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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
25/34

第25話 槍衾

王子と王女の視察は終わった。


宰相は千人の兵士の中から隊長を選んで隊ごとに行動させることにした。

瓦礫を片付けるもの。水路を作るもの。家を建てるもの。農地を作るもの。食糧を配給するもの。

もちろんそれにも地元の住民も加わる。

兵士は交代制で、休暇をとる。

王子はその案を承諾し、城へ帰ることになった。


100人の兵士に守られ、宰相と共に城へと向かうが、宰相は馬車の方向を変える。

それはタイライノ公爵の持ち場へ。

息子に兵権を返してもらうのだ。王子はすでに民心を掌握した。


親である。息子は可愛いがこれ以上、謀反のような真似はさせたくない。

それを王子の目の前で返させ忠誠を誓わせたかったのだ。


王子と王女の乗る馬車に、100人の兵士の隊列から国章の入った旗を持つ二騎が近づいてくる。

何がおこるか分からないので、警護騎士のラディとエセルは王子を守るように立つ。

その二騎は顔は正面のままで王子へと話しかけた。


「王子。我々は先ほどの地域の出身の兵士です」

「左様か。家族は無事か?」


「いえ。未だに消息はわかりません。しかし王子の演説、大変感動致しました。またあそこで取られた政策も聞きました。我々は王子の心服者です。これから何があっても王子をお守り致します」

「左様か。それは心強い。よろしく頼む」


本来であれば、兵士が王子のような高貴な身分の方に直接声がけするなどあってはいけない。

しかしこの兵士たちはどうしても言いたかったのだ。それでもし命を失うとしても。

兵士が隊列まで下がると、他の兵士たちも胸に熱いものを感じた。


王子は我々の声を聞いてくれると。



王子たちの馬車はタイライノのほうへと進む。

しかしタイライノのいる場所まで行く必要はなかった。

王子たちの進路を阻むものがいる。

重騎兵という馬にまで鎧を着せた騎馬隊が、壁のように隊列を組んでいた。

その先頭にタイライノが待ち構えている。


「こ、これはどうしたことだ!」


宰相ワルドラスが馬の手綱を引いて進攻を止める。

正面のタイライノが手を上に上げると、重騎兵の槍が一斉にこちらへと向いた。

王女の王子へつなぐ手の力が強くなる。

タイライノは笑いながら叫んだ。


「父上! さぁこちらへ」


しかしワルドラスは王子の馬車の前に立ちタイライノの方へ行こうとしない。


「な、何をバカなことを! 気でも狂ったのか!」

「正気でございますよ父上。王子と王女は被災地で反乱にあってお亡くなりになられたのです。新国王はあなただ」


無論王子は死んでなどいない。だがタイライノの言葉は、王子と王女を死に至らしめるということだ。

タイライノは二人を殺し、路傍に打ち捨てるつもりだったが、馬車に乗るおびえた王女の顔を見てニヤリと笑う。


「いや王女は、同盟のために次期国王の妻になった方がよいな。もちろんこの私の。少し歳が離れているが、今でもその美貌だ。将来は美しき妃になるぞ」


王子は王女の身をきつく抱く。彼女には指一本触れさせまいと。

その時だった。後ろに控える100騎の兵士たちが前に出る。

王子と宰相の前に隊列を組んで、一戦も辞さない構えであった。


「バカな。命知らずどもめ。これを見よ」


タイライノの手には兵権を示す指揮棒。

タックアの軍隊はこれには逆らえない。

これを持つものが正義であり、主人なのだ。


だが王子の兵は隊列を崩さずに重騎兵に向かって叫ぶ。


「君たちの中にも被災した家族を持つものがいるだろう? 公爵閣下が何をして下さった? 軍用道路の整地だけではないか。王子は違う。食糧を配給し、城を与え、人々に生きる希望をくれたのだ! 聞こえないか? 王子を讃える声が」


暫時静寂。重騎兵の鎧と剣の動く音だけ。

しかし遠くから。近くから。


「王子万歳」


──聞こえる。静かに強く。それは熱狂が伝播したのかもしれない。

ソフィアとレダが赴いた土地からかもしれない。

空耳かもしれない。

だがその場にいたもの全てに聞こえたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 硬派ですなあ。
[一言] これでタイライノの言う事を聞く様じゃ男じゃ…いや人間じゃねーな。
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