表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/113

ドリンク・ブレイク



「フランクリン大佐、こちらはエチオピア帝国皇子、メスフィン・ハイレアムラク殿下だ」


「紹介に感謝する、エストラーダ将軍。

 というわけでメスフィンだ、よろしく。ご存じとは思うが、民間警備のM&GのCEOでもある」


「ええ、ええ。こうして会って話すのは初めてですが、お見かけしたことは何度かあるのでしょうな。

 初めまして、メスフィンCEO。ニューエデン州兵のウェンディ・フランクリンです」


 儀礼的な握手を交わし、一同は着座する。


「さて、とりあえず儀礼的な内容――つまりはこの休戦会議の本題を済ませてしまいましょうか」


「そうしよう、大佐」


「俺も将軍に賛成だ」


「では、メスフィンCEO。ニューエデン州兵としては、この度の契約違反に厳重な抗議をさせていただく。

 集団での敵前逃亡をなしたエストラーダ将軍の連隊と共謀してのニューエデン市方面への道路の占拠、航空設備の占拠など、どれも重大な不当行為だ。

 折り悪く、旧サウスカロライナの復興を掲げる過激派が州内に侵入した。

 反乱罪での刑事告訴を含めた断固たる対応を、州政府に要請するつもりです」


 熱のない口調で、ウェンディは建前をのたまった。


 この席は、集団逃亡をなしたエストラーダ将軍の連隊、――つまり州境防衛隊のヴィペルメーラ派閥の原隊復帰勧告のために、ウェンディが自己の裁量で参加を決めた休戦会議だ。


 州中央での争いに決着が付くまで、こちらの主張が受け入れられるはずもない。


 だが、少なくとも言うべきことは言っておく必要がある。


 シャムロックが勝利を収めた場合に備え、ウェンディがヴィペルメーラ勢の反乱に対し何もしなかったわけではないことを示すために。


「その抗議は不当であると言わせていただこう、フランクリン大佐。

 我々M&G社の行動は、ニューエデン州兵の責任者エストラーダ将軍からの正式な要請に基づいたもので、至って正当である、と」


「そして私の部隊の行動は、ニューエデン州知事パオロ・ヴィペルメーラ閣下からの命令によるものであり、ただ忠実に職務を遂行しただけだ」


 メスフィンとエストラーダ将軍も、各々の立場の建前を繰り返す。


「ヴィペルメーラ州知事は暗殺され、今はマクライナリ副知事がニューエデン州兵の最高司令官なのではありませんか、将軍?」


「州知事の暗殺という流言飛語の存在は知っているとも、大佐。しかしそれはニューエデン州政府の公式見解ではないし、権限の移行手続きも完了していない」


 もちろん、将軍もパオロの死は既知の事実として理解している。


 しかし彼の立場としては、この建前を話すしかないのだった。


「それは仕方のないことでしょう。

 議会は開かれておらず、権限移行手続きの証人となる資格を持つ高官たちは、2人を除いて殺害されている。

 必要な証人は3名以上。これでは移行手続きの完全な実施は不可能だ。

 州憲法の想定外の事態なのですから、慣例に従って副知事を事実上の知事として扱うべきでは?」 


「慣例とはどこのものかね? ニューエデン創建以来、州知事の退任は起こったことがないが」


「いや、民主共和制ごっことは見事なものですな。君主国の皇子としては、目を見張るばかりだ」


「……飲み物でも嗜むとしようか、大佐。エチオピアの友人に、合衆国の威信をおとしめさせぬためにも」


「そうですね、将軍。結局のところ、この事態における我々のすべきこととは、休憩を続けることなのでしょうし。州都での争いが終わるまで」


「ああ。……しかしたまらんな。15年おきに内戦とは。

 20世紀の世界大戦とて、20年は平和がもったものを」


「仕方ありますまい。権力は堕落する。かつてはサウスカロライナ。そして今はニューエデン。

 そして腐敗した政府は、人民の手によって倒されるべきである。

 偉大な合衆国の偉大な伝統です。腐敗した政府から給料をもらっている我々が言うのも、奇妙かもしれませんが」


「そんなことはないだろう、大佐。

 連中の利権と、そこからのおこぼれのために兵たちを積極的に犠牲にすることを、我々は避けている。

 良くやっているとも」


「だといいのですが。

 ……っと、命令が来ました。航空戦力を州都に送ってほしいとか」


 端末からの通知を見て、ウェンディが言った。


「それは大変だな、大佐。

 航空設備を占拠する逃亡部隊を、武力行使を行って排除するか?」


「いいえ、もう少し降伏勧告工作に努めてみることにします。

 彼らも同じニューエデン州兵ですから、いずれきっとわかってくれるでしょう」


「君の上役はそれで納得するのか?」


「しないでしょうね。

 ですから、もう少ししたら無人機発着設備だけでも奪還してドローンを送り、申し訳程度に命令に応えておきたいのです。

 ご協力願えますか、将軍?」


「結構だ、大佐」


「ありがとうございます。

 ……しかし私に泣きつくあたり、あまりかんばしい状況ではないようですな。

 どうも、時の運はあなたの上役にあるらしい」


「正確には、私の上役であった男の職権を乱用するいたずら娘とその乳母、といったところだろうがね」


「ではその方々へのお取り成しのほどを、戦後によろしくお願いしますよ、将軍。私や、私の部下たちの身分を保証してください」


「もちろんだとも、大佐。そうなった場合には最大限善処させていただく。しかし、戦では何があるか誰にもわからん。

 私の上役もどきが勝つとは、まだ決まったわけではない……」


     †


「ゲイリー、空軍を。竜を暴力でねじ伏せろ。

 文学部連中、作者の気持ちでも考えてやがるのか、俺の方でも連絡がつかんのだ」


『急ぐとも、プレジデント。

 だがM&G社が航空ターミナルを占拠しているんだ。排除を命令しているが――』


「はン、そうか。

 俺たちもしてやられたもんだな。ま、いいさ。なるべく急げよ」


『わかっている、プレジデント。

 増援を送るまでどうか御身を守ってほしい』


「言われるまでもない。

 しょせん、坊やとトカゲが1匹ずつだ。俺はどちらにも殺されはせんよ。

 手早くやっつけて、かわいい尻で楽しませてもらうさ」



本日も『 pseudo kaleido 』への御高覧を賜り、誠に幸甚でございます。


皆様によろしきことのございますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ