十六話 鍵穴
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俺たちがアパートに着くと、アパートの前に志穂子さんが立っていた。
手にホウキを持って、サッサッと落ち葉やらチリゴミなどを集めている。
志穂子さんは俺たちを見るなり目を瞬き、ニヤッと口元を悪そうに歪めた。
これは盛大な勘違いをしているなと、俺は直感的に察する。
だから、先手を打って口を開こうと――。
「あら〜翔太くんったらぁ〜。隅に置けないわね〜? 女の子に囲まれて帰ってくるなんて〜」
先に言われてしまった。
「違いますよ。志穂子さんが思ってるようなあれじゃないです」
「あらあら、そうなの〜」
まったく俺の話を聞いてない。
後ろの2人も察したのか、苦笑気味に口を開く。
「えっと……初めまして。平田希美です。小藤翔太くんとは、同じ学校の生徒というだけで、特別な関係じゃないです」
「彼女の言う通りです志穂子さん……私と翔太くんは、そのような関係ではありません」
「あら、そうなの? ごめんなさいね〜? おばさん勘違いしちゃったわ〜」
「解せぬ」
俺の時とは打って変わって聞き分けがいい。俺とこいつらの違いが分からない。
志穂子さんは、しばらく「うふふ〜」と楽しげに笑い、ふと思い出したかのように俺を見る。
「そういえば、例の写真なんだけどね?」
「写真って……あの、昔の写真ですか?」
「そうそう! 私が学生時代のアルバムの間に挟まってたのよ〜! 高校の制服を着た私と翔太くんのツーショットもあるのよ〜。うふふ〜、もうあの頃に比べたら、私も随分とおばさんになっちゃったわ〜」
「そんなことないですよ。志穂子さんはずっと綺麗です」
「まあ! お世辞でも嬉しいわ〜」
志穂子さんは頬に手を当てて嬉しそうにしている。
別にお世辞でもなんでもない。
俺はチラチラと揺れに揺れる志穂子さんの胸を盗み見ながら、そんなことを考える。ふと……俺は背後から殺気にも似た気配を感じて、反射的に振り返った。
すると、そこには瞳孔が完全に開いている平田が立っていた。平田の目は俺というよりも、志穂子さんの胸に向けられていた。
「これみよがしに揺らされてる」
と、平田は呟いた。
いたよ。これみよがしに胸を揺らす嫌なやつ。いや、別に志穂子さんは嫌なやつじゃない。天然だけだ。
ただ、平田には天然だろうが意図的だろうが関係ないのだろう。巨乳は等しく死すべしとか考えてそうな、そんな顔をしている。
怖い……なにあの顔……黒髪のロングストレートだから、日本人形かと思った。めっちゃ怖い。
「……昔の写真」
郁乃がそこでなにか呟いた気がしたが、平田に気を取られていた俺は、郁乃がなんと口にしていたのか聞き取れなかった。
「あ、じゃあ、今から取りに行ってくるわね〜。一緒にアルバム見ましょ!」
「え」
志穂子さんは俺がなにか言う前に、ビュ〜っとホウキを持って走り去ってしまった。
平田は志穂子さんの背を見送って、ぽつりと呟く。
「な、なんというか……子供みたいな人ね」
「精神年齢がちょっとな……まあ、すげぇいい人なんだけどさ。まあ……とりあえず、行こうぜ。もう、うちすぐそこだし」
「えぇ、そうね」
俺は2人にそう言って、104号室の前に立つ。俺の後ろには、平田と郁乃が立ち――平田は「……?」と首を傾げた。
「なんで郁乃さんはまだいるのよ? 郁乃さんの部屋はお隣でしょう? というか、自然と一緒に帰ってたけど、一緒に帰る必要もなかったのよね……」
「あ、そ、それは……」
郁乃は平田の問いに言い淀む。
言われてみれば、平田の言う通りだった。
おそらく、郁乃も無意識だったはずだ。俺も、郁乃がうちに来るのが当たり前だと思っていた。だから、ここまでまったく疑問に思わなかった。
まずいな……さすがに、郁乃が毎日うちでご飯を作ってもらっているなどバレたら……あらぬ誤配を受けるのが目に見える。
歯切れの悪い郁乃に、平田が首を傾げたタイミングで、俺は話題を逸らすためにわざとらしく声を張った。
「ま、まあまあ! と、とりあえず、今日はうちの妹が目的なんだろ? 細かいことは気にすんなって!」
「え? まあ、そうね……?」
平田は目を瞬き、不思議そうにするものの、特に怪しむことなく頷いた。
俺は再び追求される前にと、鍵を玄関に挿して――はてと、首を傾げた。
「あれ……」
「ん? どうかしたの?」
「……? 翔太くん……?」
俺のようすが気になったのだろう。平田と郁乃が、怪訝そうに尋ねる。
俺は鍵穴から鍵を抜きながら答えた。
「……鍵が開いてる」
今日は早起き。
どうも幼馴染マイスターの青春詭弁です。
今日は、ボランティアで朝早くに起きました。幼馴染に起こしてもらたいだけの人生じゃった……。
今回は短めで申し訳ない。朝は眠すぎて書けず、夕方はボランティアで疲れ切ってて書けなさそうだったので、「短くてもいいか!」って感じで投稿です。
というわけで、ボランティア行ってきます(´◉◞౪◟◉)