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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
33/34

第33話 悪の復活

さて、王子が12歳となってタックアの国内も安定し、ジカルマとの関係もかなり友好的であった。

人々の往来もごく簡単なもので、国境付近の街は大きく栄えた。

タックア領の鉱石や絹をジカルマに輸出し、ジカルマより香辛料や硝石、蜂蜜を輸入するなど、二つの国はなくてはならない存在となっていた。

大勢の国民たちがこの平和を喜んだが、もちろんそうでないものもわずかながらにいた。


ブロウという商人はいわゆる死の商人というもので、武器を国家に売ることで大きな利益を得ていたが、それは六年前の話。あれから売り上げは激減し、この二国の友好を苦々しく思っていた。

そこで駆け込んだのが、わずかながら私兵をもつタイライノ公爵であった。

没落したタイライノであったが、隠し財産で私兵を募り、領地は高い塀で覆い常にピリピリしていた。


昔宰相まで勤めたワルドラスは質素に学問に励んでいたが、息子のタイライノは煩わしく思い、小さな廬に幽閉しろくに食事を与えなかったので衰弱して死んでしまった。国に尽くした宰相であったのにその末路は哀れなものだった。

それをタイライノが国にもしも届けていたら、タックア王は哀れに思って国葬をひらいたかもしれないが、タイライノはそうはしなかった。金を使わない簡単な葬儀をして終わらせてしまったのだ。

もう王室と関わりを持ちたくなかったのかもしれないが、それは余りにも哀しいことであった。


「くそう。あの王子さえいなければ」


タイライノは王子を恨んだ。国家を恨んだ。日に日に高くなる王子の名声を激しく憤ったのだ。

それをブロウと酒を飲みながら愚痴る。どうにかして国をあっと言わせてやりたい。

どんな手段を使っても。


酒色におぼれながら、タイライノは屋敷をフラフラと徘徊していた。

昔のような大きな城ではないが、この屋敷も相当な広さがあり、ワルドラスがためこんだ資料室もあった。


「ふん。父上はいったいどんな本を読んでいたのやら」


少しばかり手に取ってみるが何が何やら分からない。

今のタイライノには何の興味もわかない政治や経済の書籍であった。


「くだらん」


無造作にそれを放り投げると、一冊の古書が落ちて来た。

それは笑ってしまうようなおとぎ話の本のようだったが、タイライノはそれに目を見張る。


嫉妬と災厄の魔女──。


一年中冬の山の中、針葉樹に囲まれた呪われた城がある。

そこには青い炎が燃え盛り、毒のドラゴンを従えた魔女が住んでいる。

何でも恨む。何でも恨む。そして国々に災厄を振りまく。

だから触れるな近づくな。嫉妬と災厄の魔女を起こしてはならない。


タイライノはニヤリと笑った。

魔女、魔女、魔女──。

本を片手に、応接室にゆくと、そこにはブロウが座ってタイライノを待っていた。


「どうしました公爵。本日は晴れ晴れとした顔をしてますね」

「ブロウ。お前はまた栄華が欲しくはないか? 武器を売りたくないか?」


「そりゃぁ売りたいですが、今のタックアとジカルマの関係じゃ無理でしょう」

「そうじゃない。また仲違いさせるんだ」


「どうやってです?」

「お前は嫉妬の魔女をを知っているか?」


途端にブロウの何を言っているんだという顔がはっきりと分かった。

それは当然だ。タックアに伝わる昔話。


『大人しくしないと、嫉妬の魔女が窓からのぞく』


子どもを早く眠らせるためとか、良い子にさせるための逸話だ。

公爵は酒の飲み過ぎで現実と妄想の区別がつかないのだろうとブロウは思ったであろう。


「そういう顔をするのも無理はない。タックアの人間、全てがあの魔女をおとぎ話だと思っているからな。しかし我々王家はなぜあるのか? それは人々を苦しめた魔女を封じ込めたからだ」

「は、はぁ」


「ふふ。半信半疑か? いや信じられんだろう。それを知るのは僅かなもの。私も随分前に伝えられたことを思い出したのだ」


タイライノはブロウを連れて、屋敷の宝物庫へと行き、たくさんの宝物の中から、一つの短剣を取り出した。それは刃渡り30cmほどの小さな短剣だ。両刃で柄しかない簡単なもの。だが不思議な空気がまとわりついているように見えた。


「公爵様、それは──」

「これぞ魔女を封じられし鎖より解き放つ、カースの短剣。あとは封じられた土地に向かうだけだ」


「そ、それで魔女を起こして、戦争をさせるのですかい?」

「そうだ。国は乱れ悪が蔓延はびこる世の中になるのだ。はっはっはっは」


タイライノは大声で笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりタイライノはろくでもないな…
[一言] なるほど、これは物語の暗転の兆し・・・
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