表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/113

◆◆◆◆◆レス・チルドレン



「……三日前のことです。

 彼らは私の父、ニューエデン州知事のパオロを暗殺しました」


「はい?

 ……ヴェラ、ちょっと待ってください」


 アルフは今朝、ヴェラの父パオロに会って話した。


『銃撃されたものの、助かった』と本人の口から聞いている。


 ヴェラ自身、牧場の者たちにそう伝えていた。


「あれは影武者です。

 最新型の生体ドロイドなら、生体認証さえごまかせますから」


 生体ドロイドの生体部分はヒトの相当個所と同一。


 遺伝子が同じなら、判別は非常に困難だ。


 万能細胞の高速発展で作られる前者。


 対して、受精卵から発生し〝人生〟と呼ばれる数十年を経て成立する後者。


 時間差に由来する劣化、いわゆる〝老い〟をさえ再現する技術もすでに確立されている。


 はっきりと区別することは、肉親であっても難しいだろう。


 それほどまでにヒトに近い生体ドロイドだが、両者の判別方法がないでもな


 二つの方法は、どちらも手間のかかる困難な作業だ。


 一つは、解剖かスキャナーなどで内部を調べ、機械部品を見つける方法。


 二つ目は、長期にわたって言行を観察しAIかヒト脳かを見極める方法だ。


 第一の手段は、対象の同意なしには非常に難しい。


 暴力を用いて強引に行うことも不可能ではない。


 だが、パオロの影武者は厳重な警備のうちにいる。


 生体ドロイドであることを立証するより、もう一度暗殺する方がまだ楽な仕事だろう。


 言いくるめて医療用スキャナーに入れることも、ほぼ不可能になっている。


 AIの入念な設定と、付き従うジュディアの配慮のために。


 第二の手段には、月単位の時間が必要だ。


 ヴェラの目算によれば、そのころには今とはまるで変った様相になっている。

 想定するだけ無駄というものだ。


 影武者の正体は、最後まで隠し通されることだろう。


 ヴェラはそう考えている。


「では、お父上はご逝去なさったのですね」


「ええ。帰天しました。

 ……私がしていることは、父への冒涜なのでしょう。父の威光を、機械ごときに着せて皆を騙すのですから。ですが、ニューエデンとファミリーを守るためです。神さまも、お父さまも許してくれると思います。

 そう、思いたいです」


「お父上にお悔やみを申し上げます」


「ぎゃあ」


 丁重なアルフの言葉に、イヴの鳴き声が続いた。


 くすり、とヴェラは軽く笑った。

 思わず吹き出してしまった、という風に。


「ごめんなさい、あなたを笑ったのではありませんよ、アルフ。イヴも。

 ただ、言い古された言葉でしょう?

  父を密葬した際、何人かに言われて気づいたのですが、そう言われると何か可笑しくなってしまうみたいです、私。不謹慎ジョークの聞きすぎですね、きっと」


 等量の悲しみとおかしさが相殺し合って、あわい微笑みになり、ヴェラの顔に浮かぶ。


「……アルフ、あなたも我が家の写真をご覧になったでしょう? 壁に飾ってあったものを。

 革命前、私には三人の兄がいました。皆、母と共に戦争で死んでしまって、父にとって血の繋がった子供は、娘の私一人になってしまいました。

 そんなだから、私は必要以上に構われて、三日前まで生きてきました。

 ……私は『もう少し放っておいてほしい』と思っていましたけれど、一人になってしまうと、だめですね。父の気持ちがわかってしまいます」


 アルフとイヴはどこか不思議そうにヴェラを見る。


 ふとクレッシタを寄せて、アルフは手を伸ばす。


 不思議そうな表情のまま、ヴェラの頭をなでた。


 ヴェラは再び笑みをこぼした。


「ありがとう、アルフ。

 ……さて。あなたは先ほど、私のお願いを聞いてくださると言いました。ありがとうね。その気持ちに嘘はないのでしょう。でも、心変わりがないとも言えません。

 そこで、報酬についてお話しておきます。

 私はあなたに無視できない価値を提供することができるのです、アルフ。

 ご両親の消息を、私は知っています」


「両親。……僕の父と母、ということですか?」


 両親と離れてしまってから、もう三年になるという。


 柔らかく、あたたかい雰囲気の輪郭だけを覚えている。


 エマコと暮らす以前の記憶は、今のアルフにはとてもおぼろだ。


 ほとんど何も覚えていない、とさえ言えるかもしれない。


「そうです。

 ヴィペルメーラ・ファミリーは近隣国家の内偵をしています。その関係で知ったのです。それで――

 と、これ以上は言えませんね。でもアルフ、嘘は言っていませんよ、私。

 私はあなたとお友達になりたい。あなたと遊んで、私はひさしぶりに安らいだ気持ちになれました。だからあなたのためになることを伝えたい。でも、すぐには言えません。あなたを長く繋ぎとめたいから。

 わかってくださるかしら、アルフ?」


「もちろんです、ヴェラ。僕もあなたと遊んでいて楽しい。もっと遊びたく思います。喜んで友達になりましょう」


「ぎゃあ」




本日も「プソイド・カライド」をご愛読いただき、まことにありがとうございます。


サブタイトルの「◆◆◆◆◆」は、カタカナ5文字が入ります。

本文をお読みになった読者諸賢なら、おおむね見当のつく語であろうと思われます。


また、今回は説明回です。言葉を尽くしましたが、どうしてもわかりづらい場所とは発生してしまうものです。

質問をお書きくだされば、ネタバレにならない範囲で回答させていただきます。

また、感想・評価などもお待ちしております。


最後まであとがきをお読みくださり感謝します。

皆さまと僕とに、いいことのありますように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ