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二十一話 雨音とメデューサ前編

風邪がしんどいので短めです。

すみません。


「どうやったらこんなことになんの?」


「不可抗力です」


 ボランティアの時間も終わり、学校側で用意してくれたお弁当をいただき、これでゴミ拾いも終わりというところ――お弁当を食べ終えてゆっくりしていた俺のところに、平田が殴り込んできた。


 平田の視線は、俺の背後でずっと土下座している芹沢と遠藤に向けられており、周囲の人たちは遠巻きに俺たちを見て、ヒソヒソと話している。


「不可抗力でこうはならないでしょうが……なにがあったのよ……」


「まあ、ちょっと事情が……」


 目を逸らしらして答えると、平田が「はぁっ……」と大きなため息を吐いた。


「あんたって、前科のこともそうだけど……どうして大事なことは言わないわけ?」


「大事なことって、おいそれと人に言うもんじゃないだろ?」


「屁理屈……」


「……」


 別に隠してるとか、そういうわけじゃない。

 ただ、人に話すようなことじゃないと思っているだけだ。


 俺は自分の髪を撫でて、深いため息を吐く。そして、後ろを振り返って、いまだに土下座を続ける2人に声をかけた。


「なあ、いつまでもそこで土下座されてると迷惑だから、どっか行ってくれないか」


「ひっ……ご、ごめんなさい!」


「ごめんなさい!」


 芹沢と遠藤は口々に謝罪し、足をもつれさせながら、ヨロヨロと逃げて行く。

 平田はその2人を見ながら、ぽつりと呟く。


「あの2人……風紀委員の会議で名前があがる超問題児なんだけど……本当になにやったのよ」


「俺はなにもやってない」


 そうだ俺はなにもしていない。ちょっと怖いドキュンに喧嘩を売っただけだ。


 本当に、あの手の輩はいなくならないもので、芹沢と遠藤が絡まれているのを見て、腹の底から怒りが湧き上がった。


 たしかに、芹沢や遠藤には嫌な思いをさせられたけれど、ある意味俺の自業自得というのもあるし、ゴミを被されたり、殴られても気にならなかった。


 ドキュンに絡まれても、別になんとも思わなかった。だというのに、なぜか2人が絡まれているのを見て、腹が立ったのは……はたしてなぜだろうか。


 その答えを俺は持っていないし、今後知ることもないだろう。



 ボランティアが終わり、俺は郁乃とアパートまでの帰路を歩いていた。


 昼を過ぎ、太陽がだんだんと沈み出す頃合い。郁乃はそうとうゴミ拾いを頑張ったのか、綺麗な顔がやや汚れてしまっていた。


 それでも、身から溢れ出る高貴なエネルギーによって、まったく汚く見えない。


「……平田さんから聞きましたよ。今回は上手くいかなかったと」


「不可抗力です」


「そうですか」


 郁乃は俺の方を見て、クスクスと微笑む。

 その所作が一々綺麗で、思わず見惚れる視線を無理矢理引き剥がし、明後日の方向を注視する。


 郁乃はそんな俺の心中など気にも留めず、軽い足取りで俺の先を歩く。


「週が開けたら、全国模試ですが勉強はしていますか?」


「やってるよ。こう見えて、勤勉なんだ」


「意外ですね」


「将来的にアーちゃんを養わないといけないからな。良い大学に入って、良い企業に就職したい」


「理由に納得です……」


 郁乃は手を後ろで組み、静かな田舎道を気持ち良さげに歩く。時折、伸びなんかもして、猫っぽいなと思った。


「勉強……よければ見ましょうか? こう見えて、学年主席なんですよ?」


「見たまんまだな」


 本当になんでもできるやつだなぁ……と、俺は空を仰いだ。


 料理も洗濯も掃除もできるし、スポーツも勉強もできる。話してみれば、いい奴だし、高嶺の花ともてはやされているほど彼女は人間味がないわけじゃない。


 普通の女の子らしく、髪型とか気にするところとか、人間味に溢れている。


 ふと、俺は以前に話していたことを思い出す。

 そういえば、今の郁乃の髪は丁寧に整えた状態と言っていた。手入れのされていない状態は、まるでメデューサみたいなのだとか。


 ちょっと見てみたいな……。


「……? 私の髪を見て、どうかしたんですか?」


「いや……なんでも」


 まあ、絶対に見せてくれるわけがない。

 俺は適当にはぐらかし、急かすように小走りで家に向かった。

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