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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
15/142

15・ガラクタ船(自分の世界でひとりぼっち1)

 エクエスを仲間に迎え入れ、宇宙船に戻ってきたミーケたち。

 そして探すことに決めた2つのレコードの片方、その行方に関しては、かなりすぐに大きな手がかりが見つかった。


「委員会のデータベースに検索かけてみたら、すぐにわかったんですけど、トマテクスの唯一の息子にあたるミィンは、《カルディラ大学》の創始者です」


 しかしミーケとリーザは、ザラがその名前を出した《カルディラ大学》なるものを知らなかったため、まずはそれを説明する必要があった。


 《カルディラ大学》は"世界樹"でも最大とされる、科学者育成機関。《メーダ》という恒星の星系をまるごと利用している、大規模な学校である。


「ミィンのやつか、あいつなら確かに、レコードを託されてておかしくないな」

 エクエスも、彼のことは知っていた。

「それにあの大学なら、そういう貴重な記録を保存しておくのに最適な場所でもあります。非戦闘地域(ひせんとうちいき)な上に、貴重な科学研究の記録をぞんざいに扱う人なんてほとんどいないはず」とザラ。


 "世界樹"で非戦闘地域といえば、どの国家も軍事的介入することを禁じられているエリア。そして、もしもその禁を破ろうとするのなら、他のすべての国を敵にするに等しい。

 ようするに、"世界樹"という、小規模な争いがあちこちで起きてばかりのフィラメントにおいて、非戦闘地域は、完全安全な領域。


「ただ、あの大学、今は《ヴァルケト》と《ラスミ》の2国に囲まれてるだろ。クートエンデの姫に、その仲間じゃ、通る許可取りづらくないか?」

 当然といえば当然の話だが、エクエスは"世界樹"の様々な事情について、よくご存知である。


 《ヴァルケト》も《ラスミ》も、クートエンデ家の国《アズテア》とは、それほど友好的な関係の国というわけではない。おまけに、どちらも思想などの問題から、『学術委員会』との繋がりも薄い。

 それでも、何の後ろ盾もない田舎惑星の住人2人と、今や得体の知れない占い師にすぎないエクエスだけというよりは、マシであろうが。


「それなら空間転移は?」

 ミーケが聞く。


 それは、別領域の時空間を行き来するための多元時空間転移に対し、単に同じ領域内の、ある空間位置から別の空間位置へと瞬間移動(ワープ)する技術の総称。

 多元時空間転移と比べると、安定した利用が行える方法が、いくつか判明している。


「"世界樹"内では、国を飛び越えての空間転移は禁止されてるのよ」

 答えたのはリーザだった。

 そして他の3人の視線が、一斉に彼女の方に向く。

「《フラテル》に来たばかりの時、どのくらい滞在するかはわからなかったけど、一応いくつか内部の取り決めは調べたから」と、何に関してか、少し恥ずかしげだったリーザ。


「リーザの言う通りです。記録確認の理由でカルディラ大学に行くためには、どうしても、《ヴァルケト》、《ラスミ》どちらかの通行許可は必要になります」

「なら、普通に研究目的を説明するのではダメかな」

 またミーケが聞く。

「今の段階ではあまり得策とは言えないだろうな。『学術委員会』との繋がりが薄い地域じゃ、誰を信用していいのか判断がつきにくい」


 水文学会のレコード。ミーケの水を操作する超能力。それにミラのシミュレーション。

 どれも、知られるべきでない連中が一定数いるとエクエスは説明し、ザラも賛同した。


「まあ、《ラスミ》の方なら、シェアラ姉さまの友人が、あちらの王族の方にいますから、多少時間はかかるかもしれませんが、許可は取れると思います」


 シェアラはクートエンデ現女王の娘、つまりはザラの従姉であり、次期女王という立場もあって、その顔はかなり広い。


「まあ、何にしたって、すぐには無理でしょうし、クートエンデに繋げれる連絡ネットは、この船にはないですから、一旦《アミデラス》に戻りましょう」


 そして、ミーケの方を見たザラ。


「ちょうど確かめてみたいこともあるんです、ミーケの力に関して」


ーー


 ザラが確かめてみたいこととは、彼女が個人的に所有していた、ある聖遺物に関係していた。


「これは、ガラクタ(ぶね)と呼ばれてた聖遺物で、おそらくは水が失われる以前の時代の船です」


 ザラがミーケらを案内した、《アミデラス》の内部。

 外面と同じく、基本的には白色。しかしそちらと違い、壁から天井まで凸凹はなく滑らか。所々に様々な色の染みがあるが、いくつかは、明らかにわざとつけたような幾何学的模様。そんな感じの巨大な部屋。


 その、《アミデラス》内部にガラクタ船はあった。

 コウモリのような羽や、ハサミのような手のアームなどを備えた、直径10メートルくらいの球体の上部ボディ。それにその球体を支える台のようにも見える、3メートルくらいの高さで、幅は15メートルほどの四角の下部ボディ。全体としては、少し奇妙な形状の船。


「ガラクタというのは、今の宇宙では、この船が起動できないからなんですけど、その理由はエンジンドライブにあります」

「今の宇宙では? 水を使うってこと?」

「そういうことです。 そして水をどう使えばいいかもわかっているんです。ですが、そのためのコントロールと、人工水を維持するシステムを併用することができないわけです」

 ミーケの問いに、今や実に楽しげに答えたザラ。


「ところで、この船の素材、テミスフィア質だな」

 少し触ってみただけで、そうだと気づいたエクエスに、ザラは驚かされたが、エクエス自身は、もっと驚いていたふうだった。


 テミスフィアは、スフィア粒子の特殊構成と、特定金属を組み合わせることで作れる、非常に頑丈な合金。

 テミというのは、それを実用的なほどに、安定して生み出せる技術の開発者の中で、最も古い時代の記録に残っている人の名前。


「テミスフィアって、あの」

「だろうね」


 リーザもミーケも、そういうものを知ってはいる。

 一度生成すると、あまりにも強固すぎて、物理的には加工も破壊も不可能な、いわば最強の耐久性を有する物質として、かなり有名であるから。


「スフィア粒子は、水が失われた大災害以前には、ジオ族には知られてなかったものだ。これは本当に、水が失われる以前のものなのか?」


 今となってはそうだと実感はしにくい。しかし実際、スフィア粒子は、そもそもかつてありふれていたが、失われてしまった水の構成粒子の代用として、急遽開発されたもの。

 もちろん、かつてありふれていた水が利用されていた、宇宙のあらゆる部分で、現在は緑液が使われている。緑液は、スフィア粒子を主な素材とした分子化合物だから、実質、今はスフィア粒子が宇宙にありふれているわけだ。

 だが、水の代わりなのだから当然、水が存在していた頃には、逆にまったくなかったはず。

 エクエスの疑問も当然というわけである。


「わたしも、スフィア粒子の開発時期については知らなかったですけど、母はもしかしたら、それを知っていたのかも。実はわたしも詳細は知らなかったのですけど、このガラクタ船が、水が失われる以前のものと提唱していたのは母です。そして彼女は、これがわたしたちにとって非常に重要なものになるかも、とも考えていたみたいなんです」


 だからこそザラは、《アートディケーア》という国の博物館に所蔵されていた、それを買い取って、自分の研究所惑星に移したわけである。


「仮にこれが、本当に大災害前のものなら、ジオ以外で造られたはず。 だけどそんなことより何より、おそらくどの宇宙の領域で作られたものだとしても、これは当時の環境で簡単に作れるものじゃない。だから、確かにこれは」

「神々の敵に対抗するための、武器」

 エクエスが言うまえに、その結論を発したミーケ。

「かもしれないという段階だがな」

 あくまでそこは冷静なエクエス。


「いずれにしろ、結局動かさないことには、この船は名前通りのガラクタにすぎないでしょう。ですからまずは、試してみましょう。ミーケ、あなたの力でこれが動かせるのかを」


 今は利用できない水を利用した動力源を有する船。

 確かに、意識的な生物の能力として水を操ることができるミーケなら、今でもその動力源を起動させることができるかもしれない。


 そして、ザラのその推測は当たっていた。

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