表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/113

トランスフォーメーション、コンプリート・クエスト、リターン・ホーム



「博士のお家はエレベーターがいっぱいありますね」


「君もエレベーター好きなの? アルフといっしょだねえ……」


「プレジデントのビルディングにも、エレベーターがありますから」


 生活スペースの奥からエレベーターに搭乗し、アーサーとエマコは研究室の階へ。


 無機質な廊下を進み、奥へ。


 途中、スバルが入り口に立つ部屋を通り過ぎるも、二人とも何ら気にすることはない。


「さ、お入り。

 置いてあるものには何であれさわらないように」


「はい、博士」


 アルフの眠る培養槽のある部屋へ、二人は入室。


 粘性高めの濁った養液の中、無数の機器に繋がれて浮かぶ小柄な人型のそばに歩み寄る。


 エマコは培養槽のインターフェースを操作。


 内部ライトとカメラを起動し、側面スクリーンへ表示。


 アーサーの目には、養液から濁りが消え、裸で浮かんで眠るアルフの姿がはっきりしたように映る。


 実際には養液の濁りは変わっておらず、ただ見えやすくなったというだけだ。


「この子がアルフです。

 君も覚えてるっしょ? 爺さんがド糞発砲行為したとき、ファリスを羽交い絞めにしてたんだし。

 あと、その前も髪の毛とかいじってた」


「ファリス?」


「死んじゃった生体ドロイドの子。

 ファリスはヒト脳載せてたわけじゃないから、アルフとは死んじゃったの意味が違うけど」


「いろんな子が死んだのですね」


「そだね。

 ……なんて年だろうな、今年はよ。初めの方からわりと色々あったけど、こんな終わりごろになってまで、かわいいおショタが二人も死ぬなんて!

 ま、そもそも、いつでもどこでも人はガンガン死んでガンガン生まれてんだから、人口統計的には珍事でもなんでもないんだけど。

 間近で見てる身としちゃあね……」


「この子は、またここから生まれるのですか?」


「そうだよ、アーサー。

 アルフは生き返る。少なくとも私としては生き返らせる予定でいる」


「前にも、ここから生まれたのですか?」


「うん、そう。君の生まれる1か月くらい前」


「僕も、ここから生まれたのですか?」


「うん、そう……。

 いや、アレ? どうだったっけな。……君を作ったのはシャムロックの研究所だったか?

 いや違うね、うん」


 エマコは思い返すように上を向き、記憶を確かめて言った。


「アーサーも同じだね。私んちの培養槽生まれなはず」


「そうですか……」


 アーサーは培養槽に浮かんで眠るアルフを見る。


「……結構見てるけど、なんか懐かしかったりするもんなのかな?」


「懐かしい、とは何ですか? 博士」


「え、そりゃ……まあわからないか。まだ6か月しか生きてないんだもんね。

 そうだね……昔に見聞きしたり出会ったものを、後になってから思い出したりまた見聞きしたりしたときに感じる、親しみに似た好感情、ってとこかな?」


「わかりません、博士」


「うん、わからないと思う。懐かしさなんて説明されてわかるようになるものじゃないもの。

 普段の生活も、こうやって私と話してることも、いずれ〝懐かしい〟って思うようになる。そんなところじゃないかな」


「そうですか」


「うん。それじゃ帰ろっか。私もそろそろ仕事に戻りたいし」


「いえ、アルフが生き返るまでここにいます」


「え? 何で」


「プレジデントが殺した子が生き返るなら、殺さないといけません。近くにいますので待ちます」


「……いや、その必要はないよ、アーサー」


 反射的に湧き上がる怒りを抑え、エマコは努めて穏やかに説明する。


「爺さん――君のプレジデントがうちのアルフを撃ったのは誤解からなんだ。殺す必要はなかったって認めて、謝ってくれた。

 だからアルフが生き返るのを邪魔しないで、アーサー」


「はい、博士」


「わかってもらえたようで何より。じゃ、今度こそ帰ろっか

 アルフにバイバイして」


「はい、博士。――さようなら、アルフ」


 アーサーは培養槽のアルフに手を振る。


 対人儀礼を司るアクトウェアによって導かれた、理想的な別れの所作だ。


「えらいえらい。じゃあエレベーターへ」


     †


 地の奥底。エアシャワーの前の玄関にて。


「帰り道はわかる?」


 土産としてブロックベーコンを1パック渡し、エマコはアーサーに問いかける。


「はい、博士。

 矢印に従って歩けばいいとシンイーが教えてくれました」


 ベーコンのパックを大切そうに抱きしめ、アーサーは言った。


「そっか。なら大丈夫だね」


 そんなアーサーの姿にアルフの面影を見ながら、エマコは言った。


「じゃあね、アーサー。良かったら、また遊びにおいで」


 そんな事態が訪れることはないだろうと確信しながら、エマコはアーサーを送り出す。


「さようなら、博士。失礼いたします」


 アーサーは完璧な仕草で挨拶をし、エマコの元を去る。そして帰途についた。


     †


「おおおっ! ……ふぅ……。

 ……ところで、アーサー。博士の元はどうだったね?」


 アーサーの冒険があった日の夜。


 自らの下、裸でぐったりとしているアーサーに、パトリックは問いかける。


「………………っはい、プレジデント……。

 ……楽しかったです……ケーキがおいしかった……ベーコンをもらいました」


「ベーコン?」


「どうも、土産として渡されたようです、プレジデント」


 アーサーの言葉を、シンイーが補う。


「大きなベーコンです。食べますか、プレジデント?」


「ハ! いらん。お前の好きに処理しろ、アーサー」


「はい、プレジデント」


「補足でございますが、彼の視聴覚情報を分析しても特に不審な点はありませんでした」


「そうか、シンイー。そんなところだろうな……ヴェロニカの居場所は、ちまちま探すしかないか。

 ま、いいさ。このまま何もなければ俺の勝ちは動かない。

 そうでないなら、そろそろ事を起こすことだろう。そうなれば戦って勝つだけだ。

 俺の負けはない。どうなろうとな……!」



今日もPseudo Kaleido をおよみくださりありがとうございます。


皆様に良きことのありますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ