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二十六話 未練がましい


 家に帰り、朱音に郁乃の夕食が今日のところは食べられないことを伝えると、案の定駄々を捏ねた。


「い~や~だ~! 郁乃さんのご飯食べたいご飯食べたいご飯食べたい~!」


「駄々を捏ねてもめーっだぞ~。今日は大人しく俺のご飯で我慢しなさい」


「い~や~だ~! 朝から暗黒物質食べさせられて、夕食まで暗黒物質なんて冗談じゃない!」


「安心しろ。俺も暗黒物質を食いたくない。だから、今晩はちゃんとお弁当を買って来た」


「それなら我慢する」


「貴様この野郎……」


 我が妹の心無い言葉に、俺は深く傷ついた。

 とてもショックだ。そりゃあ、俺だって自分で作ったまずい飯なんか食いたくない。

 いや、そもそも自分が暗黒物質を作る前提で話て、自分のことながら、我ながら……勝手に落ち込むことになった。


「はあ……で? お前はどっち食べたい?」


「なにがあるのさ?」


「ビビンバ丼と中華丼」


「微妙なセレクトだなー」


 このダメ妹。夕食をわざわざ買ってきてやったお兄ちゃんに向かって、まさかの難癖である。

 張っ倒してやろうかこの野郎。


「じゃあ、アーちゃんは……中華丼でいいやー」


「分かった」


 消去法で、俺はビビンバ丼になった。

 それから、妹と取り留めのない会話をしながらお弁当を食べる。


 やがて、お弁当を食べ終えた朱音は、目を瞬き俺をジッと見ていたので、俺は首を傾げた。


「なんだ? 俺の顔になにか付いてるか?」


「ん~……なにか付いてるっていうか、なにかあったのはお兄ちゃんじゃない?」


「……なんでそう思ったんだ?」


「ちょっと上の空っていうか……いつものお兄ちゃんっぽくないからさ。ほら、アーちゃんはお兄ちゃん大好きフリスビーだからね! お兄ちゃんのちょっとした変化も気づくいい女ならぬ、いい妹なのさ!」


 自分で言うな。

 しかし、そうか……上の空か。


「そんなボーッとしてるように見えたか?」


 そう尋ねると、朱音は首を横に振った。


「いんや? 他の人には普通に見えると思うよ? でも、他の誰も気づかなくても、アーちゃんだけは気づくよ。なにかあったんでしょ? アーちゃんは分かるよ?」


「……」


 家族だからだろうか。

 仮に、朱音になにかあれば、俺だってその異変にはすぐ気づくだろう。

 なんだか、俺は妹にそんな気づきに嬉しく思ってしまった。


 だから俺は苦笑して、感謝の意も込めて朱音の頭を撫でた。


「にゅふふふ~お兄ちゃんのナデナデは世界を狙えるね~」


「そうか?」


「うん! あ、でも普通の女子は髪触られるの嫌いだからやめた方がいいよ?」


「聞きたくなかったなー……そんな現実」


「だって女子って、まあ人によるんだけどさ、割りと時間かけて髪の毛の手入れしてるもんなんだよ? アーちゃんはめんどうだからしないけど」


「だからボサボサなんだよ……」


 だが、朱音の言う通りだろう。

 郁乃なんかは絶対に髪を触られたくないだろうし。


「それで? なにがあったのさ? アーちゃんでよければ話くらいは聞いてやるぜ?」


「……まあ、たいしたことはないんだけどさ。実は、明日球技大会があるんだ」


 かくかくしかじかと、俺は朱音に説明した。

 バスケへの未練。未練がましい、女々しい男の情けない話。


 話を聞いた朱音は、「あー……」と気まずそうな唸り声をあげた。


「それはあれだね……アーちゃんじゃ力になれないね」


「別に、大丈夫だ。気にすんな。ただ……まあ、未練がらあるってだけの話」


「でも……それってアーちゃんのせいもあるよね……?」


「だから……気にすんなって」


 俺はクシャクシャと朱音の頭を乱暴に撫でた。それでも、朱音は嫌そうな顔をせず、ただ俺を受け入れた。


 そうして、しばらく静寂が訪れたわけだが……ふと、朱音が沈黙を破った。


「あ、そういえばさ、アーちゃん、あの写真の女の子の名前を思い出したんだよね」


「お、マジか……」


「うん。名前っていうか……あだ名なんだけどね」


 朱音はそう前置きして、ふわっとその名前を口にした。


「たしか、アーちゃんたちはあの子のことを――」


――いくちゃん。


 そう呼んでいたはずだと、朱音は断言した。


 いくちゃん……復唱すると、なんとなくそんな名前を繰り返し呼んでいたような気がしてきた。


「……」


 俺は写真の女の子のことを思い浮かべながら、天井を仰いだ。


「いくちゃんか……」


 ワカメみたいな髪で、あだ名はいくちゃん。


「あれ? どうしたのお兄ちゃん? また考え事?」


「……ん? まあ、ちょっとな。明日の球技大会が、めんどうくさいなーと……」


「お兄ちゃんなんにも出ないんじゃないの?」


「いや。一応、男女別競技に参加しない奴らは、強制的にクラス対抗の男女混合ドッヂボールをやることになってる」


「ぷぷ〜よかったねお兄ちゃん? お兄ちゃん的が小さいからボールが当たりにくそうで〜」


「小さくないが!?」


 俺は撫でていた妹頭を鷲掴みにした。


「あー! 痛い痛い! 頭割れる〜!?」


「お仕置きだこの野郎!」


 と、もちろん朱音が抵抗しないはずもなく……ボコスカ、ボコスカ。


 まあ、やっぱり小藤家はこうなるみたいである。

どうも幼馴染マイスターの青春詭弁です。


挨拶のネタが切れました。


さて、今回は主人公と幼馴染の関係性を紹介しましょうか。


ど定番なものは、友達以上恋人未満みたいな関係ですよね。あとは、家族みたいな間柄とか。そんな感じのも、同じ類いのものでしょう。


私は、この関係性がそれほど好きではありません。煮え切らないのは、大変結構ですけど、これは負けヒロイン扱いされてる幼馴染のまさに代表例ですからね。


私が一番好きなのは、険悪な関係性ですかね。

次の新作は、こんな感じの関係性で書きたいですね。


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今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 翔太はこの後に及んで気付かないとは。 目の前の事で一杯で、まだ周りが見えないのかな? 彼が主人公として価値を示すのは、今まで周囲にしてもらった優しさを、今度は自分が返してあげられるかだ…
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