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リヴィ6歳

この国には魔法があった。

特にこの地に住む人々は魔力持ちが多いらしく、それは割と身近に合った。

ただ年々と魔力持ちの生まれ率が減っていることと、魔力自体の容量というのだろうか?あまり大きな力を持って生まれてくる子がいないことがこの国の深刻な悩みらしい。


「(なきゃないでどうとでも生活できるのに)」


私にとって魔力あったら便利なものぐらいにしか思えなかった。

だって魔法で出来る事のすべてはいずれ、科学の力でどうにでもなることばかり。

それがない今でも自分の力でどうとでもできるのだ。


例えば水を出す、これは水道を捻れば済むことで仮に水場のない場所でもあらかじめ水筒に持っていければそれで済む。


物を呼び寄せる、これは割と近い距離でしかできないようで、それならば自分足で取りに行く。横着などしなければいい。


鍵開けや修復の呪文もあるようだが、それをしてしまうと色々な問題が出てくるためほとんどの家や物には魔法避けがかけられているからもはや意味はない。


他にもいろいろ呪文はあるようだったが、相性やコツなんかもあり魔力持ちがそれら全部を使いこなせるわけではない。


ただ台風の後など屋根の状況を見てみようと空を浮遊できる呪文が使える人は重宝され、便利だなとは思うが、これもはしごをかけ自分で登れば済む話である。


つまりは魔法に驚異的なほどの力はないのだ。



そう思っていた私に魔力が発現した。6歳の時だ。


大したことができるわけではないのに、魔力持ちは優遇されるのがこの国の特徴。

母の世代ではうちから魔力持ちが出なかったため、両親の喜びようと言ったらなかった。

そんなにも特別待遇されたいものだろうかと思う反面、魔力を持っていたから『伯爵』を名乗ることになった我が家でそれを持っていないことで肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。







初めての体験だが魔力とは不思議なものだった。

湧き上がる生命エネルギーとでもいうのだろうか?

体全体から妙に力が湧いてくる、いや体は疲れているのに走り回りたいと表現すればいいのか。


いうならば徹夜明けのテンションだろうか?


どうしていいかわからない私を両親は領主様のところへ連れて行った。


「(そう言えばこの家の人は全員が魔力持ちだった。)」


だからこそ辺境伯としての地位があると見下し笑ったものが茶会にいたとその席にいたお姉さまたちに聞いた。

その者たちの身元はすぐに調べ、それなりの意地悪はさせてもらった。


「(子供とはいえそれなりの家の子、自分発言がいかに自領に影響を及ぼすか知るいい機会になったでしょ。)」


別段ひどいことをしたわけではない、かねてよりクルークヴィル産の製品に文句をつけてくる領地だ、うちからの輸出が止まったところで気にも留めないだろう。とうわべだけ思い、子供相手に大人げなかったと少し肩を落とす。


「(反省はしないけど)」





領主の家族はとても優しく、突然の訪問にも快く私たちを受け入れてくれた。


がっしりとした熊のような領主様から線の細いご子息2人が生まれたことが今も信じられなかったが、奥様がとても華奢な方で納得した。


奥様は内助の功という言葉がぴったりで、色々な話には出てくるが表舞台に出てくることはあまりなかった。

私も会うのはこの時が初めてだ。

物語の赤毛のアンのように赤毛はあまり好まれない時代ではあったが、彼女の艶やかな赤髪はとても美しくその青い瞳と相まってまるでお人形のようにも見えた。


彼女の色彩を色濃く継いでいる次男のリヴァイはそれをひどく悲しんでいたが、悲しむ意味が分からない。彼をからかう子供たちはまとめて教会に連れて行き指導してもらってからは何も言ってこないようだったが、今だ髪の色を変える魔法を研究しているようだ。


「(魔法よりも染色技術を学んだ方が早いと思うけど…)」


前世の記憶と新しい魔法を生み出すことの難しさを比べ、どう考えても前者の方が簡単そうではあるが、彼が本気で悩んでいるのならその答えにたどり着くだろうと放っておいた。



両親はあれだけ喜んでいたにも関わらず私が魔力を持つことも畏怖と捉えるのか、領主様に私を預け早々に自宅へと帰って行った。


失礼すぎるのではないだろうか?



でも私の大好きな領主様はそんな事気にも留めず、今日はまず休みなさいと客室へと案内してくれる。


私はこの領地を愛する理由にこの領主様の存在が大きくあった。

そう、私は領主様が大好きなのだ。







領地が先か領主様が先か、今となっては分からないが私は領主様も領主様が治めるこのクルークヴィルの領地も大好きなのだ。愛していると言っても過言ではない。


実のところこの世界での初恋は領主様である。


辺境伯というものは国境近くの場所を治める貴族をさす。

つまり有事の際、武力をもって他国からの侵略を防ぐとても名誉ある立場だ。

それを与えられた領主様はそれに相応しく、逞しく強靭な肉体に領土を豊かにするだけの手腕、他の領地は思いつきもしなかったのかまだ誰も始めたことのない方法が不安だったのかは知らないが、領主様は新しい、聞きなれない手段を使い外交などを行う柔軟さもあった。


この方の一体どこに文句がつけられるというのか!

名ばかりの貴族など足元にも及ばない。

私は領主様こそ、この国を治めればいいのにと出会ってからすぐに思った。

でも領主様は権力にはあまり興味がない様だ。あくまで自分の目の前にある領地を大切にすることに重きを置いている。



「(そんな慎ましやかなところも素敵。)」



と、いう訳で大好きな方のそばにいられることは私にとっても悪くない条件だ。

ただ両親の失礼な振る舞いは娘としてしっかりと詫びを入れなくてはならない。




魔力の扱いは意外にも簡単だった。

それは私の中身ゆえ、魔力を使う根底の解釈を頭の中で理解していることが影響してのことかもしれない。


魔力という目に見えない力を呪文というワードと結びつけることにより、一定方向の目的へと昇華させる。

おそらく呪文何て使わなくても魔法は使えるのだろうが、呪文を要いることにより想像→創造→具現化の過程を省いているのだ。

だから人によっては呪文を使える魔法と使えない魔法が存在していたと私は考えた。

呪文があっても自分の力をそこに持っていく想像ができない以上、魔法は発動しない。


飛べないは飛んではいけないになり、飛行術の妨げとなる。

この世界に飛行機など飛行技術はない。まだ人は飛べないものだと思っているからこそ、飛行術を使える人が圧倒的に少ないのだと私は考える。


多分この解釈であっているだろうが、呪文なしの魔法は聞かないので黙っておく。出る杭は打たれる。知りすぎ煙たがられるがこの世の常だ。


「(暗黙の了解って可能性もあるし)」



魔力修行も終え、私はますます領主様にかかわる人々を好きになった。

せめて何かお礼ができないかと申し出れば、下の子の話し相手になって欲しいと言われた。


下のこと言えばリヴァイだ。あの髪色に悩んでいる、少々気弱な少年。

同い年ではあるが、あまり会話をすることはない相手。

でも彼も領主様の愛する領民であり、彼の人の子でもある。


「もちろんです。」


私は笑顔で頷いた。







家へ帰るとそこには知らない人がいた。

アッシュブラウンの落ち着いた髪色に私と同じグリーンの瞳。


「サミュエル叔父様?」

名前しか聞いたことはなく、この6年一度も姿を現さなかった母の弟。

優し気な表情をしているけど、瞳の奥は私を観察しているように見える。


何しに来たのかしら?

ここ最近の出来事を思い浮かべ、思い当たるのは私の魔力の発現しかないことで嫌な予感がした。



「私を養女に?」

それは予想していたことだから別に構わない。

ここまで育ててくれた両親に感謝こそするが、それ以上の感情はなかった。

ある程度自立した今は同居人という言葉が一番しっくりとくるのがうちの家族関係だ。


「別に構いませんよ。」

「君の両親は中央区での仕事にあこがれを持っていてね。」なんて続ける叔父の言葉を遮り、そう告げれば目の前の人は目を丸くして瞬きをした。


何を驚いているのだろうか?

彼から話を振ってくるあたり、両親から言い出したことか不明だが2人は承諾したのだろう。

彼らが私を気味悪がっているか伝わったかわからないが、その時点で家族仲が良くないことぐらいわかりそうなものだ。


「いいのかい?」

「ええ、何か問題でも?」


確かに私は変な子かもしれないが、一応6歳だ。

私からも歩み寄らなかったから文句はないが、両親も私に歩み寄ろうとしなかったのだから同罪だと思ってほしい。




「それにその方が叔父様が罪を犯すことがないでしょ?」


そう告げたら叔父は固まった。

「だって叔父様。私が頷かなかったら2人を殺めてしまうでしょ?」

最初に見た瞬間から分かった。


なぜ叔父が私を欲しているかは分からないが、彼は何が何でも私を手に入れるつもりなのだろう。

私を愛していない両親だとしても世間体というものがある。今日の今日家を出て行くはずがないのに2人の姿はなかった。

かといって、すでに処分されているとは考えない。そこまで浅はかな人には見えないし、事故死に偽装後、正式に養父申し出の方が賢明だ。


この時代、肉親同士の殺し合いなどざらにある。

これまで連絡のやり取りも見られなかった姉弟に家族としての絆があるようには思えず、私の導き出した答えも遠からずあっているだろう。


別段、予想外なことではないと平然としていれば突然目の前の人は片手で顔を覆い高らかに笑った。

文字にするとあまりにも馬鹿そうに見えるため割愛するが、どうしてこうにもリアクションが大きいのか、感情表現を抑えることをよしとしてきた日本人としては考えられない行動だった。


目の前の叔父は完全な悪役のそれである。





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