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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
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第8話 王妃クローディア

エリックとシンディの国家転覆を企んだ凶事より時は流れて一年後の春。

王太子妃ローズは王太子フレデリックの子を妊娠していた。


しかしその王太子フレデリックは、妻であるローズの前に跪き、ドレスの裾を掴んで顔中の穴という穴から涙を流し、泣き崩れていた。

それをローズも泣きながら抱き抱えている。


フレデリックは思い出した。

思い出したのだ──。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



それは15年前。

フレデリック6歳はまだ王太子の指名はされておらず王子と呼ばれていた頃である。

子どもの彼は警護の騎士であるラディとエセルとともに遊んでいた。楽しそうなのは王子フレデリックだけ。警護騎士の二人は愛想笑いをしながら付き合っているだけだ。


「やい。エセル。跪いて馬になれ」

「はいはい。これで朝から何度目の馬だろう」


エセルの背中に跨がって得意げに尻を鞭で叩く。

鞭といっても幼児の遊び用で痛くはない。窮屈な王宮生活は周りに友人もなく、こうしてストレス発散するしかないのだ。

そこへ侍従長のビズ伯爵夫人であるモロスが侍女二人を引き連れてしずしずと現れると警護騎士の二人は青い顔をして直立不動の姿勢をとる。儀礼にうるさいモロスに何を言われるか分からないためだ。

当然エセルに跨がっていたフレデリック王子は尻餅をついて落ちてしまった。その王子の姿を見てモロスは眉をつり上げる。


「まぁ殿下! まだそんな格好なのですか!? 今日は大事な日ですからお召し物を替えて下さいと言いましたでしょう? そしたら殿下は何と言いました。警護の二人に着替えさせて貰うと言ったのですよ? そんなことでは百年待っても着替えなど出来ようはずもございません!」


モロスがたしなめる先から王子は腕組みをし、口を尖らせてそっぽを向いて抵抗する。しかしモロスの方でもどこ吹く風。


「やはり見に来て正解でした。これお前たち。殿下のお着替えを手伝って差し上げなさい」


侍女たちは歯切れよく返事をすると王子へと駈け寄りテキパキと服を脱がし、本日のために用意された服装へと着替えさせる。王子は嫌がって抵抗したがその侍女たちも手慣れているのかあっという間に完了し、大鏡の前に立たせてしまった。

赤地に金刺繍。襟も袖も大きくおられており、首にはヒラヒラが多くついたスカーフ。胸に覗く白いシャツも清潔感があり、腰には小さいながら細身の宝剣。

6歳のフレデリック王子もその姿を見て見惚れてしまう。


「おー!」

「気に入ったようですね。私が仕立屋にデザインを注文したのですよ。まぁまぁお似合いで。いつもの暴れん坊の殿下ではないようですわ」


小さい王子の目にはカッコいい自分姿。目をキラキラさせ照れてグニャリと体を崩すとすぐにモロスの叱責。


「これ殿下! シャキッとしなさい!」


周りに控える騎士や侍女たちの方が王子を王子と思わないモロスの言動にハラハラしてしまっていた。

そこへこれまた見事な赤いドレスを着た美女が入って来ると、王子以外はみな平伏した。


「まぁまぁ私のカワイイ王子フレデリック。なかなかキマッていてよ」


これぞフレデリック王子の母親である王妃クローディア。

その周りには3人の侍女と宮廷医がついている。

体も細く肌の色は真っ白だ。もともと病弱であったが、フレデリック王子を出産した後はますます体の調子が悪くなり、寝たり起きたりの生活。しかし今日は少しばかり調子が良さそうだった。


フレデリック王子もこの母の前では背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとり、やんちゃな姿ではなくなった。顔も真面目ぶり、静かな微笑みをたたえながら母親であるクローディア王妃に話し掛ける。


「母上。今日は体の調子が良さそうで」

「ええフレデリック。見ての通りよ。宮廷医も今日は少しばかりなら宮殿を歩いてよいと言ってくれたの」


「そうですか。何よりです」

「まったくお前は小さいのに大人びているわね~。もっと子どもらしくしてもいいのよ? モロスの教育がいいのね」


「左様でございます。しかしモロスも少しくらい子どもらしく遊べと言います。私は勉強が好きなのですが」

「ふふ。何ごとも過ぎれば毒よ。モロス。フレデリックにもたまには遊ばせておやり」


モロスも静かに笑いながら頭を下げた。


「御意にございます」


これは王妃を傷付けないための偽りの劇場。

王妃はフレデリック王子の聡明さを信じて疑っていない。それに王子もモロスも合わせているのだ。

病気でフレデリック王子の成長とバルコニーの花を見ることだけが楽しみの王妃を楽しませるための。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王太子の過去の話でしょうか? 拝読していきます。
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