第24話 麦粥
被災者から久しぶりに漏れる笑い声。
王子は笑われるもので恥ずかしがって頭をかいた。
「やぁ、みなも腹がすいている頃だろう。侍従長のモロスが“むぎがゆ”を炊いているようだから馳走になりにいこうではないか」
実は王子は麦は知ってはいたものの、麦粥がどういうものかはまだ知らなかった。千人の兵士と数千と膨れ上がった被災国民を連れてモロスのいた場所へと向かった。そこには大きな鍋が4つ。そこから炊煙が立ち上っている。簡易に作られたテーブルには侍女たちが山と木造りの椀を並べていた。
ははぁ。あれが食事かと子どもを優先させて並ばせた。自分と王女は子どもたちに配給しようと腕をまくり鍋に向かっておどろいた。ただただ白くクタクタに煮られた麦だ。こんな粗末な食事をみたことがない。それを子どもたちは目をキラキラさせながら配られるのを待っていた。
王子はこんなものしか配れないことを大変申し訳なく思いながら麦粥をよそうと、子どもたちは満面の笑みで礼を言った。
王子はあっけにとられた。自分の食卓にはいつも何品もの皿が並び、口に合わないものは残していたのに。
その王子の心を知って、モロスは声をかけた。
「殿下のような食事が出来るのは国の中でもほんの一握り。このような食事でも満足にとれぬものもいるのです。ご自分の出自に感謝しなさい。それができるのも国民の支えがあってこそなのです」
その言葉に王子は涙を拭う。
「わかったモロス。私も後ほど麦粥をもらおうではないか」
「御意にございます。殿下」
王子は、被災者たちの食器に麦粥を自らの手で分け与えた。王女はそれに塩をひとつまみ入れる。
小さな王子と王女の体力には限界がある。それがされたのはわずか50人ほど。あとはモロスや侍女が行ったが、はるか後列からも「王子万歳」の声が聞こえた。
王子たちは善後策を練るために幕舎に入ると、宰相が尚も平伏した。
「よいよいワルドラス。我らも麦粥を馳走になろうではないか」
王子と王女は寄り添って座り、互いに一杯の麦粥に口をつけると空きっ腹に暖かい麦粥が甘く響いた。
「なんと。口当たりはそれほどでもないが旨いものではないか」
「ホントですね。王子」
二人はあっという間にそれを平らげ、互いの肩にもたれ合った。
「クローディア」
「はい。殿下」
「疲れたか?」
「いえ。殿下の苦労に比べれば」
「そうか」
「はい」
「ボクたちは──」
「ええ」
「幸せだな」
ポツリとつぶやく声。だがハッキリと聞こえる。
クローディア王女は王子へさらに寄りかかった。
「殿下」
「どうした?」
「んふー!」
「……なんだ。甘えん坊だな。クローディアは。よしよし」
王子は王女の髪の毛に触れる。
しばらく王女の頭を肩に乗せていた。
宰相含め、他の家臣たちもそれを微笑ましく見ていた。
王子がこの被災地の状況をどうしようかと思っていると、宰相がこれからの計画を伝えた。
兵士、人民を動員して手の付けられる被災地のがれきを片付け、少しずつ建物を建てる。
奥の道が寸断された土地には食糧を送って耐えてもらう。そこまで及ぶには三ヶ月ほどかかるかもしれないがそれが最短であると。
それは仕方がないことだったが食糧が送れることで国民は耐えられるであろうという見解だ。
「しかし王子の城を貸す案はとてもよいと思います。ここの地方の民の衣食住を与えてやって下さい。それが政治です。それが足りれば国民は自ら動きましょう。それを見た他の地方の民も同じように動きましょう。まだ始まったばかりですが、必ず復興するでしょう」
「そうか。私はよくは分からない。ワルドラスに託すだけだ」
「ありがとうございます」
その幕舎の中にはジカルマの魔道大臣の二人もいた。彼女たちも王子に進言をする。
「我々にも殿下の手伝いをさせて頂きたく思います」
「ほう。聞かせてくれ」
彼女たちがクルリと回転すると、王子と王女そっくりの姿に。
これには見識深いワルドラスも驚いた。
「それは……」
「我々に兵士をお貸し下さい。先ほど宰相閣下がもうされました先の地方にこの姿で食糧を配給して来たく思います」
「そ、それはどうやって?」
宰相が聞き返す。
「兵士一人一人に麦袋を持たせ、移動魔法で各地に配って行くのです」
「い、移動魔法?」
さっそく集められた兵士。その肩には麦袋が担がれている。
王子に扮したソフィアが指を振ると、各人の宙に浮いたと思うとフッと消えてしまった。
どうやら、どこかの地方へ移動したのであろう。
このソフィアとレダのニセ王子、王女の効果はてきめんだった。
あちらこちらに食糧を配給して下さる高貴な王子と王女。
しかし礼を言うと共に兵士を連れてさっさと次の場所へと消えてしまう。
被災者から王子への尊敬と敬愛。歓喜と熱気。
王子と王女へ報いるために復興すると、人々は立ち上がったのだ。




