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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
14/142

14・分けられたレコード(水文学会5)

「おまえたち」

 いったいそれがどういう意味なのかはわからないが、聞いていた通りの三角帽子ファッションの大学者様は、ザラ、ミーケ、リーザのそれぞれを見る度に、驚いたような表情を浮かべていった。

「マッドのやつのお使いか?」

「あなたのこと、彼に聞きはしました」

 ザラは、とりあえず自分たちの紹介をする。

「わたしは『学術委員会』の地質学者ザラセニタで、後ろのふたりは共同研究仲間のミーケとリーザです」

 さらに、彼に会いに来た目的も率直に告げた。

「エクエス博士、わたしたちは今、水に関する研究をしているのですが、『水文学会』の話を聞いて、あなたの協力を得たいと思って、ここに来た次第です」

 『水文学会』。

 その名前が出た時、表向きは何の反応も見せなかったが、エクエスは実はなかなか動揺していた。


(「レコードを3つに分けよう。そしておれたちがそれぞれに保管しておく」)

 それはエクエス自身が提案したこと。

 彼にとって、初めて自分が立ち上げた科学組織。

 その研究成果の重要ないくつかの記録を、一緒にその研究を始めた3人で分散しあうこと。それが必要になった時にまた集まれるようにと。

 しかし、もう3人が集まることだけはない。彼は、その時に自分が想定していた以上に、あまりにも長い時間を、たった1人だけ生きすぎていた。


「ザラセニタ、ザラ。そうか、おまえはミラ博士の娘だな」

「知って、いるんですか?」

 それを彼が知っていたことに、どうしようもなく、一瞬びくりと体を震わせたザラ。

「論文を読んだことがある、[水と神々]」

 それはまさしく、例の不吉な予言も書かれている、ミラがその生涯の中で書いた唯一の論文。

「マッドのやつが時々、おれが興味を持ちそうな論文の束を送ってくるんだ。あいつは別に大したものと考えてなかったようだけど、おれからすればとても興味深い内容だった。だけど、あれを書いたおまえの母親ミラは、ずいぶん自信なさそうだし、どうも真っ当な評価を受けれてなかったように思うのだけど、状況が変わったわけか?」

 エクエスが知っていたミラは、ただ単に、周囲に充分認められていない科学者。

「いえ、あの」

 伝説的な大学者がしっかり母を理解していた事実に、どうしても嬉しくてにやけてしまったザラ。

「ちょっと長くなるかもしれないけど、全部話します」


 そしてザラたちは、自分たちのことも、これから一緒に研究しようとしていることもすべて説明した。


ーー


「わたしたちの話はこれで終わりです」

 ザラがしっかりとそう宣言するまで、エクエスは何も言わなかった。

 亡くなったミラから、ザラが受け継いだ研究。ミーケの、封印されている、水が溢れていたどこかの記憶。それらの話を、途中で質問なども挟まないで、ただ静かに彼は聞いていた。

「それで、エクエス博士にも」

「博士と言うな。おれは今は科学者じゃない、占い師が本業だ。それに」

 立ち上がり、水晶玉やカードの整理を始めたエクエス。

「今はどうか知らないが、おれがちゃんと科学者してた時代じゃ、その呼び方は別の研究機関に所属してる同業者に対する敬称だった。同じ研究をする研究仲間に使うものじゃない」

「じゃ、じゃあ、仲間になってくれるの」とミーケ。

 エクエスの言い方は、そういうことだろう。

「なんだかんだ、弟子の紹介ということになるだろうしな。それに、水文学会はおれにとっても少しばかり特別な思い出がある。それに関連してる研究なら、実を言うと関わりたいくらいだ。いや深く関わってるよ、おそらくおまえたちが考えてる以上にな」


(「エクエス、もうやめないか、おれは正直恐い」)

 カーライルの恐れ。

(「エクエス、この記録は残さないでおこう、その方がいいよ」)

 トマテクスの警告。


「やっぱり何かを、知ってるんですか?」

 ザラが聞く。

「知っていた、というよりも、知ってしまっていたのかもしれない」

 そして、30センチくらいの直径だろう、カラフルな薄い円盤のような物体を、棚から出してきたエクエス。

「正直に言うが、『水文学会』の研究成果に関して、おれ自身はもうほとんど忘れてしまってる。長く生きてきた代償として、ずいぶんと体の構成粒子も変わってしまったから、そこから当時の手がかりを掴むことも不可能だと思う」

 しかし、『水文学会』の研究により、明らかとなったことの内、特に重要と考えていたいくつかの事実を、エクエスたちは、外部記録としてしっかり残した。

「過度な期待はしない方がいいかもしれないけど、おれたちは、水に関する重要なことを掴んでいたと思う。だけどそれが、なぜかももう覚えてないが、それが当時の世界に広まってしまうことは恐れた」

 そこでエクエスたちは、それも彼らの開発であるレコードディスクという記録装置に、その情報を隠した。

「レコードは3つに分割して、おれと、水文学会の仲間だった、トマテクス、カーライルとで分けあった。その内のおれが持ってるものがこれなんだ」と、その円盤を指差すエクエス。

「記録を見るためには、分割した3つのレコード全てを揃える必要があるけど、探し出すことは可能だと思う。全部、"世界樹"にあるはず」

 トマテクスもカーライルももういない。しかし彼ら、あるいは彼らの後継者も、それらを必要とする者が現れるとするなら、それは"世界樹"だろうと知っていたはずだから。とエクエスは説明した。


「ザラ、ミーケ、リーザ。まずは、その2つのレコードを探そう。少なくともそこには、水が失われたことに関する、なにか重要な事実が記録されてるはずだから」

 エクエスのその提案を、ミーケたちもすぐに了承し、2つのレコード探しが幕を開けたのだった。

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