リヴィ5歳
私の住む領土、クルークヴィルの話をしよう。
緑豊かなこの土地は中央(都市部と思ってくれれば分かりやすい)から遠い国境にある。
国境付近であることから軍事地区とされている重要な場所ではあるが、昨今は戦争などなく穏やかで緑の多い場所だ。
人が多すぎないのもいいところで、城下周辺の中央のように邸宅が密集していないのも私としては高得点だ。
ここで暮らす領民は比較的穏やかな気風を持つ反面、有事の際の機動力として置かれている場所と言うこともあり武力に力を入れている。
近所のパン焼き名人なおばさんが棒術の達人だと知った時は驚いた。
もちろん、彼女が兵士として数えられているわけではない。
もし戦争が起きたとき、この場所は一番に被害を受ける可能性がある。
そんな時、自分や家族を守るため皆危機意識が強いのだ。
そんなところも私は気に入っている。
ある意味、重要な場所に位置するクルークヴィルは領主様こそ辺境伯として特別扱いされるが領民は田舎者だとささやかれるのが常だ。
うちは領主様に次ぐ伯爵(と言っても2代前からだけど)だからまだましな方ではあるが、男爵家の子供たちはお茶会の席で他の同等の爵位の子供に馬鹿にされて帰ってきたというのだから、私は腹を立てた。
そのため中央への憧れは強く、そんな領民の気持ちを汲んで領主様は今年から自分の資産で中央からの物流事業に着手した。
緑は多いが完全なる自給自足でもなく、流行りものは何処よりも早くこの地にも届く。そんな領地を目指し奮闘している。
領地で取れた特別な花々や工芸を逆に中央へ売り込みもしているあたり、なかなかのやり手だ。
領民に慕われる領主が収める地というのもとても素晴らしい。
元より活動的で力強い領民たちはさらに活気にあふれた。
お茶会にもう出たくないという子供に私は伝えた。
「このドレスは最新モデルよ。堂々と振舞えば誰もあなたを害したりしない。このペンダントはクルークヴィルではなじみのある石だけど、中央では侯爵令嬢も手にできない値がついているの。それにこのデザイン、あなたの家のものが作ってくれたものでしょう?世界にたった一つの貴重なものだわ。」
言い聞かせるように彼女に言えば「でも」と不安げに言う。
「アンはただのメイドよ。メイドの作った物なんて、何ていわれるか…。」
それでも彼女はいつもそのペンダントを付けていた。
気に入っているのだろう。
確かにこの地で取れるベールジェムと呼ばれる緑の石は他国でも高値で取引されことだけのことはあり透き通る緑の美しさがペリドットを思い出させた。その周りをシルバーのワイヤーアートで囲んでできたそのペンダントは美しくも可愛らしい。
彼女にふさわしい逸品だ。
「どこのもの?値段はいくらなんて聞かれたらこう返せばいいのよ。」
私は彼女に1つ提案をした。
「石はベールジェムで後は職人に頼んだから分からないわ。父が私の為に特注で作らせた世界で一つのものらしいから。」
お茶会でそう答えた彼女に誰も何も言えなかったそうだ。
それはそうだ。
流行りもの有名ブランドよりも『特注』『世界に一つだけの』その意味を爵位を持っている家の子供なら分からないはずがない。
金品で優劣を決めることは一見下品に見えるかもしれないが、子供たちのやり取りだ。それに大人だって口には出さないが、身につけているものの価値でその家の尺度を見ている。
貴族社会とはそういうものだ。
「でもよかったのかしら、職人に作らせたなんて嘘をついて。」
純粋で素直な彼女は顔を曇らせるが私は大丈夫と笑った。
「これだけの出来!アンはもう職人と言っても過言でないわ。それにあなたの為に作ったというのも本当のことでしょう?だってこのペンダントあなたによく似合っているもの。」
そう伝えれば彼女に笑顔が戻った。
「そう思う?実はね、これすごく気に入っているの!本当はね、正直に話してアンのことを馬鹿にされるのが恐かったの。私も彼女の作るアクセサリーが大好き!」
私は嬉しくなった。
ずっと曇りがちだった彼女の顔から暗さが消えたのだ。
「いつかね、うちを出て行ってしまうのは悲しいけれど、アンにはアクセサリー職人への道に進んでほしいと思っていたの。」
アンは彼女の家に住み込みで働いている17の女の子。
最低限の学校教育は受けているものの、平民であり女性であるアンに留学も職人への弟子入りも難しいのが現実だ。
でも最近、領主様の始めた新事業により年齢性別問わず、この領地の特産品になる可能性があるものを生み出せる人物が募集されている。
その審査に通れば留学費用も使われる道具の支給も約束される。
彼女はアンにそれをすすめようとしているのだと分かった。
「それは素晴らしいことだわ。私もアンの作るアクセサリーが欲しいと思っていたのよ。」
そう同意すれば彼女は自分のことのようにはにかんで笑った。
この領地の最大の魅力は彼女のような領民たちであると私は思っている。
本当は流行のドレス何て彼女には必要ないぐらいの魅力があった。
彼女だけではない。
この地に住む人々は前世では考えられないほど生き生きとした顔をしている。
豊かな土地と人と人が手を取れる環境で育った彼女たちは表情豊かでとても美しかった。
毎日毎日同じことの繰り返しで足元ばかり見て歩くようなものは1人もいない。
皆が自分で考え行動する、この環境だからこそ身についた魅力なのだろう。
田舎暮らしは面倒だと前世では言われていたがそんなことはない。
私はこの土地で生涯を過ごそうと決めた。
「でも不思議ね、リヴィと話していると大人のお姉さんと会話しているみたい。」
彼女は勘も鋭かった。
今の私は5歳、彼女は12歳。
彼女は本来私の倍生きている。
「(いけない、いけない。もう少し子供らしくしよう)」
少しだけ反省した。