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タクティカル・ブリーフィング



「ありがとうね、アルフ、イヴ。

 さて、それでは具体的な作戦の話をしましょうか。よく聞いて覚えてくださいね。盗聴をさけるために、他所で話はできませんから」


「はい、ヴェラ」


「ぎゃあ」


 二人の素直な返事を聞いて、ヴェラは説明を続ける。


「裏切者は全員、明日のパーティに出席します。彼らの席にはスタンガンを仕込みます。影武者が演説し、途中でマルコ伝を引用します。


 『されど人の子を売る者は禍害なるかな、その人は生れざりし方よかりしものを』と言ったとき、遠隔操作でスタンガンを起動させます。


 そこで彼らを射殺してください。

 裏切者四人に、護衛を足して計八人。できますね、アルフ?」


「はい、ヴェラ。

 今すぐ行きましょう。せっかく銃を買ってくださったことですし。僕はこれを撃ちたく思います」


「……無鉄砲な子ね、あなた。


 ……粛清の目的は、ニューエデンにおける秩序の回復です。


 個別に一人殺しても、生き残った裏切者は公然と敵対してくる。なし崩しに、シャムロックとの全面抗争となるでしょう。

 被害を考えるとそれは避けるべきです。


 だから敵を一時に全滅させる必要があります。そして、パーティまで彼らが一か所に集まることはないのです。


 というわけで、今はお待ちなさい。アルフレッド・モントフォート」


「わかりました、ヴェラ。ではそのように」


「ぎゃあ」


「結構。わかってもらえて何よりです。


 ……説明を続けますね。仮定の話として、パーティではうまくいったとしましょう。ですがそれを知ったら、敵が、なりふり構わぬ全面戦争で事態を解決しようとする可能性があります。


 なので当日、シャムロックにジュディアを向かわせます。

 ――覚えてらっしゃる? ジュディアは、今朝あなたを病院から我が家まで連れてきた、あの女の子です」


「にぇえ」


「はい。45口径自動拳銃を下げていた、力の強そうな方ですね」


「ええ、その子です。……私は銃のことは気づきませんでしたけれど。そういうところ、良く見ているのですね……


 シャムロックはジュディアも裏切者の一人だと信じていますから、敵組織のプレジデント、パトリック・マクライナリに会見できるでしょう。パーティでの粛清と同時に、父の敵を取ってもらいます。


 内偵によれば、父の暗殺はマクライナリの意志からであって、他の幹部らはそう乗り気ではなかったようです。ゆえに、マクライナリを排除し、命や多少の権益の保証と共に降服をうながせば、乗るでしょう。事実、寛大なふるまいなのですから」


「そうですか。きちんとした作戦が立てられているのですね」


「はい、アルフ。

 願わくは、誰も手出しできないものであってほしいところです。いいえ、きっと、そうなります。


 戦果においては、シャムロックが父の命一つ分リードしています。ですが戦局は我らに有利です。彼らは私がネズミを見つけていることを知りません。ええ、きっと問題ありません……平気でしょう?」


「はい、ヴェラ」


「ぎゃあ」


「もし何かあるとすれば、問題は一つ。

 私が信用した者が裏切った場合です。しかし大丈夫です。

 ジュディアは、私とファミリーを本当に愛しています。だから裏切るはずはありません。いいえ、これでは情緒的に過ぎ、無意味ですね。


 ……ジュディアにはいくらでも私を殺す機会があった。けれど私は生きている。味方であると信じるのが妥当でしょう」


「なるほど。僕を信じるのはどうしてですか?」


「同じことですよ、アルフ。

 ……あなたが私を愛しているかどうか、はカッコにくくっておくとしても、殺す機会はいくらでもある。御腰の銃を抜けば済むことです。


 そうしないのは、あなたが私と友達になろうとしてくれているから。そうでしょう?」


「はい、ヴェラ」


「ぎゃあ」


 アルフとイヴは何気なく言った。


 美しい瞳には一点の曇りもない。


 ヴェラは見透かされたような気になり、友情の土台には陰謀があることを話してしまいたくなる。


 だが堪える。害あって益のない行いであるし、何より卑怯だ。


 懺悔は、神に対してのみなされるべきだ。


 ヴェラはそう思う。


「ありがとうね、アルフ。

 ……続けます。盗聴などにより、部分的な情報流出の可能性は残っています。 けれど裏切者どもはパーティに来ることでしょう。彼らにとっても、私を殺す最良の機会ですから。わずかな流血で勝利したいのは彼らも同じですし。


 最悪の場合でも、からくりを動かす直前に撃ち合いが始まるくらいでしょう。そのときは、遠慮は無用ですよ」


「はい、ヴェラ。僕があなたを守ります」


「ぎゃあ」


「よいお返事です、アルフ。

 では写真を見せますから、裏切者たちの顔を記憶してください。有事の際の隠れ家も」


 ヴェラは鞍下からスマートフォンを取り出し、保存された写真を立体投影。


 四人分の胸像が、芝生の上に浮かび上がる。


「顔写真はまた見せてあげることも可能ですけれど、なるべく一回で覚えてしまって。万一誰かに見られたら、きっと怪しまれるでしょうし」


「大丈夫です、ヴェラ。もう覚えましたから」


「にぇえ」


「あら、賢いのね。素晴らしいです、アルフ。


 さて……ここでの用事は、きっともうないでしょうし、そうですね……とりあえず、明日の〝催しもの〟の練習に射撃場へでも行きましょ――」


 轟音。


 ヴェラの声をかき消す、荒々しいローター音だ。


 三人は反射的に、轟音のした空を見上げる。


 旧型の軍用ヘリだ。


 ヘリは高木に当たって壊れつつ、内庭の端の方に落下した。


 墜落とも着陸とも、判じ難い形で。


 ヘリのドアが荒々しく開けられ、機内から軍服の男たちが現れる。



本日も「プソイド・カライド」をお読みくださりありがとうございます。



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