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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
16/142

16・彼の名前は思い出せない(自分の世界でひとりぼっち2)

 船内にある動力源は、まるで古くさい家に備わった暖炉のような見かけであった。

 そこにザラが用意した人工水。

 ミーケは、すでに判明していた手順に従って、それをしっかりコントロールし、見事にそこからエネルギーを抽出することができた。


 原理としては、そんなに複雑なものではない。

 それはようするに、あらかじめその役割をプログラムされた粒子マシンが、水の回転動作率に応じて、そこから物質エネルギーを抽出するというもの。

 ただし、おそらくはセキュリティの問題か、かなり繊細なコントロールで、循環の経路を確定する必要がある。そうしないと、粒子マシン自体が回転を妨げる障害となってしまうのだ。

 人工水の維持システムと併用できないのは、そのような、細かな操作であったが、ミーケはそれができたわけである。

 また、抽出されたエネルギーは直接、船の動力となる。

 その利用可能な動力エネルギー自体は、ある程度の貯蔵(ストック)は可能。だから、別にずっとミーケのコントロールが必要なわけでもなかった。


ーー


「だがこうなると、やっぱりこれは大災害前のものだろうな」

「はい、水を動力に変換するエンジン自体は、それがありふれてる世界でなら、かなり納得のいくものです」

 エクエスもザラも、もうそこはほぼ完全に確信しているようだった。


「けど、起動させることができたのはいいけど、この船はいったい、今普通にあるようなものと何が違うの?」

 ミーケの疑問。


 メインの素材がテミスフィア製というのは、 今となってはそこまで大きく長所でもないだろう。確かに量産できるようなものではないだろうが、決して理論上だけの仮想兵器などではないはず。


「いや、ミーケ、これは」

 リーザは、さすがにそういう面では知識が深い。その船がどれほどに優れたものなのであるか、しっかり理解することができたようだった。

「ザラさん、もしかしてこれに備わった水のエンジンなら、ハイ出力を出せるの?」


 ハイ出力は、その時々の環境下で、ある1つのものとしてみなせる物質の集合体が可能な、最大速度の動きを実現するための動力の強さ。

 そして、その原理の詳細は知らずとも、テミスフィアを素材に用いたいかなる物質も、今のところは、ハイ出力を実現できたことがないはずであることを、リーザは知っている。

 ハイ出力という概念は、宇宙船同士の戦闘においては、非常に重要な要素であるから。


「はい。起動したことがないので試したことありませんけど、理論上はできます。詳しく説明するとかなり長くなりますが。簡潔には、pパターン物質の水を利用することで、テミスフィアが持つ、通常の物質に対する抵抗をほぼ無力化することができるからです」


 ザラのその答を聞くや、リーザは、どうしても抑えきれないという感じの笑みを見せて、断言した。

「ならこれは、多分、今この宇宙で最強の船ね」


ーー


 ガラクタ船が起動できたため、ザラは以前から考えていた、それの本格的な改造を実施することにした。

 彼女はリーザにも、特に軍事的な面においての協力を求め、2人は、《アミデラス》の地下にて、数日連続の作業中。

 ミーケも、設計や、物理的な組み立て組み換えはともかくとして、システムのプログラミングでは役に立てるかもしれないが、それにしたって、ザラの方が遥かに慣れている。


 そういうわけで、足手まといになるのもごめんなので、ミーケは同じく、(本当かちょっと疑わしいが)工学は苦手だというエクエスと一緒に、《アミデラス》の表面に出てきている。

 そのエクエスが、「少し思い出して、確かめたいことがある」と告げて、ザラから借りた小型宇宙船で、《アミデラス》を発ってから半日くらい。

 小さな惑星の夜の暗闇の中、輝く恒星群を1人で見ていたミーケ。


(軍人か、あいつはやっぱりそうなんだよな)

 船の性能に関して、それがとても優れたものと理解した瞬間のリーザは、明らかに興奮していた。

 それはミーケの知らないリーザの一面。


 兵器が好きなのだろうか。

 戦いが好きなのだろうか。

 それとも……


「いつか、もっと昔のこと話してくれる時が来るのかな」

 思うだけでなく言葉にして呟く。


 本当のところ、どうでもいいようなふりをして気にしてはいた。

 今の彼女との時間が一番大切なのは、紛れもない事実。

 だが、自分はとても頼りないのだと感じてもいた。

 リーザには、きっと辛い過去があるけど、自分ではそれに関して力になってあげられないだろう。

 それが悔しかった。


「いつかもっと昔のこと、話せる時が来るかな」

 そう、昔の思い出のことで、力になってあげられることなんてできるはずがない。

 自分には今、ちゃんとした思い出すらないのだから。



「あっ、エクエス」

 帰ってきていたらしい彼に気づくミーケ。


「ミーケ」

「何?」

「水がある世界にいたという記憶」


 唐突に、かなり真面目な雰囲気だったエクエス。


「自分でそれは本当だって思うのか? たしかなことだと確信できてるのか?」

「偽物って感じは一切しないよ。それは、知っているというよりも、それだけは覚えているっていう感じかな」

「人工の水で思い出したこと。記憶を消したのは、ほとんどその寸前まで一緒にいた誰かだと言ってたな?」

「うん」

「そうか」


 そこで、何か考え込んでいるような様子で、エクエスは一旦黙る。


「何か知ってることとか、気づいたこととかがあるの?」

 尋ねるミーケ。

「これもさっき思い出した事なんだ。正確にいつぐらいかは覚えてないが、かなり昔のことだ、まだ"世界樹"がなかったくらいの」


 エクエスはある噂を聞いた。


「メリセデルという少し奇妙な感じの科学者がいると聞いて、会いに行ったんだ。その彼もまた、水に関する研究をしているという噂を聞いたから」


 もう《水文学会》はとっくに解散していたが、それでも、失われた水というテーマが興味深いのは、その時も一緒だった。


「最初に会ってからも何度も会った。その時々の会話の内容はほとんど覚えていないけどな。まあ大した話もしなかったと思う、あまり印象に残らなかったのは確かだ。だけどひとつ、彼本人からじゃなくて、彼の周囲にいた人から、確かに聞いたことがあるんだ」

 そして一呼吸おいてから、エクエスは続きを告げた。

「彼の助手は、水を操る少年だと」

「ありえない、よ。おれじゃ」

 即座にそう返したミーケ。

「ああ、確かにありえないと思う。その少年がおまえ本人であるということはな。ほぼありえない」


 エクエスも、ザラの解析に関する話をすでに聞いている。その構成粒子の状態から、ミーケは明らかに数百歳か、せいぜいが数千歳くらいのはず。

 ただ、エクエスは絶対とは言わなかった。


「メリセデル」

「その名前を聞いても、まったく誰だかわからないか?」

「わからない。記憶を消した相手の名前は、思い出せないんだ」


 だがそうなのだろうか。

 水の科学者、その助手だったという水を操る少年。

 そしてミーケの記憶を消した誰か、水のあるどこかにいたという記憶。

 メリセデル。

 水を研究していた謎の科学者……

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