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ノーバディ・ネヴァー・ダイズ



「やった!」


「ぎゃあ!」


 2人は快哉を叫ぶ。


 同時にアルフは異臭をかぎ取る。何かの焼けたにおいだ。


 対空レーザー砲の直撃を受けて、鞍の腹帯が一部焦げたのだ。


 シャムロック・ビルディングの屋上の四隅に設えられたAI制御式の対空システムが、白き竜を撃墜すべく自動的に攻撃を仕掛けてきていた。


 イヴが反射的にレーザー砲の俯角稼働域外まで下降したことで回避できたが、実に危険なところだった。


 このレーザー砲の熱量では白き竜を焼き滅ぼすには足らない。


 しかし、鞍やアルフを固定するダクトテープ群などには十分すぎる。


 そしてそれらを焼かれてしまうと、アルフが転落死する可能性があったのだから。


『対空防御システムですか。危険ですね。

 接近前に、イヴに遠くから壊してもらって頂戴』


 対空システムには、レーザー砲だけでなく30ミリ口径4連装対空機関砲も備わっている。


 今はまだ射程範囲外だが、劣化ウラン製30ミリ徹甲焼夷弾は強力だ。


 小銃弾を弾く白き竜であっても、これが直撃すれば無視できない重傷を負いかねない。


「はい、ヴェラ。だって、イヴ」


「ぎゃあ」


 白き竜は飛翔。悠々と。


 高層ビル群の狭間を行き、翻って急上昇。


 距離を取ったうえでシャムロック・ビルディングに向き直ったところで、白き竜は口を開く。


光芒一閃! 


 地面と平行に、ビルの屋上をかすめる高さで、青い光柱が生えた。


 一基の対空システムを破壊。そのまま亜光速で青き光柱は直進し、ペントハウスを貫通。対角線上の対空システムをも圧倒的な熱量で破壊。


 白き竜は首を左右に振る。


 青き柱は、扇状に屋上周辺を蹂躙する。残った二基の対空システムもこれで破壊された。


 シャムロックビルの対空システムは殲滅された。隣接する不運なビルの屋上を一部えぐり取りつつ。


「ありがとう! イヴ」


「ぎゃあ!」


     †


「アルフたちは順調に敵方へ迫っています」


「めでたいこった。ま、私らにも敵方は順調に迫ってるんだけど」


     †


 ニューエデン市内、ダウンタウン。アンドロイド娼館、《プソイド・カライド》周辺。


 娼館、《プソイド・カライド》は、西側正面を道路側に接している。


南北に走る道路の両端から、シャムロック・ギャングたちとフレドーたちの車が現れる。


北側からは2台。南側は3台だ。どれも窓のない、防弾仕様の車種だ。


ギャングたちは車の側面を道路と垂直になるように駐車。即席の遮蔽物を構築。


「よし行くぞ!」


「ファッキン焦るな! 後続を待とうや。戦力の逐次投入はまずいだろ?」


 はやるフレドーを、シャムロック・ギャングの現場リーダー、ブルックリンがたしなめる。


「だが速く攻めんと! 地下から逃げ出されたりすると面倒だぜ。今ならサリンで――」


「ファッキン聞いてなかったのか?

 プレジデントは生け捕りをお望みだ。ガスはなしって言われてる」


 ブルックリンはそう言って、タブレットを操作。


 近隣の下水道見取り図を表示させる。


「地下が気になるってんなら、別動隊をやりゃあいい。だろ? どうにもファッキン遠回りだが。

 ――おい。これが地図だ。

 クソ穴詰めだが、俺はお前らに期待してっぜ」


 タブレットを受け取った者と、ほか数人のギャングが、武器を持って車外に出る。


「手は打ったんだ。俺らはファッキン遅刻野郎を待って攻めよう。な、フレドー?」


 銃声。


 車外へ出たばかりの別動隊の1人が倒れる。


 準備を終えたドロイドたちが、店舗正面に陣取っている。


 ギャングたちは車外へ。各自発砲。それぞれの銃でドロイドを狙う。


 防弾仕様の車という遮蔽物のために、ギャングたちは決して無防備ではない。


「が!?」

「ファック!」

「クソッ!」


 だが射撃のためにはわずかながらも身体を露出させねばならず、そこを突かれて死傷する。


 ドロイドの狙いは恐ろしく精確だった。


 隙を見せれば即座に撃ってくる。身を守ることを優先するあまり、機を逃すこともない。


 性サービスドロイドたちに、自己の命を惜しむ機能はない。だが銃の扱いは完璧だ。


 彼ら彼女らのAIにはアルフのアクトウェアと同等性能の、銃器取り扱い管制アプリケーションが搭載されている。


 ヒト生体脳との協調動作を指向するアクトウェアとは設計思想が異なるが、射撃の精確さは同じところに起源を持つ。


 公開演習記録などから、射撃動作のモーションキャプチャデータを大量に収集し、機械学習によって処理。AIおよび人力にて補正し、諸々のノイズを除去。


 〝ヒト型が射撃を行う際の身体制御の最適解〟の近似値を算出し、再認とフィードバックを繰り返して精度を可能な限り高めていく。


 そうして、ドロイドたちの射撃能力は作られた。


 天才に恵まれたる熟練兵の、技術的全盛期同様の正確さを誇る射撃だ。


「ファッキンひっこめ! アスホールども!」

「了解おファック!」

「ファッキンイェッサー!」


 ギャングたちは、敵が厄介な相手であると理解した。


 無駄も慈悲もない戦いぶり。艶めかしい見た目とのアンバランスさ。


 ギャングたちの人数と装備では、彼らは長期にわたって戦い続けるだろう。


 敵の装備によっては、撃退されることさえあり得る。


 銃で無力化できないわけではないにしろ、ドロイドたちは人間より頑丈だ。的確に急所へ銃弾を当てなくてはならない。


 対して、ギャングとフレドーたちは人間だ。


 死や痛みを恐れる意識がある。


 撃たれれば致死の傷でなくとも痛みに悶え、さらなる傷を負う隙を作ってしまう。


 そこで、ブルックリンは攻撃を中止させる。包囲を固持することに専念させた。


「お? 敵さん、やる気をなくしたのかな?」


 応援を呼ぶつもりだろう、とエマコは考えた。


 だが、そうさせるわけにはいかない。


 敵の攻勢が衰えるなり、エマコはドロイドたちに指示を出す。


 キーボード操作によるコマンド群として。


 ドロイドたちは隣の建物の屋根伝いに進む。敵の車陣側面に回り込み、縦射をかけるつもりだ。


 北側のシャムロック・ギャングたちは、すぐに敵が回り込もうとしているのだと気づいた。


《プソイド・カライド》正面を狙うのをやめ、屋根を渡ろうとするドロイドを狙って撃つ。


空中で基幹部品を撃ち抜かれ、着地できずに路地へ落下するもの。


 隣家に飛び移るなり関節部を撃たれ、動けなくなるもの。3分の1ほどのドロイドが無力化される。


「よーし……!」


 だがエマコは満足げだ。車陣に守られていない側面に回ることができた。


 稼働中のドロイドたちは、射撃管制アプリに導かれM16を構え、射撃を開始。自機の稼働する限り撃ち続ける。


「!?」


 失敗に気づいた直後、ブルックリンは頭を撃たれる。32年の生涯が終わった。


 どこかの女が腹を痛めて産み、善行と多めの悪行とを積み重ねてきた人間の一生が。


 めずらしくはなくとも当人にとってはかけがえのない、禍福糾える記憶を保持してきた意識が途絶えた。


 不可逆かつ永久的な消失として。



今日も〝 Pseudo Kaleido 〟をお読みくださりまことに感謝いたします。


皆様によろしきことのありますように。

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