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異世界でスマッシュ!  作者: FUMI
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第9話 『レシーブ』

翌朝、物音で目が覚めた。マグフィが起きたようだ。


「んん、おはよう」

「おはよう、よく眠れたかい」

「うん」

「ポント、起きな。朝だよ」


マグフィは、いまだ床で大の字になって寝ているポントを足で揺らす。

むくりと上半身を起こしたポントは、鼻息荒く左右を見ると、両手を上げてノビをした。


「うあぁぁぁぅ。おはようなんだな」


今日は肉無しのスープで固いパンを流し込むと、3人でダンジョンに向かった。

外に出ると、昨日よりも暗い、少し早いみたいだ。


「リュックサック買ったんだね。良い心がけだよ」

「うん、先輩のアドバイスは素直に聞かないとね」

「その通りなんだな」


なんだか昨日よりも打ち解けてる気がする。


「今日は2層から行こうか」

「え?大丈夫?」

「昨日、剣持ちのハグレにも通用しただろ。大丈夫さ」

「大丈夫なんだな」

「でも、うかつに飛び出すんじゃないよ」

「うぐ、はい。もうしません」

「ハッハッハ、冗談だよ。2層からは最大で3匹同時に出るからね。基本は棍棒か木の棒、素手はほぼ出ないね。時々剣持ちが出るから気をつけるんだよ」

「了解」

「『スマッシュ』は何回くらい打てそうなんだい?」

「えーと、MPが52で、1回あたり3消費するから、えーと、17回?かな」

「けっこう使えるね。よしよし、だったら3匹出た時は、基本1回打つようにしようか。ポントとあたしが引きつけるから、合図をしたら打つんだよ」

「了解」

「それとね…」


まだあるんかい。覚えられるか、俺。


「2匹か1匹の時は、ポントと2人でやってみな」

「了解。『スマッシュ』どうするの」

「そうだね。通常攻撃のみでやってみようか、基本だからね」

「でもさ、1発当てると、怒って俺のほうに向かってくるよね。どうすればいいの?」

「いい質問だね。その場合はポントを中心にして回るのさ、敵が右から来たら左へ、左から来たら右へ、常に自分と敵の間にポントを挟むようにするんだよ」


マグフィは自分がゴブリン役になって、身振り手振りで教えてくれた。


「上手くできるかな?」

「だから練習するんじゃないか。3層までは愚直に攻撃してくるだけだから、今のうちに基本的な動きを確認しとくんだよ」

「なるほど、了解です。えーと、まとめると、3匹出たら『スマッシュ』を打つ。2匹以下なら、『スマッシュ』無しで、ポントと2人で連携の練習と」

「そういうことだね。ポント、これはあんたの練習でもあるんだからね。敵をコントロールするのがあんたの仕事だよ。いいかい」

「わ、わかったんだな。頑張るんだな」


ポントは拳を握り、フーッと鼻息を吐き出した。

俺達3人はダンジョンへの入口をくぐった。

1層への階段を降り、昨日とは逆の左へ向かうと、5分と経たずに2層への階段へ到着した。


「はや!こんなに近いの?」

「そうだよ、10層まではこんな感じですぐに階段があるからね、行こうと思えば1時間もかからず10層まで行けるよ。死んじまうけどね。ハハ」


ハハじゃないよ、こわ。気をつけないと、間違えて1層下に行っちゃいそうだな。

階段を降りると、1層とほぼ同じ景色が広がっていた。


「これが2層…」

「1層とそっくりだろ、疲れてると間違えちまうこともあるから、気をつけなよ」

「はーい」


ってことは、左に行くと3層への階段があるってことね。

俺達は右へ行くと、すぐにゴブリンに遭遇した。3匹いる。棍棒2匹に木の棒が1匹。『スマッシュ』チャンス!


「よし、トミー、『スマッシュ』いくよ。あたしがゴブリンの動きを止めるからね」

「了解」


ゴブリン2匹はポントへ、1匹はマグフィへ襲いかかった。マグフィは棍棒をショートソードで跳ね上げ、剣の腹でゴブリンの顔面を叩いた。


「トミー、今だよ!」


待ってました。集中、集中。丁寧にテイクバックして、打つべし。


「スマッシュ!」


胸を狙ったシャトルは下にずれて、右膝に当たった。足が曲がってはいけない方向へ曲がり、ゴブリンは棍棒を投げ出し、足を押さえてのたうち回っている。


「とどめを刺しときな」

「アイアイサー」


左手を額にかざし、ビシッと敬礼をする。なんだいそりゃあ、という顔で見られた。この世界には敬礼はないんだな。

3つ数えて、地面を転がっているゴブリンにとどめを刺した。ピロン。

無抵抗のゴブリンを殺すことにも慣れてきた。この世界では当然のことだ、気にする方がおかしいんだ。と自分に言い聞かせてるってことは、まだ完全には慣れてないんだな。


「トミー、いけるかい?」

「うん、いけるよ」


デジャブかと思うほど、マグフィはさっきと同じように棍棒を跳ね上げ、ゴブリンの顔を叩いた。


「スマッシュ!」


確かな手応え。ゴブリンの鳩尾に命中。棍棒ゴブリンを1発で倒した。ピロン。

もう1匹の木の棒ゴブリンはポントが倒してくれている。


「あっ!『スマッシュ』2発打っちゃった。ゴメン」

「ハハッ、いいんだよ。幸先の良いスタートじゃないか」

「申し訳ない。1回って言われてたのに」


マグフィと話していると突然、持っていたラケットが光の粒子となって消えてしまった。


「え?え?なに?」

「どうしたんだい?」

「ラケットが勝手に消えちゃった。え?なんで?」


おいおい!どうしたんだよ。ラケット出ろ!

すると、ラケットが右手に現れた。


「おぉ!出た。良かったー、なんだったん…っ!!」


よく見れば、木製だったラケットが、金属になっている。


「おおおお!!!キターーーー!!ラケットグレードアッッップ!!っしゃあぁぁ!」


やばい、涙出そう。不安だった、このまま木ラケだったらどうしようかと。これは、まだまだアップグレードされる可能性があるってことだよな。良かったー。

そうだ、ステータスだ、ステータスチェックだ!

2回鳴ったから、レベル10いったよね。だからラケットが変わったんだよね。そうだと言ってくれベイビー。


トミー Lv.10

HP 40/50

MP 46/50+15

ちから 27

防御力 27

素早さ 27

魔力  29+8


スキル

アイテムボックス 逃げ足Lv.1 精神力Lv.1 集中Lv.1


特殊スキル

バドミントン ▼


よしよし、やっぱりレベル10だな。こっからだよ、こっから特殊スキルのステータス確認だよー!!

大丈夫かい、とマグフィが声を掛けてくるが、今はそれどころじゃない。

いくぞー!バドミントンのステータス確認するぞー!せーの、ドン!


バドミントン

ラケット    D

攻撃力     D

速度      E

リキャスト   D

命中精度    D

クリティカル  E

属性     ー

『スマッシュ』『レシーブ』


っしゃー!!ステータス上がってるよー!よしよし!

ランクDは鉄製か、いまだに昭和、ギリ平成初期かな。贅沢は言ってられない、グレードアップしたのは間違いないんだ!

攻撃力上がったし、なんと言ってもリキャストがFからDに上がったのはデカいよな!よっしゃ!

ラケットは木製よりもちょっと重いけど、ガットの張りが強くなってるのがありがたい。ボヨンボヨンのガットは打ちにくかった。

そしておまちかね、期待の新技は…ん?『レシーブ』?なんだそりゃ。どういうこと?

もっとこうスマッシュの強力なバージョンとか期待してたのに…『レシーブ』。

んー、ちょっとテンション下がった。でも、魔法的な効果があるんだよな、どうやって使うんだろう。

待て待て、ポジティブにいこう。ステータスが上がったってことは『スマッシュ』の攻撃力も上がったはずだ、それにまだレベル10だ。こっちの世界ではお子ちゃまレベルなんだ。もっとレベル上がれば大丈夫だよ。…きっと、いや絶対…、たぶん。


「あんた、大丈夫かい?」


はっ!1人の世界に入り込んでた。いかんいかん。


「うん、大丈夫大丈夫。見てよこれ、ラケットがグレードアップしたんだよ!木から鉄に変わったんだよ!」

「う、うん。良かったじゃないか」


完全に引いている。なんだよ、喜びを分かち合おうぜシスター。


「リアクションうす!わかんないかなぁ。わかんないだろうなぁ」

「あんたが喜んでることは、よくわかったよ。ところで、レベル10になったのかい?」

「うん、レベル10になったよ」


ビシッとサムズアップ!そして笑顔キラーん。


「新しいスキルとかないのかい?」

「あ、それなんだけど…。『レシーブ』っていうのを覚えた」

「『レシーブ』?なんだいそりゃあ」

「んーとね、相手の攻撃を打ち返すことをレシーブっていうんだけど……戦闘でどうやって使うんだろう?」

「そのままじゃないのかい?相手の攻撃を打ち返すって防御スキルじゃないのかい」

「なるほど、いやでも、ラケットで攻撃を打ち返すの?」

「あたしに聞かれたってわからないよ。ものは試しだ」


マグフィは足下にある拳大の岩を拾い上げる。


「こいつを投げるから、その『レシーブ』ってやつをやってみな」

「ちょ、ちょっと待って。ゆっくりね、そっと、そっと投げて…。ダメダメ、上からはダメ。下から、下から投げて。そっとね、そっと。優しく…」

「うるさい子だね。いくよ」


マグフィは注文通り、下手で優しく投げてくれた。お手数お掛けします。

でもこんな岩を打ったらラケット壊れちゃうよ。まぁ壊れても時間が経てばまた出せるけど。


「レシーブ!」


胸のあたりに飛んできた岩を、バックハンドで打った。バシンという音と共に岩がもの凄いスピードで、マグフィに向かって飛んでいく。マグフィはピクリとも動くことができず、岩は頬をかすめた。唖然とするマグフィの頬から、血が垂れた。


「ああ!ゴメン。大丈夫?血が出ちゃってる。ゴメン」


頬を触り血を確認するも、マグフィはまだ驚きが抑えられないようだ。


「驚いたね…。じゃあ今度はポントの攻撃を『レシーブ』してみようか」

「え?ポントの攻撃?」


ポントを見ると、わかったんだなと言いながら長柄のハンマーを構えた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待った。怖い怖い」

「何が怖いんだい。さっきの岩を見ただろ、大丈夫だよ」

「いくんだなー」


ハンマーは真っ直ぐ俺の頭を狙っている。バカ!ポント、違うだろ!死んじゃうよ。

俺は必死にラケットを振る。


「ちょ、ちょ、ちょ、レシーブ」


ハンマーにラケットが当たった瞬間、ポントの腕ごとハンマーを弾き飛ばし、ポントは尻餅をついた。


「頭狙っちゃダメじゃん!危ねぇよ。怖かったー」

「こりゃ凄いね」

「え?何が?」

「その『レシーブ』ってスキルだよ。ポントのハンマーを弾き飛ばして、尻餅ついてんだよ。ゴブリンなんか、吹っ飛んでっちまうよ。こいつは使えるよ」

「え?ほんと?クソほど地味なスキルなんだけど」

「何言ってんだい。このスキルがあれば戦闘の幅が広がるんだよ。この防御スキルがあれば、あんたは1人でも戦えるってことじゃないか。リキャストタイム中に『レシーブ』で時間を稼げるんだよ。稼げるどころか、弾き飛ばせんるだよ。なんだったらあんたの『レシーブ』から、あたしが攻撃に出たっていいわけさ。わかるかい?」

「う、うん」


嘘です、わかってません。でも、喜んでもらってるみたいで良かった。


「そうだ!あんた『レシーブ』はMPどれくらい使うんだい?MP消費が多けりゃ、また考えないといけないからね」


うん、大事なことだよね。これは、わかる。


「MPはさっきが、たしか46だったから、今44てことは…。1回あたり、1ってことかな」

「MPの消費が1?!たったの1かい?ほんとかい?」

「うん、2しか減ってないから。そうだと思うよ」

「はー!とんでもないスキルだね。これは根本的に戦い方を見直さないといけないかもしれないね。ワクワクしてきちまったよ!」

「凄いんだな」


なんかめっちゃ褒められてない?ちょっとー、調子乗っちゃうよ。


「よし、次は1人でやってみな」

「へ?」

「へ?じゃないよ。『レシーブ』を使えば、1人でも十分戦えるよ」


いやいやいや、無理です。そんな急に1人では無理です、姐さん。

…ダメだ、姐さん、もう決定の目をしてる。なんか期待でキラキラしてるよ。

やめて、そんな目で見ないで。その期待に応える自信はございません。



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