プロパガンダ・ウォー
「――ご覧いただけましたかしら?」
<オテル・パラッツォ>のパーティー会場で裏切者たちを射殺する、アルフの視聴覚情報。
そして核シェルターでの処刑映像を、ヴェラは動画処理AIを使って編集・再編。
FPSの好プレー動画めいて仕上げたプロパガンダ映像を、インターネット上に公開。
今は生放送の最中だ。
日和見のヴィペルメーラ構成員に向けて、ヴェラは戦果のあったことを喧伝する。
「恥ずべき裏切者のうち、3人が死亡!
シャムロックの幹部も、3人が死亡!
あとはおびえて逃げる有象無象!」
あくどいまでに煽動的な口調で実況し、ヴィペルメーラの優位と正当性をまくしたてる。
規約違反でアカウントを凍結されながらも、別のアカウントへの乗り換えを続け、武装蜂起を煽り続ける。
「ヴィペルメーラ・ファミリーの皆さん! 勝利は目前です! 一体何を恐れることがあるでしょう?
さあ! 武器をお取りなさい! 死せるドン・パオロの敵を取るのです!
呪われるべきパトリック・マクライナリ。かの者を殺した方は、あらゆる望みを叶えるでしょう!
私はあらゆる褒賞と栄誉を約束します!
さあ! 勝利を得ようではありませんか!
我々の名誉を! 世に示そうではありませんか!」
力強く言って、ヴェラは生放送を終了。
カメラに覆いをかけ、腰を下ろして息をつく。
「……ふぅ……」
「おつかれ。
ツッコミどころが少なくない思うけど、プロパガンダなんてあんなものかね」
エマコが声をかける。
「ええ。……戦局は有利でないと、誰もがわかっているでしょう。
ですが、それを正直に言っていたのでは、勝てる戦いも勝てません。
戦果が上がっているのは事実なのですから、それを強調しなくては」
「おっしゃる通りで。
……でもなんか、カメラの前でわめいてるの見ると、妙な気分だよ」
「でしょうね。
山師の楽屋裏なんて、見栄えの良いものではありませんから。
けど山師は私だけではありません。
マクライナリであれ誰であれ、――もし生きていたとすれば父であれ、私の立場になれば同じことをするでしょう。巧拙に差はあるでしょうが。
ですが、全き正しさを持つ者は、ただ神お1人ばかりです」
「そだね、ヴェラちゃんの言うとおり。
悪党と悪党の戦いなら、誰が勝とうとアリだよね……」
†
「うろたえるな馬鹿ども! 3人ばかり死んだのがなんだ! 俺たちは既に戦略的に勝ってるんだぞ!
敵はわずかだ! さっさと鎮圧しろ!
実戦としてはこんなもの屁だ!
俺が見たベトナムファッキン地獄に比べれば、ガキの戦いごっこも同然だぞ!」
パトリックはマイクに向かって怒鳴り散らす。
ギャングたちの携帯端末に、プレジデント権限で割り込み、声を届かせる。
不意に、声音が穏やかで権威あるものに変わる。
「……落ち着いてやれよ。
用意に鎮圧できるはずだ。ヴィペルメーラは、しょせん烏合の衆に過ぎん。
各員がよく連携して叩けば、なんのことはない」
そこでカウンタープロパガンダを終え、パトリックはシャムロックの幹部最後の生き残りに、具体的な命令を出しにかかる。
「ゲイリーか? 俺だ。ユニオンも急にさびしくなっちまったな。
こんな状況だが、俺は予定通りワシントンへ行く。
だからニューエデンは全て君に任すぞ、ゲイリー」
『ああ。承知しているとも、プレジデント』
「結構。では対処指示を出す。状況的に分かりきったことだがな。
まずとにかくダウンタウンの人形淫売宿、《プソイド・カライド》に兵隊を送れ。ファッキンハジベのファッキン自宅だ。
俺の影武者の生体ドロイドが、ハッキングの痕跡もなしに異常動作をしたなら、あの女が裏切ったに決まっている! あいつが管理してたんだからな。
また秘書が、ちょっとした裏切りの証拠を見つけたところさ」
『そう言われるだろうと思っていたよ。そこで、サリンと防護装備を持たせた連中を向かわせている』
「いや。ダメだ、ゲイリー」
『何?
地下だぞ。ガスで殲滅するのが一番早い。
周辺への被害を懸念しているなら、対策は万全にしているが?』
「ダメだ、ゲイリー。
長期戦になった場合はともかく、現段階での毒ガスによる殲滅は許可できん。
可能な限り博士は生け捕れ。ド糞ビッチだが、貴重な技術を持っているのは否定できん」
『……裏切者を許すのか? 将来に禍根を残すのでは』
「戦後はジャップらしくカローシ寸前にこき使ってやるさ。謀反の計画を立てる気力もなくなるよう、クッタクタにな。
それに、たかがクソ学者の出来ることなんざ大したことない。ことを起こすごとに鎮圧する手間を考えても、飼い殺して技術を得る方が金になる」
『わかった。殺害ではなく生け捕りを命令する』
「結構。それにな、あのクソ穴にはヴェロニカもいるかもしれん。
可能性は高くはないと思うが、ひょっとするとひょっとするぞ? ガスを使うのは時期尚早さ」
『せっかくの地下に籠った敵だから、使ってみたかったのだが仕方ないな。
他の戦線についてはどうだ? 何かご希望など』
「ない。君に任せるとも、ゲイリー」
『心得た、プレジデント』
「よし。では頼む。俺はこの辺りで失礼する。君の幸運を祈るぞ、ゲイリー」
パトリックは通信を切った。
今日も Pseudo kaleido をお読みくださりありがとうございます。
皆様によろしきことのありますように。