ボーン・トゥ・ダイ
ニューエデン市郊外。
闘技場より数キロ南方。
直線的な道路を進んだ先に、トンネルがあった。
一台の大型トレーラーが南へと走る。
出口付近で、トレーラーはオレンジ色の夕日に照らされる。
運転席でくつろぐ男が、まぶしさに目を細める。
直後、爆炎がトレーラーの前面を包み込む。
対車両ロケットが、斜め前方から直撃したのだ。
運転席もろとも前輪を焼き尽くされ、トレーラーは横転。
走行速度の慣性で、煙と炎を噴きながらトンネルの外へ滑り出る。
アルフはロケットの発射装置をその場に置き捨てる。
オートバイをAI制御で発進させ、突撃銃を構えて横倒しのトレーラーに接近する。
フランス製ブルパップ・カービン《Nファマス・クール》が、夕日にちらときらめいた。
運転席の残骸から、火だるまの男が姿を現す。
そして銃撃にくずおれる。
血や体液はすぐに炭化して、不快な臭いに変わってゆく。
アルフは射撃姿勢を崩さない。
トレーラーの生き残りは、まだ戦意をなくしていない。
荷台のコンテナから、数人の男たちが飛び出してくる。
その恰好は、およそ21世紀のアメリカ合衆国にはそぐわない。
鷲を象った彼らの装束は、合衆国の南の異国のもの。
すなわち、祭政アステカ帝国が誇る《鷲の戦士》、クァクァウティンの戦衣である。
アルフの姿を認めるなり、クァクァウティンたちは石槍を一斉投擲!
ターコイズの鮮やかな穂先が、必殺の勢いで迫る!
複数の槍が横一文字に展開!
直進コースのみならず、オートバイの曲折可能範囲を埋めつくす!
どれほど巧みに運転しようと、いずれかの槍が深手を負わせる。
小柄な襲撃者は、これ以上の首級を得られない。ただウィツィロポチトリ神の贄となるばかり。
アルフは射撃姿勢を崩さない。
ただオートバイから跳躍し、石槍の戦列を飛び越える。
空中にて引金を引き続け、銃弾を次々に的へ当てていく。
連続するバースト射撃が、クァクァウティンたちを襲う。
皆があちこちに傷を負い、血を流す。
だが倒れたのはただ一人。心臓を撃たれた者だけだ。
それを見て、アルフは先ほどのシンイーの話を思い出した。
クァクァウティンたちは何らかの呪術的な手段によって、
〝心臓を傷つけられぬ限り死なない体〟を持っているらしい。
くれぐれも注意するように、と彼女は言っていた。
袈裟懸けに走るターコイズの穂先!
アルフは屈んでこれをくぐる。
石槍の使い手の心臓を撃ちながら。
白皙の手指は引金を引くのみならず、セレクターを操作。フルオートへ。
銃弾を吐き出し続ける銃を横薙ぎに振り、後続の二人を射殺!
残りのクァクァウティンはただ一人。
自身と味方の血にまみれ、あちこちに銃創を負っている。
アルフの銃は、その心臓を狙う位置にある。
しかし。
アルフはファマス・クールをその場に捨てる。
弾倉の軽さと板バネの伸び切る感覚が、弾切れを予感として伝えていた。
残敵を撃つのは不可能だ。
アルフの右手は腰の拳銃へ。
クァクァウティンは石槍を、そしてターコイズの短剣を投擲!
銃の交換が済まぬうちに、襲撃者を打倒する。
既に作戦目的の達成が不可能となった彼にとって、帰還は最後の望み。
そして神へ奉仕する唯一の手段だ。
アルフの手とクァクァウティンの攻撃。
早かったのはアルフの手だ。
細く小さな手が、ステンレス輝くスフィンクスの銃把を握る。
しかし、引き抜くことができない。
首を捻って、アルフは石槍をかわした。
だがそこまではクァクァウティンの読みの内。
短剣は、致命傷を狙って投げられるのでなく、銃撃の遅延を狙って放たれていた。
細い手首を短剣が貫き、大腿部にスフィンクスもろとも釘付けにしていた。
「ウィツィロポチトリ!」
クァクァウティンは神の御名を唱えて突進。
頭蓋を砕かんばかりに殴りつけ、少年の身体を地に叩きつける。
勢いのまま馬乗りになって、止めを刺すべく手を伸ばす!
しかし、クァクァウティンはそこで動きを止める。
「――!」
クァクァウティンの心臓を、銃剣型ナイフが貫いていた。
胸元から血が降り注ぎ、仰向けになったアルフを濡らす。
アルフはナイフを握る左手を引き、クァクァウティンの遺骸を蹴ってどかす。
血をぬぐってナイフを腰背面の鞘に納め、ターコイズの短剣を右手首から引き抜く。
血を流す死体を踏み越え、アルフは進む。
敵は倒した。
だが頼み事はまだ終わっていない。
コンテナの中身を回収しなくては。
やりっぱなしでは、サンタさんにいい子と思ってもらえなくなるかもしれないのだから。
あとがきまでお目通しくださいましてありがとうございます。
ためしに同時更新してみました。こちらが3話になるはずなのですが、果たしてちゃんと想定した通りの順番に並ぶでしょうか。どうでしょうね。