リヴィ7歳
叔父であるサミュエルとはそれなりに良好な関係を築けている。
私に予想通りあの日私がこの養子縁組に了承しなければ両親は殺されていたそうだ。
「(そんな事7歳の子供に言わないで欲しい。)」
「(いや、指摘したのは私だけど。)」
「そもそも両親を殺めてからの登場の方が自然でしてよ。」
最初から養女にしたいと口にして、その後都合よく両親が事故死なんて怪しんでくれと言っているようなものだと指摘をすれば彼は笑う。
「いうに事欠いて、本人の前でそれを口にするとは。」
口元に手を当て笑いをごまかそうとするが、まったく隠せてない。
何がそんなに楽しいか分からないが私の精神衛生上、彼の目的を聞かなければ気が済まない。
何度もこうやって対面しても、彼はのらりくらりと自分から話す気は全くない様だ。
暢気にお茶をかわしているものの一つ気になっていることだけは答えてもらおうと、直接的な言葉で聞いた。
「叔父様は私を殺す予定がありまして?」
一番重要なのはこれだ。
万が一、魔力の発現により爵位の移動の可能性を危惧しての一連の行動だったのならばこちらとしても出方というものがある。
簡単に私の人生を奪わせるつもりはない。
私としては真面目な気持ちでこの質問を口にしたのだが、目の前の人はぽかんと驚いたような、呆けたような顔をしていた。
「いや、まったくそのつもりはないけど。」
なぜそんなことを聞かれたのか全く心当たりがないとでも言いそうな顔で彼は言う。
両親を殺めようとしていたのだ、次は自分の番と思うのは普通のことのように思えるが、彼の目的は別のところにあるようだ。
「(なら魔力を使って何かしたいのね)」
口だけのものではあるが命の保証がされたのだ、とりあえずは満足だ。
「そう、それならようございます。」
そう言ってカップに口を付ければ目の前の人は、今度は驚いたように目を見開いた。
「それだけ?他には?家族はいまどこにいるのとか、いつ引っ越したのかとか。」
なぜ質問しないのかと聞いてくる叔父に今度は私が不思議そうに首を傾げた。
「中央区にいるのでしょ?叔父様が言ったのではありませんか。」
私の不安そうな顔が見たかったのか、慌ててほしかったのかは知らない。
ただ社会人を経験した身としては、自分が情報のすべてを握り相手が聞いてくるまで手の内を見せない、見せてもほんの少しだけでこちらの反応を楽しむ悪趣味な輩は少なからずいた。
そう言った人たちには反応しないのが吉だ。
必要な情報であればいずれ伝えなくてはならないし、必要でないのならわざわざ探ることもない。遊んでいる人の手の上に自ら乗るほどの愚行をする意味が私にはなかった。
「確かに言ったけど、信じているのかい?それにこんな急に出て行くなんておかしいと思わないのか?」
なおも遊びたいのか言葉を続ける人に私はこの時間の非生産性を感じた。
「だって私には知るすべもないですし、生きているのならそのうち会えるでしょう。死んでしまったのならそれこそどうしようもないです。」
薄情に聞こえるかもしれないが、これがベストである。
両親が私から離れたくてこの家を出たのなら、わざわざ会いに行くのもどうかと思うし、すでに叔父の手でこの世にいないのなら関わらないのが正解。
下手に巻き込まれても困る。
「私何かおかしなことでも言いました?」
口元は笑っているものの、先ほどまでのように声は出して笑わないその人は驚き目を見開いたまま、しばしフリーズしている。
「育ててくれた恩はありますけど、それだけです。好かれていたとも思えません。今更彼らに何も求めることもありませんし、その方が叔父様にとっては都合がいいでしょ?」
だからわざわざほじくり返すなと暗に伝える。
叔父のやりたいことは分からないが、今はまだいう気がない様だ。
魔力を使って地位を上げたいのか、世界でも征服しようとしているのか。
しかし私1人の魔力でそれほどまでに物事をどうこうできるとはさすがに思っていないだろう。
私の態度に若干の違和感を覚えたようだったが、両親のように距離を取ろうとはせず叔父は積極的に私に話しかけてきた。
それでも目的が分かるような話は全くと言っていいほど出ては来ず、彼が何をしたいのかはさっぱりだ。
どうかこの平和な毎日が続きますように。なんて、願ってからこれはフラグを立ててしまったかと少し後悔した。