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デンジャー・フライト・ワンダー・サイト



「さて、2人とも準備はいい?」


「はい、エマコ」


「ぎゃあ」


 エマコの問いに、アルフとイヴは元気よく返事をした。


 アルフは完全武装。


 エマコ好みの、美を引き立てるためのいつもの装いでなく、実用一辺倒の格好だ。


 白っぽい都市迷彩戦闘服上下に、武骨な軍用ブーツ。


 ナノ珪素セラミックプレート入りの防弾ベスト。


 堅牢なヘルメットは、頭頂部にダクトテープでウェブカメラが固定されている。


 武装はスフィンクス拳銃に、フランス製ブルパップアサルトカービン<ファマス・クール>。


 そして銃剣として対応する軍用ナイフに、4個の手榴弾だ。


「OK。じゃ、がんばってね」


「うん。イヴ」


「ぎゃあ」


 イヴは恐るべき奇怪の音楽を奏でる。


 ヴェラたちが気がついたとき、そこには巨大な白き竜がいた。


「……何度見ても慣れませんね……」


「うん、それにあの声もね……」


 ヴェラが恐ろしげにつぶやく。


 心からの同意を持って、エマコは同様に声を落として言う。


 白き竜の背には鞍。

 アルフは軽やかに騎乗。武装が揺れて音を立てた。


「あの鞍はどこから来たのでしょうね?

 有用ですが……竜から人の姿に戻ったとき、既にお洋服を着ているような理屈でしょうか?」


「うん、質量保存則とかがよくわかんないけど、まあそういうことなんだろうね」


 ヴェラはどことなく白き竜に付けられた装具に見覚えがある。


 アルフに貸した馬、クレッシタにつけられたものにそっくりだ。


 きっと乗馬の経験が、何か超自然的に働いているのだ。


「わあ、ありがとう、イヴ」


「ぎゃあ」


「これで大丈夫だね」


「いやそんなことないから」


 無邪気に喜ぶアルフとイヴに、エマコが水をさした。


「そうなの?」


「にぇえ……」


「ゆっくり飛ぶならこれでもいいんだけどね。

 ヘリとかドローンの攻撃でやられないような速さで飛ぶとなると、いくらアルフでもかなりの確率で落ちて死にます。

 だから、まあ、じっとしてて……」


 エマコは喋りながら、ドロイドたちと共に作業を進める。


 エマコたちは、ナイロンベルトやワイヤー、ダクトテープを使って、アルフを竜に固定する。


 パーティ会場からの脱出時、竜の背には鞍が現れることがわかった。


 ためにエマコは鞍を生かす方向でアルフの安全確保のための計画を立てた。


 物理演算によるシミュレーション確認、AIによる追加検証も済ませてある。


「……よし。終わり!」


エマコたちはアルフの白き竜への固定を済ませ、その確認を終えた。


「じゃあ行ってらっしゃい。気を付けて」


「アルフ、イヴちゃん、お願いしますね」


「はい。行ってきます」


「ぎゃあ」


 アルフとイヴは気楽に答えた。遠足にでも行くように。


 奇妙に音楽的な恐るべき声で吼え、白き竜は跳躍。


 宙に浮くなり、翼で空を打つ。


 急速に上昇。


 吹き荒れるすさまじい風に、地上に残った者たちは思わずよろめく。


「……頼むよ、マジで」


「ええ、私たちの望みはあの子たちにかかっています」


 白き竜は速度を増しながら上昇し、ダウンタウンの上空を飛ぶ。


 もちろん、最終目的地はパトリックの座すシャムロック・ビルディングだ。


 だがまず先に、寄るべきところがある。


 《ニューエデン大学文学部英文学科特別研究室別棟》だ。


 シャムロックの竜関連部門が、その名で偽装された施設にあることを、ヴィペルメーラは把握していた。


 イヴを送り届けるよう指定された場所もここだ。


 竜関係の人員を抱えていそうな場所といえば、ここしかない。


この反攻作戦は、イヴの力によるところが大きい。


 白き竜の活動を阻むものは、可能な限り排除する必要がある。


 ゆえに予防のため先制攻撃を行う。


研究所別棟の場所はシャムロックビルの反対方向。あまり寄り道しやすい場所ではない。


 だが高速で飛ぶ白き竜には、市内のどこにあっても同じだ。


 今すでに、飛行速度は亜音速に達している。


『そのままお願いします、イヴ。

 これより速く飛んではいけませんよ。アルフが危険です』


「はーい。よろしくね、イヴ」


「ぎゃあ」


 IP電話つながるヴェラに、アルフとイヴが応えた。


 身体を固定されたアルフの青き両の目には、ほとんど白き竜の背しか映らない。


 代わりにヘルメットに固定されたウェブカメラが、空の景色をとらえている。


 ウェブカメラは予めダクトテープで取り付けられたもので、アルフの疑似ニューロリンクに同期させてある。


 頭頂部にできた第三の目のごとく働き、アルフに亜音速飛行の世界を見せる。


「あった!」


 事前に航空写真で確認した建物を、アルフは見つけた。


 上方に有刺鉄線による柵を設けたコンクリート製の高い塀。


 光触媒花崗岩でできた横長の四階建て建築物。


 アルフのAR視界で、これらを赤い枠線がマーキング。


「イヴ、あの高い塀のある四階建ての建物を壊して!」


「ぎゃあ!」


 童女の声で答え、白き竜は口を開く。


 竜の口のやや前方。直径数メートル、長さ数百メートルに達する、青く輝く光の柱が出現!


 青き光柱は、一瞬で研究所の壁の片側から反対側へ貫通!


 白き竜が少しばかり首を動かすと、青き光柱も連動する。


 扇状に破壊。研究所は灰燼と化した。


「やったあ!」


「ぎゃあ!」


「曲がってくれる?」


「ぎゃあ」


 空に大きな弧を描き、白き竜は元来た方へと方向転換する。


 遠心力に、鞍の腹帯とワイヤー群がきしむ。ヴェラとエマコは映像をこわごわ眺めた。


 方向転換を終えた白き竜は、再び亜音速にまで加速。シャムロック・ビルディングへ飛翔。


「とりあえず、うまくいきましたね。初期も初期の段階ですが」


 アルフの頭頂部カメラの映像を見て、ヴェラが言った。


「うん。でも、喜んでばかりもいられないよ。

 今に、鉄砲持ったギャングさんたちがやって来る。

 アーサーに対する私の失言に今日まで気づかなかった人たちとはいえ、竜に乗ったアルフが、どっから来たかは確認できるだろうしね……」



本日も Pseudo Kaleido をご覧くださり、誠幸甚に存じます。


読者諸賢、運営諸氏、その他関係者の皆様に、良きことのございますように。

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