表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

十五話 トラウマ


 市街地から商店街を横切り、住宅街に入る。この住宅街を抜けると、田畑に囲まれている開けた田舎道になる。


 さて、そのまま少し住宅街を歩いていると、ふいに郁乃が足を止めた。俺と平田はそれを怪訝に思って、振り返りながら足を止める。


「どうした?」


 俺が尋ねると、郁乃はつつーっと目をそらした。まるで、悪戯がバレてしまった時の子供みたいな反応だった。


「あの……この道はちょっと……」


「は? 郁乃も同じアパートならこの道使ってるだろ? この道が最短なんだし」


 ふと、自然に名前で呼んでしまったことに俺はハッとして、平田に目を向ける。


 さっきは、郁乃が俺の名前を呼んでいたことに興味を持っていたが……今はそれより郁乃のようすが気になるらしい。


 よく考えたら、郁乃はクラスメイトからも名前で呼ばれていた。苗字で呼ばれるのが嫌だから、本人が呼ばせているのだろう。


 そう考えたら、俺が郁乃を名前で呼んでも不思議じゃないのか……。


 はぁ……ダメだな。

 女子の名前を呼ぶというだけで変に意識するから、あのダメ妹に「童貞」だの、「交尾して死ぬだけのオスアリ」とかバカにされるのだ。


 というか、オスアリは悪くないだろ……オスアリに謝れよ。


 そんな感じで俺は、内心でくだらないことを考えて、よこしまな想いを払拭する。


 郁乃は俺と平田から視線をそらしたまま、「えっと……」と郁乃にしては歯切れが悪そうにしていた。


「なによ。郁乃さんにしては歯切れが悪いじゃない?」


「そのようなことは、別に。と、とにかく……ここは迂回して別に道にしませんか」


「いやよ。遠回りなんて」


「俺も。なんだ? この道の先になにかあるのか?」


「むしろなにかあるの?」


「いや、覚えがない」


 平田の質問に答えながら、俺は頭の中で考えるが……特に思い浮かばない。

 ないはずだが……郁乃を見ると、明らかに動揺しているし、なにかあるのかもしれない。


「……まあ、いいか。とりあえず、早く行こうぜ。日が落ちちまうよ」


「そうね。それは困るわ」


「え……あ、ちょっと……」


 俺と平田は、郁乃を置いて先を歩く。

 チラッと郁乃を一瞥すると、しばらくその場で躊躇った後、意を決して顔で、小走りに追いかけてきた。


 と、その時だった。


「バウ! バウバウ!」


「ひぅっ……!?」


 犬だ。


 犬が吠えていた。

 ちょっと裕福そうな家の玄関で寝ていた犬が、郁乃を見て吠えていた。幸い、首輪につけられているリードの長さ的に、こっちまでは来られないようだ。


 だが、犬は俺たちを警戒してか、リードの限界まで俺たちに近寄り、「バウ!」と吠え続けている。


 郁乃はそれに恐れ慄いたようすで、顔を真っ青にするとその場で屈んで耳を塞いでしまった。


 平田と俺は、郁乃が犬に吠えられているさまを見て呆気に取られた。


「ええ……もしかして、郁乃さん……犬が苦手なの?」


「苦手ではありませんが」


「バウ!」


「ひっ……!?」


 郁乃は再び耳を塞いで体を小刻み震わせる。

 この反応は間違いない。

 俺と郁乃は顔を見合わせた。


「い、意外ね……普段、澄ました顔でこれみよがしに胸を揺らして歩いている彼女が……犬が怖いなんて」


「お前の目に、あいつがどんな風に映ってんのか分かったわ」


 どんな嫌なやつだよ。いないだろ。胸を自慢げに揺らして歩くやつ。


「ここの犬、よく吠えるんだけど、別に威嚇してるわけじゃないんだよ。ほれほれー静かにしなさいな」


 俺は犬に近寄り、頭をポンポンと撫でる。


 犬種はちなみに、ドーベルマンというやつだ。吠えると、中々厳つい顔をするのだが、撫でてやると「きゃいんきゃい〜ん」と可愛く喉を鳴らす。


「あら、結構人懐っこいのね……あたしも……」


「ガルルルッ!」


「なんでよぉぉぉ!!」


 犬に拒否られた平田が悲痛の叫び声をあげた。

 猫にも拒否られた挙句、犬にまで拒否られるなんて可哀想だなぁ……。


「なんであんたは触っても平気なのよ!」


「さあ? まあ、俺って昔から動物に好かれる体質っぽくてな」


「あーうらやまうらやま〜。昔もいたわ、そういう男いたわー。よく犬とか猫に好かれてたわー」


 平田がその男の子に嫉妬しているのが、容易に想像できる……。

 俺はそのまま犬を撫でくり回しながら、完全に塞ぎ込んでしまっている郁乃に目を向けた。


「で……郁乃はなんで犬が苦手なんだ? ドーベルマンが怖いのか?」


「は? 怖くありませんが」


「バウバウ!」


「にゅっ……!?」


 郁乃は間抜けな悲鳴をあげた。

 なんだ、「にゅっ」って。独特すぎる。


 郁乃は酷い顔色で、気分を悪そうにしながら顔をあげる。


「うっ……わ、私は……ほんのちょこっとだけ、犬が苦手なだけです……うっ……気持ち悪い……」


「だ、大丈夫? 背中さすってあげるわよ?」


「あ、ありがとうございます……うぷっ……ちょっと、強いです……出そうです……」


「あ、ごめんなさい」


 珍しく平田は郁乃を心配して、その背中をさすってやっている。

 俺は犬が無闇に吠えないよう、撫でくり回しながら尋ねた。


「ドーベルマンじゃなくても、チワワみたいな小型犬もダメなのか?」


「無理です……そう……あれは私が中学生のころ……」


「なんか語り始めた」


「しっ……よっぽどのトラウマなのかもしれないわ。聞いてあげましょうよ……なんか面白いし」


 この女性格悪いな……と、俺は平田を半眼で見てから、郁乃の話に耳を傾ける。


「そう……あれは……うぷっ……私が、中学1年生のころでした。もともと、動物にはあまり好かれないタイプでして……よく散歩中の犬に吠えられていました」


「あ、なんだか親近感が湧いてきたわ……!」


「悲しいかな……トラウマとかコンプレックスって、時に人を結びつける要素になるんだよな……」


 俺はしみじみと思い口にし、再び郁乃の話を聞く。


「……ある日、塾帰りのことです。放飼にされていた大型犬に襲われました。上から覆いかぶされ、顔を舐められました……大型犬だったので、とても大きく、重かったです」


「軽い恐怖体験ね……」


「いや、めっちゃ怖いだろ。軽くない軽くない……」


「ふっ……以来、私は犬が苦手になりました」


「思ったよりトラウマもんな話だった」


「そう? 噛まれなかっただけマシじゃない?」


「バッカお前……バカお前。小さいやつが大きいやつに覆いかぶされたら怖いんだよ。トラウマもんなんだよ」


「えー……実感こもり過ぎてて怖い……」


「あ? 誰が小さいって?」


「言ってない言ってない……言ってないのだわ……」


 とりあえず、このままここにいると郁乃が今にも発狂しそうなので、俺たちは移動することにした。


犬が怖いヒロインはだいたい幼馴染(偏見)

どうも幼馴染マイスターの青春詭弁です。


どんどんトラウマやコンプレックスをぶちまけて参りました。


ちなみに、私は犬よりも猫の方が好きです。ええ、そうですね。どうでもいいですね。


ところで、幼馴染を動物に例えると二つのパターンになりがちです。


主人公に尽くす犬系幼馴染

主人公を尻に敷く猫系幼馴染


犬系も猫系もいろいろなタイプがいますが、一貫した属性を持つことが多いです。


たとえば、犬系は世話好きであることが多いです。猫系はクールビューティーなタイプが多いですね。


さて、ではみなさんに問題です。(テテン)


天真爛漫な幼馴染(ハ○ヒ)みたいなのは、犬系か猫系か、どっちだと思いますか?


正解はCMの後です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ