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リヴィール・リベリオン



「こんばんは。

 僕はアルフレッド・ドゥンスタン・アダム・モントフォートです。この子はイヴです。

 よろしくお願いします」


「ぎゃあ」


 アルフとイヴは挨拶する。


 8G回線が繋ぐインターネットの向こうには、ジュディアと2つの組織の代表たち。


 すなわち旧サウスカロライナ州亡命政府の暫定知事、ヴィクター・スターストライプス。


 M&G社CEOにしてエチオピア第4皇子のメスフィンと、親友のゲブレマリアム伯爵。


『随分小さいのだな。確かに映像にあった二人だが』


『わりとおネムに見えるが大丈夫か?』


 ヴィクターとゲブレマリアムが、口々に感想を言う。


「うん、今寝かしつけにいくとこだよ。御挨拶だけでもと思ってね。

 ――じゃ、行こっか。

 2人ともバイバイして」


「はい、おやすみなさい、皆さん」


「ぎゃあ」


 2人を連れてエマコは一時退席。


「おやすみなさい、アルフ、イヴ」


 ヴェラは手を振って見送る。


『……雰囲気が崩れたな』


『まあ頭が柔らかくなったと考えましょう』


『だが2人が要の役を果たすのだろう? 参加しなくて大丈夫なのか』


「問題ありません」


 ヴェラが言った。


「彼らの能力は私たちで正確に把握しています。会議に参加させれば余計な説明が必要になり、むしろ手間がかかります。

 今はしっかり睡眠を取らせるのが最適です」


『……お嬢さまのおっしゃる通りです。

 博士が戻り次第、本題に戻りましょう』


 ヴェラの説明は簡潔で的を射ていた。


 同じくインターネット越しに同席するジュディアにも、補足するところがない。


「――どうも、お待たせしました。進展は?」


 少しして、エマコが戻る。


「いえ、あなたを待っていただけです、博士。

 では、あの2人の戦闘能力についておさらいから始めましょう――」


 アルフとイヴがが眠ってからしばらくの間、大人たちは作戦会議を行った。


 アルフの復活を待つ間に概要を決めた作戦の最終調整と、細部のすり合わせとのために。


 翌朝。


 2048年12月31日に、ヴィペルメーラの大規模反攻作戦が始まった。


     †


「パソコンポチポチしてるだけでも緊張するね……」


 エマコはパンタグラフ式キーボードを叩く。


「ニューロタイパーなどはお使いになりませんの?」


「私ゃ婆さんだからね。

 カチャカチャタッターン! が出来る旧式の方が落ち着くのさ」


 生体ドロイドの搭載AIより上級の指令を出し、エマコはパトリックの影武者である生体ドロイドを操作。


「作ったときはこんな使い方することになるとは思わなかったな……」


「たった数日前のことですのに、随分と前のことのように思われます」


 ヴェラは《オテル・パラッツォ》のパーティー会場でのことを思い出す。


 暗殺対象のすり替え、ドンの影武者の乗っ取り。


 あれはエマコが行ったことだった。


「ところで、あのときはどうやってハッキングを行ったのです?

 父の影武者は非常に重要なシンボルです。ファミリーが雇った技術者たちが、それなりのセキュリティを施していたでしょうに」


「まあ責められるような仕事はしてなかったよ。でも相手が悪かったね。

 私がニューエデンのドロイドとAIに、どれだけ関わってると思う?

 バックドアくらいあるし、そうでなくとも色々やり方はあるのです」


「なるほど……高度専門技術者を敵に回すのは危険ですね……

 では今も、同様の方法でハッキングを行ったのですか?」


「いや、これは〝私の〟なんでね」


 この生体ドロイドは、おびき寄せたジュディアを騙し撃つために、パトリックが急遽エマコに用意させたものだ。


 ハッキングなどするまでもなく、エマコは元より搭載AIに対する管理者権限を持っている。


「よし、これで私は爺さんも同然だ」


 パトリック本人と同じ生体情報を持つように作られた肉体を使い、生体認証を突破。


 電子的にパトリックと同等の権限を得る。


 パトリックの送信記録をAIに分析させて、文体を模倣。


 本人が書いたであろうメッセージと、有意差のない文章を作成。


 電子署名を添えてメッセージを送信。


 幹部たちに、シャムロック所有の核シェルターに集まるよう命令した。


 幹部たちには、メッセージを偽物と見抜くことはできない。


 状況からして、内容はやや不審ではある。


 だが技術的には本物と同一だ。


 パトリックの意思に基づいてはいない、というだけで。


 これを疑うべき客観的証拠はない。


     †


 地下核シェルターの会議室には、3人が集まった。


 シャムロック幹部のカルロス・サンファンデル。


 同じくアブラム・アル=ラシード。


 パトリックの娘であるジェーン・B・マクライナリさえも。


 メッセージを送ったものの、フレドーと、ゲイリー・コンラッドは来なかった。


「もう少し待ってみる?」


「いえ。機を逃してはなりません」


 エマコはうなずき、キーボードを操作。


 影武者ドロイドに殲滅を命じるコマンドを送った。


「さて、諸君。良く集まってくれたな。君らに会えて、俺は嬉しいよ」


 パトリックの顔で親しげに話しながら、影武者はすばやく銃を抜く。


「!」


「な!」


「…………」


「さっそく本題に入るとしよう。まず、ヴィペルメーラ残党の対策について」


 発砲。


 影武者は変わらぬ調子で話しながら、無慈悲に銃撃を続けていく。


「やめろ! プレジデント」


「あなたを殺して生き残る!」


「ファック! クソ穴にはまったか!」


 幹部たちは無能ではない。


 いずれも地位を獲得し、堅守するだけの才覚を持っている。


 だが助かるはずもなかった。


 同じテーブルという超近接距離で、上役からの不意打ち、しかも捨て身の猛攻だ。


 ドロイドに反撃し、外装や非重要パーツを破壊できただけでもましな方だ。


 彼らの死は、核シェルターに来てしまったときに決定事項となっていたのだ。


「ク、ソ! ファ……キン偽、物め……」


 呪いの言葉を残して、3人の幹部たちは死に絶えた。


 ドロイドの視点カメラは、死の一部始終を捉えていた。


 処刑動画を、エマコは手元に送信させる。それをさらに、ヴェラの端末へ転送。


「プロパガンダの素材だよ。がんばってね」


「ありがとうございます、博士」


 ヴェラの言葉に頷くと、エマコは再びキーボードをたたきだす。一連の指令をまとめて送る。


 影武者ドロイドは、最後の指令に従って稼働。


 パトリックの権限で核シェルターを完全閉鎖。


 物理的・電子的に外部から完全遮断。


 エマコの操作が届かなくなっただけでなく、パトリック本人であっても、もはや監視カメラ映像などにアクセスするのは容易ではない。


 駄目押しに、ドロイドは手近のインターネット中継器へ発砲。


 ネットワーク環境をさらに壊すと、人知れず待機状態へ移行する。


「よっし終わった!

 さて、アルフとイヴちゃんは急いでね。

 不意打ちで済ませられるに越したことはないし。遅くなればそれだけ、爺さんが電話かけたりしてあの人らが殺されたことに気づく確率があがっちゃうし」


「はい、エマコ」


「ぎゃあ」


「私からもお願いします、アルフ、イヴ。あなた方の目標達成が早ければ早いほど、多くの者が傷つかずに済むことでしょう。

 それでは作戦の第二段階を!」


「はい、ヴェラ」


「ぎゃあ」


本日もPseudo Kaleidoをご覧くださりまことに感謝いたします。


読者諸賢ならびに関係各位諸氏に、よろしきことのありますように。

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