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青い夏

作者: おのだ。



僕は死んだ。

最初に思い出すのは、夏の学校。

人の疎らな学校。

気温は高くジリジリとした暑さだが、僕はどこか清々しく感じていた。

何かに嫌気がさしたのかもしれないし、特に理由も無かったのかもしれない。

鮮明に覚えているのは、青空と青い水のプールだ。

僕は学校の校舎へ行き

3階に登り、教室に入るとすぐに窓に向かい

窓を全開に開き 背を向けた…

気持ちの良い風が吹いたと同時に

僕は頭上を仰ぐように上を向きながら後ろへ倒れる様に外へ落ちていった…。


次に覚えているのは、プールの水の心地よさだ


水の冷たさを感じながら

とうとう僕は死んだのだと感じた


周りには誰もおらず、蝉の鳴き声だけが耳に響く


プールから校舎を見上げると

授業中なのか生徒が座っているのが見える


誰も僕がプールの中にいる事なんて気づいていない

死んでいるのだから当たり前だ

人は死んだら見えなくなるというのは、本当だったのだな…と何処か他人事の様に思った。


太陽はまだジリジリと僕を照らしているというのに


プールから上がり、フラフラとした足取りで校舎の中へ僕は足を運んだ


授業が終わったのか、生徒が廊下を走っり去っていったり、廊下で楽しそうに会話をしている人もいる


僕は死んだというのに、人にぶつかりそうになると道を譲る様に避けていた


それは生前の僕の癖だからだ


人と馴染めず、仲の良い友達もおらずいつも一人でいた僕は少しでも人の邪魔にならない様に生きていた


死んでからも尚、同じ様な事をしている

自分に自分で嘲笑ってしまった…


何も変わっていない


廊下の隅を歩きながら、ふとある教室の前で足が止まった


教室の入り口に近づき、中を覗くと

騒がしい教室の中で、大人しそうな女の子が一人

数人の女子に囲まれていた。

囲まれていた女の子は、僕の妹だ


女の子たちの会話が聞こえてくる


一人の気の強そうな女の子が見下す様に

妹に言葉を発した「あんたの兄貴さ、自殺したんでしょ?」


妹は何も言葉を発しない


僕はその会話を聞いて

やはり、僕は死んだのだと確信した


ホッと胸を撫で下ろした


僕はどこかで本当に死んだという感覚が無かったのだ


それは僕が何一つ変わっていないからだ


視線を妹の方に戻すと

妹はただ、他人事の様に目も合わせず

女子達の会話を聞き流しているだけだ


気の強そうな女の子がまた言葉を発した

「まあ、あんたの兄貴も自殺しそうな人間だったもんね!」

彼女は、悪気があるのか無いのかわからない程に明るく言葉を発している


周りの女の子達も同意している


そうか、僕は他人から見ても

"そういう人間"に見えていたのだな…と思った


しかし、僕は悔しさや怒りは起きなかった


自分でも納得していたからだ


他人からみた自分と、自分からみた自分がズレる事なく一致しているのだ


それは間違いなく正しいということではないか


でも、ここで訂正しなくてはいけない事が一つある


僕は自分が嫌になって死んだのではない

死ぬ直前、つまりは落ちる前

僕は死ぬ事が清々しかったとさえ思っていた


例えるなら、眠くなり布団に入り睡眠に落ちる前と似たような心地よさだった


しかし、僕はもう死んでしまったのだから

彼女たちに言葉を発する事もできないし、否定する事もできない


それでいいと思った


生きていた時の僕だって

他人になんと言われようが、否定をする事もしなかったのだから


これはいつもの日常だ


僕は彼女たちに興味をなくし

教室から離れ また、廊下を歩き出した



それから僕は学校中を歩き回りいつもと同じ風景を見ていた

授業中の教室、体育館、校庭、部活動をする生徒


そこはまるでいつもの日常だった


ただそこに僕がいるかいないかなんて

何一つ変わらないのだ


日常は過ぎていく月日も流れていく


それが僕は怖くなった

言い様のない恐怖だった


身体が震え、真っ暗な世界に取り残された気分だった

この気持ちを誰かに伝えたいとさえ、思った



でも、そんな事はもう出来ないのだと考えたら

スッと…震えが止まりどうでもよくなってしまったのだ


僕が生前、死ぬ時も

きっと今と同じ様な事を感じ思ったのだろう


だから後悔や、悔しさ、怒りなどもないのだろう



そんな事を考えながら

僕は何一つ変わらない

過ぎ行く毎日を学校で過ごしていった

生前と何も変わらず同じような毎日を



僕が死んで何ヶ月かの事だった


その日は、学校の中が少しざわざわしていて

いつもの日常とは少し違っていると感じた


僕は気になり、廊下を歩いていると

ふと、またある教室の前で足が止まった


そこは、妹のクラスだった

以前見た あの日 妹が女の子達に囲まれている景色と変わらない景色だと思ったが

そこには妹は居らず、空席を囲むように立ち並び

女子達がいるだけだった


僕は気になり、教室に近づくと

やはり、気の強そうな女の子が言葉を発したのだった

「妹まで自殺するとはねー…」


そこで僕は、妹も自分と同じ様に自殺をしたのだと知った


理由は分からなかった


当たり前だ


僕は死んでから妹と関わっていないのだから


尚も、気の強そうな女の子が言葉を続ける


「妹も自殺しそうな感じの人間だっだもんねー」


僕は教室から離れ廊下を歩き出し


ボソリと誰にも聞こえない声で言葉を発した


それは、久しぶりに発した僕の言葉だった


「やっぱり何も変わらない」



僕は自分の足元を一度みて、顔を上げ廊下から窓の外を見る

綺麗な夏の青空だった


何故か分からない涙が出て、僕はまた終わらない日常を繰り返す





普段は、文章なんて書きません。


夢でこれを見たときに書かなくては…と思いました。


読んでくださり、ありがとうございます。

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