二十七話 鬼と花
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球技大会当日は、晴れ渡る蒼空だった。曇りのない、一切の淀みがない、指摘の余地がない晴天だった。
クラスのスポーツ男子は、女子に良いところを見せると燃え上がっており、俺みたいな日陰者はドッチボールが終わったらなにをしようか考えているだろう。
かく言う俺も、そんなことばかり考えていた。
さて、そんなこんなでクラス対抗のドッチボールが始まる。
バスケやバレーに出場していないやつらしか出てないから、基本的にはクラスのスポーツできる上位勢は、どこのクラスもいない。
とはいえ、中にはやはり得意なやつもいて、俺たちのクラスは初戦から負け戦が濃厚だった。
うちのクラスでドッチボールに参加している半分が、文化系の部活をしている男女だ。
あとは、「ウケる〜」と終始キャピキャピしてるパリピ女子。
そんな感じで、余り物のやる気ない連中しか残ってないから、当然相手のボールはバンバン当たるし、ボールも中々こっちに回ってこない。
回ってきても、へなちょこな球速のボールなど、取ってくれと言っているようなもの。
気づけば内野コートに立っているのが、俺だけになっていた。
運良くボールをキャッチして外野に投げても、相変わらずやる気がないのか、へなちょこなボールしか投げない。
おかけで、俺は蜂の巣にされた。
四方八方からフェイントを織り交ぜられながら飛び交うボール――はて、俺はどうしてこんな必死になって、ボールを避けているのだろうか。
ふいに、俺の視線はコートの外に立つ郁乃に向けられた。
すると、郁乃と一瞬……目が合った。
郁乃は、俺に微笑を向けると、おもむろに口を動かした。
なんと言っているのか聞こえなかったが――口の動き的に、「頑張ってね」と言われている気がした。
そう言われてしまうと、尚更わざと当たるわけにはいかないな……。
俺は相手の甘いボールをキャッチ。
どうせ外野に投げても意味がないので、俺はそのまま相手の内野コートに向かってボールを投げ込んだ。
利き腕の左で投げるのは不可能であるため、右手で投げたのだが……まあ、結果はお察し。
慣れない手だったから、ボールはあらぬ方向へ飛んでいき、相手がボールをキャッチ。再び相手の攻撃ターン。
俺のスタミナも無限ではない。現役を引退した身では、たかが知れている。
やがて、俺は相手の投げたボールに当たり撃沈――我がクラスは初戦敗退となった。
「はぁ……」
ちょっと頑張ってみたが、ダメだったなと、1人肩を落としているところに、先ほど目が合った郁乃が現れた。
「お疲れ様です。惜しかったですね」
と、すれ違いざまにそう言われた。
学校からじゃあ、騒ぎになるから話しかけてこないのに珍しい。
そういえば、次は女子のバレーだったか。
うちのクラスの相手は、あの鬼の風紀委員長である平田が率いるクラスらしい。
校内では、高嶺の花と鬼の風紀委員長の直接対決で大盛り上がりだ。
まあ、どうせ暇だし……ちょっくら見ていくか。
と、俺は平田と郁乃の対決を観戦することにした。
しばらくして、コートの準備が終わると、平田と郁乃が出てきて体育館の熱気が上がった。
平田と郁乃は試合前に握手を交わし、にっこりと微笑み合っているけれど、目が笑っていない。
「よろしくお願いします。平田さん(てめぇのそのストレートロングをパーマにしてやんよ)」
「ええ、こちらこそ。郁乃さん(てめぇの脂肪が詰まった胸を潰してやんよ)」
おっと、変な訳が聞こえてしまった。
そんなこんなで、郁乃と平田の闘いが始まる。
先攻――平田のサーブ。
男子バレー部顔負けの豪速球サーブが、郁乃に目掛けて放たれる。明らかな平田からの挑戦に、郁乃は引くことなく上手くレシーブ。
打ち上がったボールが郁乃にトスされ、郁乃は強烈なスパイクを相手コートに叩き込む。
だが、これを平田が滑り込みでレシーブ。しかし、平田がレシーブしたボールをチームメイトが上手くトスできず、我がクラスに点が入った。
バレーボールは団体競技。平田も郁乃と、超人じみてはいるが、1人では勝つことが難しい。ここら辺が勝負の分け目になりそうだ。
というか……と、俺は超人的な動きをして観客を盛り上げる2人を見ながら、つい先日のことを思い出す。
「なんであんなにすげぇ運動できるのに、木からは下りられないんだ……」
不思議だ。
ちなみに、勝負の結果だが、我がクラスの勝利となった。
平田はそうとう悔しがっていたが、 1対1なら分からなかった。チームメイトの総合力で、うちのクラスが優っていたというだけの話だ。
それから郁乃は勝ち進み、見事に女子の部で優勝した。
さすがだなぁ……。
次回は、バスケですね。
さて、このまま特に主人公の活躍もなく終わってしまうのか……ふーむ……。