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王太子さまの愛する人は  作者: 家紋 武範
小さな恋の物語
22/34

第22話 心を動かす

長老がまず最初に案内したのは、少し高い場所にある溜め池。

上流から汚れた土砂が流れ込んで来ており、辺りは水浸しとなっていた。


「ふむ。土砂や瓦礫が流れて来て汚い場所だな。危険だ。人々には近づかぬよう」

「それだけではございません殿下。ここの排水路が土砂で埋まり、水はもはや満杯。逃げる場所のなくなった水はやがて、土砂で埋もれた人家の方へと及ぶことでしょう」


長老の指差した場所は排水路。しかし、その入り口には大木が塞いでおり、その大木には瓦礫がつまっており、おいそれと復旧は無理なようだった。

フレデリック王子は水の上に浮いている小さな木の板をつかみ、足下を掘った。

クローディアも同じように木片を掴んで王子の掘った穴を広げた。

長老はここへ来て水遊び、泥遊びかと若干呆れて声をかける。


「王子さま。お召し物が汚れまするぞ。次なる場所へ向かいましょう」

「いや。服が汚れるのは先刻承知だ。だからこそ軍服を着て来たのだ。排水路がつまってしまったのならば別に水の逃げ道を作るのだ。さぁ、ラディ。エセルも水路を造るのに協力せよ」


そう。王子は遊ぶためにイタズラをしていたわけではない。小さな腕で土木工事をしようとしていたのだ。ラディもエセルもそれに習って木の板で水路を造ろうとする。

観客からざわめき。高貴な王子と王女が顔を汚しながら水路を造ろうとしている。


「……お待ち下さい」


声が聞こえた方を王子と王女は手を止めてみると、そこには被災した壮年の男が5人立っていた。


「どうした。君たちは?」

「我々はこの地方のものです。全ての財産を失い無気力になっておりましたが、王子殿下の作業を見て自分が情けなく思いました。水路作りは我々の仕事です。王子殿下にはもっと見て頂きたいものがございます。どうか作業を我々にお譲り下さい」


そういって、彼らは大きな木の板を拾い王子の近くへとやってきた。


「左様か。我々は素人だ。目に余る作業かもしれん。君たちに託すぞ」

「そんな、もったいない──。やいやいお前ら! 王子さまに恥ずかしいところをこれ以上見せられねぇ! 王子様が掘ってくださったところを軸として、用水路を拡張するぞ! 元の用水路で土の埋まったところは彫り上げるんだ! そこにこの用水路を繋ぐ!」


「「「「おう!」」」」


それに合わせてまた数人集まり、一斉に水路を掘り進め始めたので王子と王女はうれしくなった。

王女はそんな男たちを労う。


「私たちができることは小さいです。でもこうしてみんなが集まればすぐにでも水路ができるでしょう。おうちを失ったのね。とても不憫に思うわ。でももう少しよ。王子殿下がきっと物資を送ってくれるわ。辛抱なすってね」


たどたどしいタックア語。小さな小さな子ども。男たちは作業をしながら肩を震わせる。

その後ろにいた観客たちから一つの声が上がる。


「…………英邁なる未来の国王、王子殿下万歳」


それは本当に小さな声で、つい思ったことが口から出た言葉。その声を出したものはその言葉がこの雰囲気にあわないと思ったのか、両腕を肩まで小さくあげ、広げた手のひらも人の目を気にして丸めてしまい、恥ずかしげな姿勢で顔を伏せていた。

しかし人々はそれに続き、王子に向かって諸手を挙げる。


「万歳! 王子殿下万歳! 王女殿下万歳! 両殿下にご健康を! ご長命を! 両殿下万歳!」


──この時点を以て王位継承のレースは勝負を決したと言える。

国民の熱狂は伝播する。その声に被災者は次々に集まった。

あるものは王子と王女の道の前にあるものをどかし、あるものは先の地方に駆け出して王子を迎えるように伝えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また泣かされた…。 でも大丈夫。読むのが辛いわけじゃないから。 むしろすごく読みたいから。 でもまた泣かされた。 涙が…。くうっ…。
[一言] やっぱりカリスマ性って大事だよねー。 こういう時に格の違いが出ますね。
[良い点] うるうるきましたぁああ! この調子でどんどんお願いします!!
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