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リヴィ3歳



生まれた瞬間から前世の記憶を持っていた私は、これが子供の神秘だと疑っていなかった。

3歳までの子供にお母さんのおなかの中で何していた?と質問すると、水の中にいたとか歌を聞いていたなどただしい記憶を覚えていることがあると以前テレビで医者が言っていたのを思い出した。


きっと3歳が過ぎればこの記憶もなくなるのだろうと暢気にも思っていたのだ。


3歳の誕生日を迎えた私は依然、前世の記憶がある。

そのため若干子供らしくない子供だと両親を悩ませていた。

子供らしく振舞おうにも、何が子供らしいのか分からなくなってしまっていた。


生まれたときからほとんど泣くことはなく、言葉も早く、立つのも早かった。

好き嫌いはなく、寝付きもよく、夜泣きすることもない。


3歳児でありながら1人で本を読んで過ごす私に両親は気味の悪さ感じているようだったが、これも個性だと認めてもらうほかはない。

むしろ多くの母が経験するであろう育児ノイローゼが軽減されたと喜んでもらいたかった。



少し私の前世の話をしよう。

私は生前、と言っても死んだ記憶もないうえ今の世界の方が前よりも経済、技術発展が乏しく、国の名前も聞いたことがないあたり未来に生まれ変わったわけではない様で何と言っていいかは分からないがとりあえず、以前の記憶と前世とする。


「(もしかしたら何らかの左様で当時の国々は滅び、また新しく世界は発展している途中の可能性は残っているが…。)」


ともかく平和の国、日本に生まれ育った私は特別恵まれていたわけでも、貧しいわけでもないごくごく普通の生活を送っていた。

唯一変わったことと言えば100歳過ぎまで生きた曾祖母が華族出身と言うことだろうか。


曾祖母は亡くなる直前までボケることなく、しゃっきりとした人だった。

曾祖父と会ったことはなかったが、駆け落ちして今の家庭を築いたのだからなかなかにアグレッシブな人だったのだと思う。


「住めば都と言うでしょう?あれは嘘よ。都は自分で築くこと、分かった?」


曾祖母と最後にかわした言葉だ。それが私の中で今も残っている。

私はその曾祖母が少し苦手だった。


いつまでも美しいその人の手は水仕事を一切しない為か、ささくれ1つあったことがない。

特別恵まれていたわけでもない我が家で水仕事をするのは母1人。

それ自体はよその家でもあり得ることだから構わないのだが、それ以外にもその人は一切の家事をしなかった。


曾祖母の息子である私の祖父は75歳で亡くなり、後を追うように翌年祖母もなくなった。

それまで共働きの両親に代わり家事は祖母が行っていたが、これを機に母は専業主婦になる。別段おかしくはないように聞こえるかもしれないが、私は少しばかり寒気を覚えた。


祖母が祖父の元に嫁ぐまでのことは知らないが、祖父は曾祖母を「あの人はお姫様だから」と言って家事の一切に関わらせてはいなかった。

母もまた「おばあちゃまはお姫様だから」そう言って家事のすべてを担った。

100歳近い老体の為、母が家事をすることは何らおかしくはないし私が生まれたときにはすでに80歳だった曾祖母。

その人がご隠居の身として部屋に引きこもっていることも本来なら有り得る話ではある。


なぜ寒気を感じたのか。

それは母、祖父から聞いた話と曾祖母との会話の中にある妙な違和感だったのだと思う。



華族出身と言うことがお姫様という表現になっているのかは分からないが、それを理由に家庭生活における作業はすべて義娘、孫に任せ、本人は部屋にこもり優雅に読書。

曾祖母が出かけたいと言えば誰かが車を出し、曾祖母が帰りたいと言えば買い物の途中でも帰宅する。我が家にとって生活の中心はすべて曾祖母だった。

背中が曲がることなく、シミ一つない肌は真っ白で皴こそあるものの年齢よりもはるかに若い。

それこそ記憶の中にある祖母よりも曾祖母の方が若く見えるのだから恐ろしさを感じてしまう。

自分の足で動き回ることのできるその人が家の仕事に参加していないことがいつも不思議でならなかった。


そんな家から離れたく、大学の進学を期に1人暮らしを選択。

つかの間の休息も曾祖母の呼び出しがあれば帰らざるおえなかった。


100歳を過ぎ亡くなったその人は直前までピンピンとしていたようだ。

身内がなくなりほっとしてしまう自分は人として間違っている、そう思うもこの後知らされる真実に再び驚愕した。



曾祖母の遺品整理をして気づいたのだ。

うちは別段貧しくはないが、特別裕福なわけでもない。

しかしその人の部屋には溢れんばかりの高級品が鎮座していた。

服やアクセサリーはもちろん、櫛一つにしてもとんでもない額のするそれらは一体どこから来たものなのか。

駆け落ちの末の結婚なため、曾祖母の実家とは考えにくくまた最新のブランド物があるあたり古いものだけでもなさそうだ。

調度品もそうだったが、部屋に飾られている絵も皿もすべてが驚くような値段がついておりネット上でそれらを検索しては驚きと恐怖が私を襲った。



そして私は曾祖母と最後にかわした言葉を思い出した。

ここはあの人の都で城だ。

あの人の美貌は時間とお金が作り上げ、周りを巻き込み意のままに操っていた様はまさしくお姫様だったのだ。



その反動かは分からないが、私はミニマリストのナチュラル思考になった。

正直流行りに乗っかったところもあったため、反動なのか一時的なものなのか自分の本当の好みなのかは分からない。


ただ生まれ変わり、これからの生活がその曾祖母の言葉が大きく影響していくことなどまだ知る由もなかった。







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