識してはいると思います」
そこで、何かに気づいたザラ。
「とりあえず招いてきてる人がいますね」
誰かが船に誘導信号を送ってきていた。
ーー
別に強制力があったりするわけじゃないので信号など無視できるが、今の段階ではそんなに警戒することもないだろう。ザラは普通に導かれるまま、恒星から4つ目の岩石惑星に、宇宙船を着陸させた。
「学生なのか先生なのか、そもそも誰か知らないですけど、わたしのことを知っている相手みたいですね」
着陸と同時に送られてきていた、[地質学者ザラセニタに、是非見てもらいたい研究がある]というメッセージ。
「相手自身や、その出方にもよるでしょうけど、わたしはこの人と少し話をしてきます」
「ザラ、おれもちょっと出歩いていいのかな? 別に問題ない?」
ザラが宇宙船から出て行ってしまう前に、一応確認するミーケ。
「別に構わないと思います。ただ何か、どうすればいいかわからないって状況になったら、連絡ください」
ミーケたちはザラから、普段は分子カプセル状態で体内に保管できて、場合によっては目に見えるスケールに出現もさせられる、クートエンデ王家特製の通信機を渡されている。
「では、わたしは行きます」と先に船から出ていったザラ。
「ミーケ、わたしも行くよ、いいよね?」
「うん、行こう、一緒に」
そうして、ミーケはリーザと一緒に出ていった。
そういうわけで、1人、船に留守番となったエクエス。
(ミィンが作った大学か)
窓から、まるごと全部らしい、学校星系の空を見る。
(しかし、これはどう考えても……)
《太陽系》に似てるのでないかと、ミーケは主張したが、見た目はともかく質量比的にはまるで違う。
その点で言うと、似ているのは《クルク》という恒星の系。かつて"暗い太陽"というフィラメントの中で、最も進んだ機械文明を有していた、もう名前も忘れた銀河系の地方都市。
(あいつは)
トマテクスから聞いていたのかもしれない。《クルク系》は、『水文学会』の初期拠点のあった星系のひとつ。
偶然でないとするなら、ミィンは知っていたのだろうか。
エクエスが、あるいは彼でなくても、誰かが例のレコードを求めて、やがてここに来ること……