盗賊団 5
何故ボクはこんな場所にいて、こんな事をしなくちゃいけないんだろう。
そんな事を毎日考えるけど、ボクにはどうする事も出来ないし、きっと他の子達もそうだろう。
ボクは今、生まれ育った村から、そして大好きなおじいちゃんと離れた場所にいる。 ここがどこか、村からどれだけ離れているかは分からない。
この場所に来てからどれだけ経ったのかな? 1ヶ月? 2ヶ月? わからないよ。
帰りたいよ。 おじいちゃんに会いたいよ。
頰に伝ってくる涙を拭い、側にある薄っぺらな毛布を手に取り、横になる。
***
「カチャ、カチャン」
テーブルの上に乱雑に置かれているお皿を重ねていく。 出来るだけ音を立てないように、けれどもその事ばかりに集中して片付けが遅くならないようにして片していく。
手の届く範囲の食器や空き瓶、それらをテーブルの端に移動させてから踏み台にしているイスから降りて、その踏み台を違うテーブルまで移動させ、また踏み台に乗り、テーブルの上を片付ける。
それを繰り返して、いくつもあるテーブルの半分程が終わったくらいで一息つき、壁に掛けてある時計に目をやる。
(後、2時間。 今日も間に合いそう。 ……良かった)
時間に間に合わなければ、容赦なく殴られたり蹴られたりするため心の底から安堵する。
「ふうぅー。 あっ、えっ、――――キャッ!」
「ガシャンッ!」
安心した事で気が緩んでしまったのか、ボクは踏み台の上でバランスを崩してしまい、踏み台の上から落ちて地面に尻餅をつく。 近くには手に持っていたお皿が割れ、散乱している。
「…………」
心臓の鼓動が早くなっていく。
動悸がする。 気持ちが悪い。
一瞬のうちに変化していく自分の身体。 しかしそんな事なんて今はどうだっていい。
急いでこの部屋に繋がっている入り口に目をむける。
5秒、10秒と時間が過ぎていく。
入り口から視線が外せない。 身体が金縛りに遭っているかのように動かせない。
ボクより前に、入り口に近い場所で片付けていた子達が慌ててこちらに向かってくる。
普通に考えたら、ボクの事を心配して駆け寄ってきたのだと考えるけどそうじゃない。 ミスをしてしまったボクの側にいたら巻き添えを食らってしまうから出来るだけ遠くに逃げようとしているんだ。
みんなはボクの横を通り過ぎていき、ボクと入り口の間には人が1人も居なくなる。
(……お願いっ!)
どうか気付かないで! と祈り、目をつむる。
「――――おい。 なにやってんだ?」
しかし祈りは届かず、声が聞こえてくる。
そしてその声は、一緒に片付けをしていた子供達のものではないと一瞬でわかる。 低く、ボクを威圧しているかのような声だ。
「おい」
反応がなかったからか、再び問いかける声が耳に入る。 問いかける先がボクじゃないと思いたいけれど、100%違う。 そしてこのまま反応しなかったらもっとひどい事になっちゃう。 恐怖に震えながら目を開け、問いかけてくる人物を視界に入れる。
「……ぁ、あの」
必至に声を出そうとするが、言葉が続かない。
その場から逃げ出したい気持ちで一杯になるけど身体が言う事を聞いてくれない。
段々と近付いてくる目の前の男。 ボクは恐怖に耐えられなくなり、また目をつむった。
(――痛いのはいやっ! おじいちゃんっ!)
今1番側にいて欲しい、世界で1番大好きなおじいちゃんに心の中で助けを求める。
「――――ドサッ」
(助けて! 助けておじいちゃんっ!)
「……キャ!」
ボクの頭の上に手が置かれる。
これから殴られちゃうんだと覚悟する。
「大丈夫か?」
(……えっ?)
さっきの声と違う。 それに心配してるの? ボクの事を?
どうなっているのだろう。 状況を掴めないボクは恐る恐る目をあける。
すると目の前には、さっきと違う、そしてここに来て1.2ヶ月、見たことの無い、初めて目にする男の人がいた。
「えっと、大丈夫かな? 怪我とかない?」
ボクが男の人の言葉に返事を返せないでいると、探るような視線を向けながら再度、心配してくれる。
「――はっ、はい」
男の人の、優しげな声に表情、おじいちゃんに頭を撫でられている時に感じていた安心感。 そのお陰なのか、恐怖で硬直していた身体はいつのまにか和らいでいて、遅れながらも返事を返す事が出来た。
「そっか。 それなら良かったよ」
その言葉と同時に、頭の上に置かれている手で頭をポン、ポンとされる。
「俺は、ここにいる盗賊――いや、悪い人達をやっつけに来たんだ。 だから安心して」
「――ッッ!」
何故だろう。 この人の声を聞いていると心が安らいで安心する。
「あー。 良く頑張ったね」
――えっ? さっきより声が、間近に聞こえる。 まるで耳元で囁かれているような。
……あっ、えっ? ええっ! なんでボクいつの間にかこの人に抱きついてるのっ!? えっ、ヤダいつから? ――ッッ!
ボクは慌てて抱きつくのをやめ、後ろに下がる。
顔が熱い……恥ずかしくて顔上げられない。 いきなり抱きついちゃって変な子だと思われてないかな……?
どんな反応をしているか気になったボクは、恐る恐る、俯かせていた顔を上げて彼を視界に入れる。
彼はどこか困ったような、照れ臭そうな顔で、自分の鼻を指先でかいている。 何故だろう? 彼の何気ない仕草に、何故かボクは目が離せない。
「どうしたの?」
「ッッ! なっ、なんでも……ない、です」
彼と視線が重なる。 ボクは慌てて俯いた。
「そうかい? えっと俺は悪い人達をやっつけなきゃいけないんだ。 だからそれが終わるまで何処かに隠れていて欲しいんだけど、何処かあるかな?」
コク、コクと頷く。
「じゃあそこに隠れていてくれるかな? 終わったら迎えにいくからね。 俺はスキルで場所が分かるから、俺が迎えに来るまでその場所で静かに待っているんだよ 」
さっきと同じようにもう一度頷く。
「ありがとう。 じゃあいってくるね。 すぐ迎えに行くから」
そう言うと彼は、ボクに背を向け、部屋から出て行った。