十八話 ギャルゲーの選択肢みたいな出来事
※タイトルをちょっと変更しました。
※
「ぜぇぜぇ……アーちゃ〜ん! どこだー!」
朱音を探して初めて、はや数十分。そろそろ日が落ちてきて、夜になってしまいそうな頃合い。
夜になる前に朱音をどうにかして見つけたいが、俺は一向に見つけられないでいた。
住宅街を走り回り、朱音の名前を呼ぶが返事はない。代りに、周りの人たちから奇異の視線を向けられる。だが、走りすぎて息が上がっているということもあり、疲労が先に来て、周囲の視線なんて気にならなかった。
「アーちゃ〜ん!」
再び名前を呼ぶ。
返事はない。
もしかすると、ここら辺にはいないのかもしれないと……そう思った矢先だった。
「お゛に゛い゛ち゛ゃ゛〜ん゛!!」
「っ! 朱音が俺を呼ぶ声っ! そっちか……!」
俺は振り返り、朱音の声がした方に向かって走る。
少し走ると、俺は近所の公園に行き着いた。
時間も時間ゆえ、子供たちが遊んでいるようすはなく、周囲を見渡しても人影は見当たらない。
「ぜぇ……ぜぇ……ま、間違えたか……? たしかに、こっちから声が聞こえたはずなんだけど……」
しかし、誰もいない。
いったいどこに――と、
「あの……すみません」
声がした。
これは聞いたことのある声だ……そう郁乃だ。郁乃の声だ。
キョロキョロと首を回すが、郁乃の姿はない。まさか、幻聴だろうかと、俺が首を傾げると、今度はまた別の声がした。
「ねえ、ちょっと……!」
次は平田の声だ。
キョロキョロと首を回すが、やはり平田の姿は見当たらない。
「な、なんなんださっきから……」
朱音に続いて、郁乃と平田の声が聞こえる。
ここまで来て、まさか幻聴なはずがない……しかし、いったいどこにいるのだろうと首を回していると、
「上! お兄ちゃん! 上た゛よ゛う゛っ!」
「うえ……? 上……」
再び聞こえた朱音の声に従い、上の方へ視線をずらしていくと――いた。
木の上で、幹にしがみ付いている朱音と、太い枝に腰を下ろしている郁乃、同じく太い枝の上に立っている平田の姿が……そこにはあった。
「……よし、アーちゃん帰ろうか」
「うえええ!? ちょっと待って! なんでナチュラルにあたしたちを捨てていこうとするの!? あんた鬼畜なの!?」
「……アーちゃんは、どうせ木の上から降りられないのは分かりきってるけど。お前らは自力で行けるだろ」
「降りられないからここにいるのよ!」
なんで俺はキレられた。
「……一応、経緯を聞こうじゃないか」
「え、今!? 先に助けてよ!」
「いやだよめんどうくさい……」
「酷い!」
と、平田がぎゃーぎゃーうるさいが……割とこの状況が面白いので、このままにするのもありかと思っている。あと、朱音も見つかったし。
先ほどまで焦っていた俺の思考に、だんだんと余裕が生まれてきた。
平田と郁乃は目を見合わせると、渋々といった顔で、先に郁乃が口を開く。
「……まず、私が先に朱音さんを見つけました。どうやら道端で見つけた猫を追いかけていたら、木から降りられなくなったようでして」
「飛ばしすぎだろ。なんで木に登ったんだよ」
「それで、朱音さんを助けようと登ったら、私も降りられなくなってしまいました。高いところが苦手なのを忘れていました……」
郁乃は青い顔で、ガクガクと体を震わせる。
この女、頭良さそうに見えて、実はバカなのかもしれない。
「なんで高いところが怖いのに登っちゃうかなぁ……」
「は? 怖くありませんが?」
「……」
ムカついたので、木を軽く蹴って揺らすと、3人が同時に「ひいいいい!?」と悲鳴をあげた。
「ちょ、ちょっとあんた鬼畜なの!? クソ鬼畜やろう!? 性格悪すぎでしょ!」
「ご、ごめん……やりすぎた。えっと、それで平田はなんで?」
「あ、あたし……郁乃さんと朱音さんを見つけて……『高いところが怖いなんて無様ね郁乃さん!』って言ってやったのよ」
「俺の謝罪を返せ」
「それで……仕方ないから、2人とも助けてあげようと思って登ったら……降りられなくなったのよ……高いところが苦手なの忘れてたわ……」
「お前もかよ」
やっぱり、こいつも頭から良さそうでバカなのだろう。
というか、バカすぎる。
俺は最後にと、朱音に目を向ける。
「それで、アーちゃんはどうしたんだ?」
「うぅ……が、学校行かなくちゃって思って……その……でも、学校の行き方、分からなくて……迷った。で、猫ちゃんがいたから……追いかけて……木に登って降りられなくなったの……。た、助けを呼ぼうにも、アーちゃん人見知りだから呼べなくて……携帯も忘れちゃって……その……怒ってる……?」
「怒ってないよ。頑張ろうとしてる人間を怒るなんてこと、お兄ちゃんはしないよ……ただ、心配はしたけど」
「ご、ごめんなさい……」
朱音は涙目で頭を下げた。
そんなダメ妹に苦笑を浮かべ、さて……と俺は3人を見上げる。
「お兄ちゃん、お゛ろ゛し゛て゛〜」
「あの……お、降ろしてもらえると……た、助かります……」
「い、一生のお願い……降ろしてちょうだい……!」
と、3人は俺に助けを求める。
なんだこのギャルゲーの選択肢みたいな展開。
誰を先に助けるかで、ルート分岐しそう。
3人ともジッと俺を見ているし、誰を先に助けるかによって、本当にラブコメ展開が始まりそう。
さて、誰から助けようかと考えていると、郁乃が突然口元を手で抑えた。
「う……吐きそうです」
「またかよ」
仕方ない。
とりあえず、まずは郁乃から助けてやるかと、俺は自分の髪を撫でた。
「よ~し、じゃあ俺の胸に飛び込むんだー」
「うぷっ……正気ですか……?」
「正気だが」
俺は郁乃の真下で腕を広げて待機する。
こっちが下で受け止めた方が、効率的だと思うんだが。
「あの……飛び降りるのはちょっと……怖いですし…その……す、スカートが……」
そういえば、郁乃もだが3人とも制服だからプリッツスカートを履いていた。
だからといって、他にどうやって降ろせばいいというのだろうか。
「ほら、大丈夫。目を瞑るから」
「そ、それでちゃんと受け止めていただけるのですか……?」
「大丈夫。大丈夫。ちゃんと受け止めるから」
「……っ。し、信じますからね……」
郁乃はそう言って、少しだけ目を瞑って大きく深呼吸をする。
「おう、どんと来い」
俺は身構えて、郁乃を飛び降りるのを待つ。
しばらくして、郁乃は意を決した顔で座っていた木の枝から飛び降りた。
俺はすかさず、郁乃の着地地点に滑り込み、彼女の体を受け止め――ようとしたが、自分が非力であったことをすっかり忘れていた。
「ぐおっ!?」
「きゃっ!?」
俺と、俺の胸に飛び込んできた郁乃はもつれ合う感じで、地面に倒れ込んでしまった。
思ったよりも郁乃が重かったと言ったら、絶対殺されるな……。
とりあえず、郁乃は大丈夫だろうかと目を開けると――眼前に郁乃の端正な顔があった。
続いて、唇に柔らかな感触を感じ――俺はハッと目を見開いた。
「んむっ!?」
「んっ!?」
俺と郁乃の唇が触れ合っていることに気づいたのは、この数秒後である。
幼馴染は尊い。
どうも幼馴染マイスターの青春詭弁です。
幼馴染といえば、ヤンデレ幼馴染というタイプがいます。
このタイプはとっても危険です。
本当は昔から主人公のことが好きだったけど、思いを告げられず、ストーカー行為を繰り返し、最終的には監禁してきます。
もし自分に好意を寄せているヤンデレ幼馴染がいることに気づいたら、すぐに付き合いましょう。
ヤンデレ幼馴染は普通のヤンデレと異なり、「昔から」と数年に渡ってヤンデレってるので、とても危険です。早めの対処が肝心でしょう。
以上。
ヤンデレ幼馴染好きからでした。