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三話 お隣さんと掃除


 翌朝は土曜日で、午前中のみ学校がある。

 俺は、午前中の授業を終えると、そそくさと帰宅。

 そして、ぐーすかと、いびきをかいて寝ていた朱音を叩き起こした。


「もう……なんだよ、お兄ちゃん……。今日は、せっかくの休日なんだからお昼まで寝かせてよー」


「お前、毎日が休日だろ……あと、もうお昼すぎてるから。そんなことより、今日は掃除をするぞ! また、黒いあいつが出てきたら、アーちゃんも困るだろ?」


「うう……それはそうだけどさ。面倒くさいから、お兄ちゃんが全部やってくれないかね?」


「張っ倒すぞ」


 俺は、なめたことを口にした朱音のこめかみを、自分の拳でグリグリする。朱音は、「いーだーい〜!」と涙目になっていた。


 そんなやり取りの後、朱音は渋々といったようすで部屋の掃除に取りかかる。俺も、朱音が途中でサボらないか目を配りながら、掃除を始めようと――。


「……」


「……」


 朱音と俺の動きは同時に止まってしまい、ぎこちない動きで目を合わせる。


「……な、なあ、アーちゃん。ところで、掃除ってどうやるんだったか」


「おいおい、お兄ちゃん……アーちゃんは汚くするプロだぜ? 綺麗にする方法なんて分からないに決まってらぁ……」


「この野郎……でも、ダメな妹も可愛い」


「だから、アーちゃんダメじゃないし! 掃除ぐらい余裕だ見てろこんちくしょう!」


 この後は、ただただ悲惨だった。

 やけを起こした朱音が、床を埋め尽くすゴミや服などに足を取られて転倒。


 ホコリは舞い上がり、床に散らばっていた物は、もっとぐちゃぐちゃに。慌てて、朱音を助け起こそうとした俺ももれなく転倒。


 そのさいに、お互いの頭をぶつけ合い、2人揃ってその場で痛みに悶えて苦しむ。


「くっ……なにすんだお兄ちゃん!」


「アーちゃんこそ! アーちゃんがそこら辺に服を脱ぎ散らかすから!」


「お兄ちゃんが、アーちゃんのお世話ちゃんとしないからだ!」


「貴様この野郎! 言うに事欠いて、俺のせいにするつもりか! 今日こそ決着をつけてやる!」


 ボコスカ、ボコスカと――掃除そっちのけで、取っ組み合いを始める。


 当然、その喧騒はあの103号室にも響き――ピンポーンとインターホンが鳴らされる。俺は朱音との取っ組み合いを中断し、玄関を開ける……と、玄関先に鬼の形相をした毒島が立っていた。


 これはそうですね。とても怒っていますね……。


「うるさいのですが」


 これにはなにも言い返せず、大人しく頭を下げた。


「はい……どうもすみませんでした……」


「はあ……なにをしていたら、あれだけ騒がしくなるのですか。というか……部屋が昨日よりも汚くなっていませんか」


「掃除しようとしてた」


「……そうじ」


 玄関から見える範囲でも、部屋の中は酷い惨状であった。これで掃除をしようとしていた――とのたまうのだから、とても信用などできまい。俺も自分が自分で信じられないわ。


 毒島が現れたためか、普段は来客時でもめったに顔を出さない朱音が、ひょっこりと洋室の入り口から顔を覗かせている。

 朱音を見た毒島は、再び大きなため息を吐いた。


「はあ……このままでは、妹さんの教育にもよろしくないでしょうから、私も手伝いますよ」


「は? なにを?」


「掃除です」


「……え? なんで?」


 たいして仲良くもなく、交流もない毒島が、なぜそんなことを言い出したのか訳が分からず、俺は首を傾げた。


 俺の問いに対して、毒島はさらにため息を吐く。これで何度目だろうかと、俺はプリン色の髪を撫でた。


「……はあ。このまま、あなたに任せていたら、いつまでも掃除が終わらないでしょうし。その間、ずっと騒がしいと私が迷惑です」


「……たしかに」


 掃除のできない俺と朱音では、どれだけ時間をかけても掃除は終わらないだろう。そして、確実にその合間で先ほどみたく喧嘩することは容易に想像がついた。


 ありがたいことはありがたいが……。


「まあ、俺は助かるけど……いいのか?」


「良いも悪いも、私が提案したのですから。それに、これは私のためです。いつまでも、騒がしいとかないませんから」


「じゃあ、お願いします……?」


 俺がそう言うと、毒島は肩を竦めた。


「では、準備をしてきますので……くれぐれも余計なことはしないでください」


「……」


 先に始めさせると、余計な手間が増えると考えたのだろう。まあそれが正解だと思い、俺は苦笑いを浮かべた。

 しばらくして、エプロンを身につけ、髪を一つに結んだ毒島がやってきた。


「お邪魔します」


 真面目な所作で毒島は部屋に上がるのだが……足の踏み場のなさに、さっそく頬を引きつらせた。

 汚くてごめんなさいね本当に……。


「よくこんな環境で生きていられますね……」


「それほどでも」


「褒めていません……はあ。妹さんが可哀想だとは思わないのですか」


 俺としては、朱音も同罪だと心の底から訴えたかったが、事実でもあるので口を噤んだ。

 毒島はなんとかキッチンを超えて、洋室に入り、部屋の隅っこで小さくなっている朱音に声をかけた。


「えっと……朱音さんでしたよね……? 先日、挨拶にいらっしゃった」


「……あうあう」


 朱音は、すっと立ち上がり、毒島の後ろにいた俺の背に逃げ込むように隠れてしまう。

 俺は、唖然とする毒島に向かって、「悪いな」と肩を竦めた。


「前にも言ったと思うけど、うちの妹、人見知りなんだ」


「そうでしたね……驚かせてしまったでしょうか。ごめんなさい」


「大丈夫。緊張してるだけだから……それよか、ほれアーちゃん。掃除を始めるから、お前も手伝え。毒島にだけやらせるわけにはいかないだろ」


「う、うん……えと、よろしくお願いします。毒島先輩……」


「……」


 朱音が俺にしがみついて頭を下げると、毒島はムスッとした顔になる。ただ、これは朱音に対して不満があるというわかではないらしい。


「あの……苗字で呼ぶのやめてください。苗字で呼ばれるの、あまり好きではないので」


「そうなのか? ん~って言っても、たいして仲良くもない相手を名前で呼ぶのは気が引けるなあ」


「あ、アーちゃんも……名前は……呼んだら死ぬぅ……」


「なんでだよ」


 萌えとか、尊いとか、物理的な死というよりも、恥ずかしさによる死でも迎えるのだろうか。

 朱音は極度の人見知りだが、相手が一目惚れしたという毒島だからだろうか。珍しく興味津々なようすで、時折毒島を見ては、俺の背中で「きゃーきゃー」と騒いでいる。


 もちろん、毒島は気づいていない。


「……別に、名前でなくても。この際、苗字でなければなんと呼んでくれても構いませんよ」


「そうか? なら……お隣さん?」


「私じゃない人も当てはまりますよそれ……」


 たしかに……俺はほとんど会ったことのないお隣さん――105号室の住人が脳裏に過ぎる。


「じゃあ、クセ毛」


「次にクセ毛のことを言ったら殴ります」


「めっちゃ怒るじゃん……じゃあ……えっと、師匠?」


「なんのですか」


「掃除の?」


 毒島は深いため息を吐くと、「もうそれでいいですよ……」と頷いた。


「あ、あの……アーちゃんはじゃあ……せ、先輩って呼びます……」


「ええ、それで構いません。よろしくお願いしますね、朱音さん」


「俺の時と対応が違う」


「お兄ちゃん……! あ、朱音さん……! だってよ……!」


「はいはい……掃除をはじめましょうねー」


 なぜか感極まっている朱音に適当な相槌を打ち、早速掃除を始めることにした。


「で、俺とアーちゃんはなにをすればいい?」


「さっそく、他力本願ですか」


「師匠!」


「はいはい……分かりましたよ……それでは、役割を分担しましょうか。掃除機をかけるにしても、床の荷物が邪魔ですし。まずは、床の物を選別して、いらないものは捨ててしまいましょう」


「「サー・イエス・サー!」」


 ビシッと、敬礼をした俺と朱音は、さっそく床に散乱した物の選別を開始する。

 毒島も、「返事だけはいいのですね」と皮肉を口にしてから床の物を手際よく片付けていく。

 しばらくして、毒島は床に落ちていたある物を手に取って顔を顰めた。


「……はあ。小藤くん……だと、2人とも同じでしたね……えっと、翔太くん。ちょっと」


「ん? なんだ?」


 毒島に呼ばれた俺が振り返ると、毒島の手にはちょっと……いや、かなりいかがわしい本が収められていた。

 毒島は唇を尖らせる。


「男の子ですから……ある程度は仕方がないでしょう。しかし、妹さんと一緒に暮らしているのですから、こんな不健全な物、床に置いておかないでください! これだから男というのは……」


 くどくどと、毒島が説教を始める。たしかに、いかがわしい雑誌が落ちているのはよくないし、怒られて当然ではあるが――。


「は……? いや、それ俺のじゃないけど」


 シレッと言った俺に、毒島はこめかみに青筋を立てた。


「なら、こんないかがわしい本を他に誰が――」


 と、毒島が言いかけた時であった。

 スッと、相変わらず俺の小さな背に隠れた朱音が、控えめに手を挙げた。


「あ、あのー……あ、アーちゃんのですそれ……」


「……え? あ、朱音さんの……なんですか……?」


「はい……」


 どこからどう見ても、男性向けのいかがわしい本が、朱音の持ち物だと言われて、毒島はポカーンと口を開けるのだが、すぐに頭を振った。


「翔太くん。誤魔化すために朱音さんに言わせていますね?」


「酷い言いがかりだ……」


 俺は天井を仰ぎ、困った笑みを浮かべる。

 あんまりこの話題を深堀させるのはよくないな……俺は、自分の背中で振るえている朱音を一瞥した。


「まあ……とりあえず、掃除を続けようぜ。不健全雑誌の類は、俺とアーちゃんで片付けるから」


「え? あの……」


 毒島がなにかを言う前に、俺はそれを遮って、掃除を再開する。黙々と物を選別する俺を、毒島は怪訝な表情を浮かべていたが、やがて掃除を再開させるのだった。


マジメな風紀委員長の幼馴染ってなんかいいよね。

どうも青春詭弁です。


なぜ、マジメ風紀委員長幼馴染がいいのか……今回はそこについて解説しましょうか。


結論から言いますと、ギャップです。


周りからは、マジメな風紀委員長で通っているあの美少女が、「昔はこんな感じの女の子だったんだぜ?」と主人公だけが知っているという優越感。


そして、普段は気を張っている美少女も、幼馴染ということで主人公にだけは普段は人に見せない一面を見せてくれる……┌(┌^o^)┐萌えぇぇ……


マジメ風紀委員長幼馴染……最高か????

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