三十二話 ちょっと報われた人生
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結論から述べると、俺は郁乃と付き合うことになった。
「俺も、けっこうお前の好きだ」
なんて歯の浮くような恥ずかしい台詞を吐いて、郁乃の告白を受けた。朱音を拒まず、俺の前科も気にしない時点で、郁乃以上の彼女なんてこの先の人生でできやしない。
これも昔の縁あってのことだと思うと、世の中なにがあるか分かったもんじゃない。
「じゃあ、行ってくるわ。アーちゃん」
「行ってきますね」
「あいあ〜い」
朝食を3人で食べた後、俺と郁乃は学校へ。
ちなみに、俺と郁乃が付き合ったことに関して、朱音は「つまり郁乃さんは合法的にアーちゃんと義理姉妹に!?」などとテンションを上げていた。
晴れて恋人同士ということで、郁乃は一緒に登校しようと言い出したので、今日から朝飯を食って、一緒に登校する流れとなった。
「こうして並んで歩くのはもう慣れたもんだよな」
「付き合ってもいないのに、それはそれでおかしい気がしますけど」
「それもそうだな……」
そんな会話をしながら激坂を登っていると、案の定登校中の生徒たちに、ガン見された。視線が痛い。
「差し詰め、なんであの高嶺の花と、犯罪者がーみたいな感じかね」
「私は気にしませんよ」
毅然とした態度でそう言った俺の彼女は、とんでもなくイケメンだった。
さて、そんな調子で教室に入ると、当然のことながらクラスメイトはギョッとして、俺と郁乃が席に座るまで、教室は静まり返っていた。
そして、恐る恐るクラスの女子が、「2人って付き合ってるの?」と郁乃に尋ねた。
郁乃は平然としたようすで、
「ええ」
と、短く答えた。なんて男らしい態度なのでしょう。
そんなこんなで、俺と郁乃が恋人同士になったことは、瞬く間に学校中へ広がることとなった。
俺と郁乃のところに、野次馬が押し寄せて鬱陶しいことこの上なく……昼休みを迎えてすぐ、俺は郁乃を連れて、例の校舎裏にまでやってきた。
「はぁ……騒がしいったらありゃしねぇな」
「なぜあれほど騒ぎ立てるのでしょうか?」
「自覚がないのか己は」
「冗談です……ん?」
ふと、郁乃は俺が茂みの中に入り、そこで猫を撫で回していることに気付いたみたいで、首を傾げた。
「猫ですか?」
「ああ。この時間になると、現れるんだよな」
「翔太くんが餌付けしているからでは……」
郁乃は呆れたようすで、俺の隣で腰を下ろして猫に手を伸ばす。犬は苦手だが、猫は大丈夫らしい。
猫も郁乃の手に怯えることなく、「にゃーゴロゴロ」と気持ち良さげに喉を鳴らしていた。
「か、可愛いですね……」
「だろ?」
そんな感じで郁乃と一緒に猫とじゃれ合っていた折、「あ」と声がしたので振り返ると、視界の中に平田を捉えた。
「今話題沸騰中のカップルが、こんなところでなにしてるのよ」
などと言いながら、平田も俺たちに混ざって猫を撫でようと……。
「シャー!」
「なんでよおおおお!!」
平田は通常運転だった。
※
その後、模試の結果なんかも張り出され、俺の結果は学年1位だった。
あの郁乃や平田を押し退けての学年1位――しかも、全国順位では、目標にしていた上位10位以内に入ることができた。
我ながらすごいな……なんて思っていると、郁乃と平田が俺を睨んで、とても敵意ある目で見てきた。
「こんなバカそうなやつに負けるなんて!」
「……次は負けません」
どんだけ俺のことをバカだと思ってたんだろう……。
球技大会のことや、今回の模試、またボランティアのことなどもあって、俺の学内の評判が前よりは幾分か良くなった。
まだまだ怖がられてるから、友達なんてできないけど……。しかし、これなら安心して朱音を学校に通わせることができそうだ。
そのためにも、もっと頑張らないとな……。
さて、その日の帰り道。
俺は郁乃と、いつも通り夕食の買い出しのために商店街へと来ていた。
「今日はなににしましょうか」
「カレーがいいな」
「カレーですか……いいですね」
「甘口がいい」
「私は辛口が好みなのですが」
「辛いのは苦手だ」
「では、間をとって中辛にしましょうか」
俺はそれで手を打った。
カレーのルーを買い、玉ねぎやにんじん、ジャガイモなどの食材を購入。
その他にも、郁乃はサラダ用の野菜を買い物袋に突っ込んだ。そうこうしているうちに、遅くなってしまった。
「ちょっと遅くなったな。帰ったら、アーちゃんがうるさそうだ」
「可愛いじゃないですか。それじゃあ、私からしたら出来の悪い妹の方が、お世話のしがいがありますから」
「それ聞いたら、あいつ泣くぞ……」
俺がそう言うと、郁乃はクスクスと笑った。
「出来が悪いのは、翔太くんもですから安心してください」
「はい泣いた」
「ふふ……大丈夫です。翔太くんが、料理ができないのなら、私が作ってあげます。掃除ができないなら、私が綺麗にしてあげます」
「……」
そう言って、妖艶に微笑んだ彼女の横顔に俺は見惚れてしまった。
なんというか……このままだと、郁乃がいないとなにもできない人間になりそうだった。
俺は自分の髪を撫でながら、肩を竦めた。
一体、どれほど彼女と時間を共にするのか分からないけれど……しかし、いつか必ず彼女に見合う男になろうと、俺はそう誓うのだった。
かなり中途半端な形ですが、終わりにします。
見切り発車の連載だったので、モチベーションが保てませんでした……。
次回からは、短編でラブコメを書いていくので、綺麗に終わらせます。
これからも幼馴染マイスターこと青春詭弁をよろしくお願いします。




