8話 Mission Ⅰ
「勧誘は成功したんだね」
薄暗い部屋の中で明歌がそう答え振り返る。目から靡く光に玖由は警戒をしてしまう
(この感じは…)
「あっ…あぁ!ごめんごめん警戒させちゃったみたいだね」
異様な雰囲気から一変し以前見た事のある明歌の雰囲気になる。
(あれが転生者がもつものなの…)
「久しぶりだね玖由」
玖由に挨拶し視線を綾乃、松根に向ける。
「今の暗部の指揮官をしている明歌よよろしくお願いしますね」
2人に挨拶を済ませ明歌は
「挨拶をするのはここまでいきなりだけどミッションよ」
「またアルマ堕ちの人間が…?」
「いや、奴らよ」
「奴ら?」
「そうだったね、暗部の敵を教えて無かったね…」
綾乃は首を傾げ
「アルマじゃないの?」
その言葉に葵は手を斜めに重ね首を横に振る。
「五神は覚えてる?」
(五神…どこかで…けどどこで聞いたか…)
3人の様子を見て葵は
「やっぱり覚えていないか…」
と小さく呟き
「この世界には5つの神がいるのイザナミオオガミ、クシナダヤクモガミ、ワダツミヤエツミガミ、アメノウズメタギツミコ、ツクヨミオオツキヒメよ、そのうちの一体アメノウズメのみ所在が確認しているのそして私達の味方」
「どこに居るの?」
「ここよ」
と葵は自分に胸を当てる。
「じゃああの時…私のワイヤーを引き裂いた力が…」
「正解」
「そしてその五神の力を利用し世界を救うという思想をもつ集団『ヘルプ』、そして五神の力を邪と考え世界から消そうとする集団『ワースト』が存在しているの」
「五神の力は絶対の力…それを利用も消滅も出来ないのに…」
葵は手を強く握りそう呟く
「今回はその2勢力のうちワーストが相手、習うより慣れろ、私達の戦いを知る為に次の作戦に参加してもらいたいの」
「2人はどうするの?」
玖由は何も言わず黙っていた綾乃と松根に問いかける。
「私は…」
「迷うなら辞めておく方が良いわ、対アルマじゃなく対人戦闘、手を汚す事になるわよそれも、人間を守る為じゃない、たかが考え方が違うだけで起こす戦い…戦争よ」
真剣に伝える玖由を見て綾乃は自分の実力を今だに認められていない事を痛感し虚しさを感じる。
(まただ…また玖由に…)
「私はやるわよ」
綾乃の決断に玖由はため息をしながらも頷く。
「私もやりますわ」
松根も胸に手を当てそう答える。
「了解したわ、明日ヒトハチマルマルもう一度ここに来て欲しいわ」
「「了解」」
ーーーーー
来た時と別の通路を歩き扉を出ると耳を塞ぎたくなるような賑やかな人通りの中に出る。
「あの基地はどこから繋がってるのよ…」
「いろいろよ、それより玖由ちょっと付き合ってよ」
葵や玖由の腕をつかみ引っ張る。
「ちょっと!?」
「それじゃあ2人ともまた明日!」
人混みに紛れた玖由達を見送り綾乃と松根は顔を見合わせる。
「私達も帰ろうか」
と帰宅しようとする綾乃の腕を松根は掴み
「晩ご飯一緒に食べませんか?」
松根に連れられ古びたアパートに来る。
「ここが松根の家なの…?」
「はい、どうぞ入ってください」
落ち着かない様子で座る綾乃を見ながら手際よく食事の準備をする。
「疑問なんですが綾乃はどうしてアームズになったのですか?」
「単純に負けたくなかったから…」
「玖由に…ですか?」
茶碗にご飯を盛り綾乃に差し出しながら尋ねる。
「うん」
手を合わせ盛られたお米を口にする。
「なるほどね…理解出来ましたわ」
「なにを…?」
「先程玖由に止められた時の綾乃の感情の理由が知りたくて」
「嫉妬してるんだと思う、玖由も努力しているのは知ってるけどゼロから努力するのと元から才能のある人が努力するのとでは天と地程の差が出る…玖由と居ると追いつけない差という物を思い知らされるんだ…それが悔しくて」
「なるほど…綾乃は負けず嫌いですね、私はそんな玖由を尊敬出来ます、私はお姉ちゃんがいる時は逃げてばかりでしたから…」
「お姉さんって…神崎羽根さん?」
「はい…何をやっても失敗ばかりだった私にお姉ちゃんはこういったの『人には個性があるできる事できない事があるそれを理解して努力してそれでも出来なければ諦める、時には諦めが肝心そうして私は強くなれたんだ、刺激的だよ』って」
「その言葉の意味なんと無く理解出来るかも…」
「はい、その言葉のおかげで今の私がいますから…その為にも必ず…」
暗い表情になった自分に気づき
「それよりも今は食べて、なんとかが空いては戦が出来ぬだからね」
「腹でしょ、そこまで出てきてるのになんで分からないかな…」
「あははっ」
笑ってごまかそうとする松根を見て綾乃も思わず笑う。その声は夜空に溶けていった。その同じ夜空を玖由と葵は見上げていた。
「どうしてここに連れてきたの?」
葵が連れてきた場所が墓地である事に疑問を持ち問いかける。
「これだけは言っておきたくて…」
と葵は視線を横に向ける。その先にあるのは梨絵のお墓だった。
「二人ともごめんなさい」
「葵には罪悪感とか感じないんじゃないの?」
「うん…けどこれはそういうのじゃない私の責任…義務だから」
「義務…?」
「罪悪感が無くなっても責任感はあるわ…これはあなた達に謝らないといけないというね」
「気持ちの持ちようね…」
「許して欲しいなんて言わないだから、私もあなたの思わくに協力させて」
「思わくって…」
「その為サプライズを用意したんだから」
「サプライズ?」
「明日になれば分かるよ、この姿の私はもう見れなくなるけどね」
きょとんとする玖由を笑いながらからかう葵、そんな2人をみて夜空を見上げた。