表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

十九話 イメージアップ

 郁乃は恭しく部屋に上がり、洋室で小さくなっている朱音を見て苦笑する。


「ふふ……昨日はずっと翔太くんにくっついていたのに、すっかり元気みたいですね。お2人が取っ組み合いしている振動が、私の部屋まで届いてましたよ」


「すまん……」


「いいのですよ……それより、朝食にしましょうか。ほら、朱音さんもちゃんとお布団片づけてください」


「……は、はい」


 やはり、郁乃に言われると素直に言うことを聞くみたいだ。朱音はいそいそと、布団を畳み部屋の端に追いやった。


 兄としては誠に遺憾だ。


 俺はテーブルを用意し、その上に郁乃が持ってきた鍋を置く。鍋の中は、煮物だった。よく煮込んであるのか、大根がいい色合いをしている。


「いつも悪いな」


「構いませんよ。私も楽しいですから……さ、食器を用意しましょう」


 それから、俺たちは郁乃の料理を食べて、朝から贅沢な気分になる。

 我ながら本当に幸運だ。こんな美味い料理を食べられるなんて……と。


 食事が終わると、俺と郁乃でキッチンに立ち、朝食に使った食器を洗う。郁乃が洗剤で食器をゴシゴシし、俺が洗剤を洗い流す係だ。


 朱音は郁乃の料理を食べ、洋室の方で満足げな表情でゴロゴロしている。


「……考えたのですが」


 と、郁乃はなんの脈絡もなく、洗剤で食器を洗いながら口を開く。


「翔太くんは、誤解を解く努力をすべきだと思うのです」


「え、なんだよ急に……」


「昨日、帰り際に平田さんと少し話しました。平田さんは、朱音さんが引きこもりで学校に行っていないことを理解してくれました。学校に行けない理由と、そしてあなたについた前科のことも……」


「……」


 平田は朱音のことや、俺の前科がついた理由を聞くと、とても怒っていた。


『そんなの間違ってるわ!』


 風紀委員長をやっているだけあって、彼女は正しさにこだわる気質があるみたいだった。


 ただ、まあ……俺が間違っているか、正しいかなんてものは、法律が決めることであって、俺が決められるわけでもない。


「……たしかに、あなたについた前科は消えないでしょう。それはどうすることもできません。しかし、少しでもイメージアップはしておくべきだと思うのです」


「なんで」


「妹さんのためです……」


 言われて、そういうことかと納得した。

 俺はいずれ、朱音が学校に行けようになって欲しいと願っているし、そのための協力は惜しまないと考えている。


 ただ、今の状況で仮に朱音が学校に行ったとしても――俺の犯罪者という肩書きが邪魔をする。


 朱音には常に、犯罪者の妹というレッテルがついて回ってしまう……郁乃はそういうことを言いたいのだろう。


「イメージアップは……俺もその通りだとは思うけど。つっても、具体的にどうすればいいかなんて、全然思いつかないし」


「そこは安心してください。私に考えがあります」


「考え……?」


「ええ。昔から、人は無償の善意に感謝をするものなのです。それであなたのイメージをよくすることができるはずです」


「無償の……善意?」


「簡単に言えば、ボランティアですよ」


 郁乃は俺に皿を渡し、俺は皿についた洗剤を洗い流す。

 今のが最後だったようで、郁乃は手を洗って布巾で水っ気を拭いとる。


「ちょうど、今週末の土曜日に風紀委員主催の町内清掃のボランティアがあるそうです。平田さんの方で、あなたの申し込みをしておいてくれているはずです」


「いつのまに……ってか、手が早いんだな」


「やるなら、早い方がいいでしょう?


 それはたしかに、その通りではあるが……俺はここで一つ疑問が生まれた。


「なあ、どうしてそんなことまでしてくれるんだ? 飯まで作ってもらってんのに……」


「それは……恩返しと……言いますか……」


「は? おん……なんだって?」


「な、なんでもありません……別にいいではないですか。ただ、私がお節介なだけということで」


「それだと府に落ちないんだよなぁ……」


 そんなお節介焼きなら、もっと友達いるだろうし、

 こいつは学校だとほとんど1人だし、基本的に笑わない。イメージするのなら、初めて郁乃に会った時のような……氷が如き冷たさがあった。


 今は、それなりに打ち解けてるとは思うけれど、そんな他人を避けていた郁乃が、どうして俺にお節介を焼いているのかが分からない。


 もしかして……。


「なあ、郁乃ってもしかして俺のこと好きだったりするのか?」


「はい? どうしてそういう思考に行き着くのですか。頭が沸いているのですか?」


「いや……すんません……」


 違った。

 郁乃は、「ふんっ」とそっぽ向いて洋室の方へと歩いていく。


 俺はそんな彼女の背に向かって言葉を投げた。


「……ちょっと頑張ってみるよ。他ならぬ、妹ために。ボランティア」


「……そうですか」


 郁乃は俺を尻目に一瞥して頷き、クスッと小さく微笑むのだった。

頭痛が……痛い……頭痛が……痛いです!

どうも頭痛が痛い幼馴染マイスターの青春詭弁です。


昼くらいに投稿しようと思っていたら忘れていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ