カミラ8歳
ルーカスとの仲も良好で婚約関係は順調。両親も以前より家にいてくれることが増え、家族仲も向上。
全てが上手くいっているように思えた。
「外出禁止、ですか?」
突然のルーカスの言葉に私は首を傾げた。
「私の婚約者でもあるカミラに良からぬことを考え近づくものがいないとも限らない。それに不義の噂を立てられても困る。淑女らしく屋敷で私を待っていてくれ。」
いつものようにうちに遊びに来ていたルーカスは突然その言葉を放った。
その直前に話していたのが、我が領地で行われていたお祭りに視察訪問したことだ。
どうやら彼はその中に出てきた『年の近い男の子』というワードに引っかかったらしい。
「(ただ単に年が近いのにもう手に職を付けるため修行していてすごいなって言っただけなんだけど。)」
まだ8歳。これが恋愛感情と呼べるものなのか分からないが、最近私への執着が目に見えて露骨になってきた彼は私がほかに目を向けることが許せないらしい。
「(攻略は順調って喜ぶところだよね?)」
でもなんかモヤモヤする。
家に引きこもるのも別に問題はない。貴族社会では割と普通だ。
私の身の危険も浮気の噂の心配も理解はできる。
私の立場上、そういう行動制限は当たり前でもある。
当たり前だからこそ、自領の視察は唯一堂々と外を歩くことのできる息抜きの場でもあった。それすらもダメだと言われると私はもう庭先しか外に出れるところがない。
「(理解はできるが納得はいかない)」
口調こそまだ丁寧で私の心配をしているように聞こえるが、単純に私を他の男と接触させたくないだけと言うことが伝わってくる。
私はそれが嫌なんだろうか?
確かに本命はリヴァイだけど、ルーカスのことは嫌いではない。
なら何が引っかかるのか、少し疑問は残ったが彼の言うことに私の両親も同意し、どの道私が外に出られる機会はそうそうないのだろうと予想した。
彼は満足そうに帰っていく。
私は自分が彼を満足させるだけのお人形であることが嫌なんだろうか?
ゲームの流れに従い、悪役令嬢だった私がヒロインの辿るべき道を歩み始めている。
でも、ここに来てそれが上手くいかなくなっている。
他のキャラクターへの接触はもちろん、現時点での魔獣の存在の確認、自分の魔力の測定、何もかもが調べようがない。
下手に調べようとすれば、今回のようにルーカスが横やりを入れてくるのは目に見えている。
もしかしたらこれが、強制力というやつなんだろうか。
何て見当違いのことを考えていた。
♦
退屈な毎日。
ルーカスは8歳になったことで本格的に基礎教育が始まり、うちに来る頻度は減った。
私も専属の教師の元、立ち振る舞い、神学、語学、算術、その他もろもろ習うわけだが正直、他国の語学以外子供だましもいいとこだと、大した障害にはならなかった。
両親は基本ルーカスが訪ねてくる日は家にいるが、それ以外は相変わらず。
メイドも家庭教師、手習い事の先生もすべて女性。
「(いや、それはいいんだけどね。)」
この時代、いや世界?それも当たり前のことだ。
うっかり教師と恋に落ちて駆け落ちなんてことになったお家騒動待ったなし。
ただでさえ閉鎖空間にいる数少ない異性に恋心を抱くのも想像がつきやすくその配慮も侯爵家の1人娘を守ると思えば当然のことだ。
いま思えば、ルーカスの心配も8歳になり会える頻度が少なることへの不安からあんなことを言ったのかもしれない。
そう思えば、あれも可愛い嫉妬だと受け入れることができる。
私はプレイヤー、今は攻略中。
そう自分を思いこむことでこの退屈な毎日も何とか乗り越えることができた。