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五話 寂しがりやなお隣さん


 当初の目的通り、毒島は購入した食材をもとに、104号室のキッチンを使って料理を作り始める。


「せ、先輩……あのあの……夕飯のメニューはなんですか!」


「なんだと思いますか?」


「えと……えとえと……カレー?」


「ハズレです……ふふ。お兄さんと同じことを言っていますね。やはり、兄弟なのですね……あまり似ていませんが」


 今、明らかに毒島は俺と朱音の身長を見比べて言ったが――我慢だ。


 そう、俺は大人の男。この程度のことでは怒らない……が、あとであいつの部屋のポストに、不幸の手紙を投函してやろう。


 キッチンで料理をしている毒島の隣には、興味津々なようすの朱音が立っている。朱音の目は、毒島の手元に向けられており、手際の良い調理を見て感動しては「お兄ちゃんと違う!」と感動していた。


 お兄ちゃん泣きそう。


 そんな俺は、洋室でくつろぎ、どこか仲睦まじくしている2人をぼーっと眺めていた。


 人見知りの朱音が、俺以外にあれだけ心を開くのは珍しい。朱音の言っていた一目惚れというやつのせいだろうかと、俺は2人から視線を切る。


 それからしばらくして、完成した料理は――肉じゃがだった。思いの外、家庭的な料理に俺は虚を突かれた。


「……なんか、わざわざ悪いな。本当に」


「私から作ると言ったのですし、食費はあなた持ちでしょう? 気にしないでください……あと、感謝するなら、メデューサと言ったことを謝罪してください」


「お前もチビって言っただろうが……」


「あーもうお兄ちゃんうるさい! お兄ちゃんが悪いんだから、先輩に謝って!」


「妹がお兄ちゃんに冷たい!」


 俺は「反抗期か!?」とわたわたし始めるのだが、一々反応するのが面倒なのだろう。毒島と朱音は、俺を無視して、「いただきます」と肉じゃがに手をつけた。


 朱音は肉じゃがを食べると、そのまま白米を口に運び、数回咀嚼する。すると、表情が柔らかなものになり、向かいに座る毒島に満面な笑みを向けた。


「おいしいです〜幸せ〜」


「それはよかったです。朱音さんがよければ、また作りますよ」


「ほ、本当ですか!?」


 俺も食べてみたが毒島の料理はお世辞抜きに、お店で出せるようなレベルのものだ。それを再び食べられるというのなら、是が非でもお願いしたいと思うのは必然だろう。


 しかし、毒島はあくまでも、お隣さんだ。

 今日はともかく、いつまでも厄介になるのは彼女に迷惑だろう。


「めーっだぞ、アーちゃん。今日は特別なんだ。毎回毎回、頼んだら迷惑でしょうが」


「やだ! お兄ちゃんの不味いご飯より、先輩のおいしいご飯の方がいいに決まってるやい!」


「傷ついた」


 俺は妹の心ない言葉に深く傷ついて項垂れる。毒島は、俺たちのやり取りに苦笑いを浮かべ――ふと、彼女の視線はタンスの上に置かれていた両親の写真に向けられた。


「そういえば、掃除をしている時にも気になったのですが……そちらの、写真は……ご両親ですか? お母様は、日本人ではないのですね」


「ん? ああ、まあな……俺たち、ハーフなんだ」


「それでお2人とも髪色が……染めているのかと」


「よく言われるけど、地毛だから……」


「なるほど……とはいえ、その髪も怖がられる要因では? よく先生方にも注意されているようですし、染めないのですか?」


「それは特に考えてないな。この髪色は、まあ……形見みたいなもんだしな」


 俺の一言で察したのか、毒島は口を噤んだ。


「あ……その、ごめんなさい。無神経でした」


「別に、気を遣わないでくれ。もう、俺もアーちゃんも吹っ切れてるから。だよなアーちゃん?」


「うう……お母さん……お父さん……!」


「俺が悪かった!」


 俺は、ガシっと泣いている朱音と抱擁を交わす。朱音も泣きながら俺にしがみつくと、徐々に朱音も落ち着きを取り戻す。


「はふ……お兄ちゃん、頭撫やがれくださいー」


「敬語がおかしいが……まあいいだろう。ほれほれ〜……って、まるででっかい子供だな。アーちゃんは」


「絵図的にはおねショタだよねー」


「そうだな……って、ショタじゃないが!?」


 そんな風に、仲のいい兄妹のやり取りを傍で見ていた毒島は、どこか呆気に取られるような表情を浮かべた後、小さく微笑んだ。


「ふふ……なんだか、賑やかでいいですね」


「ん? 騒がしいのは嫌いじゃなかったか?」


「そうですね……。今までは、ただ騒がしくて、鬱陶しかっただけなのですが。今日半日、お2人と会話して……翔太くんや朱音さんがどんな人物なのか知ったら、あまり騒がしいとは思わなくなりました」


「それで賑やかか?」


「ええ。知らなければ、ただうるさいだけの隣人だった……けれど、知ると見え方が変わることもあるのですね」


 知らなければ知らないままだが、知れば見え方が変わる――その感覚は、俺にも理解できた。


 実際、今までまったく会話などしなかった高嶺の花が、実はクセ毛がコンプレックスで、苗字が嫌いで――話してみれば、面白いし、口を開けば嫌味やら悪口が出てくるやつで、思いの外……毒島と話すのは楽しい。


 ふと、毒島が明後日の方向に目を向けたかと思うと、


「……羨ましい」


 ぽつりと呟いた。

 俺と朱音は目を合わせる。


「あー……まあ、あれだ。もし、よければまた一緒に食べないか? 飯、作ってくれんのも本当にありがたいし、アーちゃんも喜ぶからさ」


 俺は先ほどとは打って変わり、毒島にこれからもご飯を作ってくれないかと頼んだ。朱音も、「お願いします!」と瞳をキラキラさせて頼み込んでいる。

 毒島は苦笑すると、


「……そこまで言うなら。明日もお邪魔します」


 と、どこか嬉しそうに頷くのであった。


 普段から、人との交流を避けてきた彼女が、「羨ましい」と呟いたのは……きっと心のどこかで「人と関わりたい」と願っているからだ。


 俺は内心で、「寂しがりやかよ」とツッコミを入れて苦笑するのだった。


朝起きたら美少女幼馴染が横で寝ていた……という夢を見た!

どうも青春詭弁です。


そろそろ、幼馴染教の教祖となれるかもしれない思う今日この頃。どうして私に幼馴染がいないのか……謎だ。

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