71話 Regret Ⅶ
結彩が取り出した携帯端末を片方の武器に翳し同期させる。そして端末を操作すると箱から拳銃が飛び出しそれを結彩は掴む。すると拳銃が結晶に覆われ、その状態で引き金を引く。拳銃から放たれた発砲音とは思えない轟音が響き、六角の右肩が吹き飛ぶ。更に拳銃を取りだし両手に構え、発砲。
同時に二体の罪人は左右に分かれて回避する。そのまま左右から挟み込み攻撃を仕掛けようとする。
それを見て小銃を取りだし両腕を広げ放つ。拳銃と同様結晶を纏うそれの威力は凄まじく着弾の衝撃波のみで二体の脚をよろめかせ動きを鈍らせる。お構い無しに打ち続け、着弾による砂ぼこりにより視界が徐々に遮られる。
直後砂ぼこりをかき飛ばす勢いで結彩は五角との間合いを詰め、持ち替えていた散弾銃の銃口を向ける。引き金を引く同タイミングで六角が割り込み身代わりのように散弾を浴びる。間髪入れずに五角が腕を伸ばし結彩を掴もうとする。
「っ!」
更に散弾を放ち腕を粉砕、すぐさま修復するが一瞬の隙をつき距離を置き砂浜に突き刺していた小銃を手に弾幕を放ち二体を再び引き離す。
本来ならこの隙を狙い片方の注意を引くべきなのだろうが下手に入ると結彩の攻撃を邪魔をしかね無い…ただ様子を見ている事しか出来なかった。その現実が悔しかった。
「はぁっ!」
弾幕を緩めることなく放ち続け二体の距離を離していく。間髪入れず片手の小銃を砂浜に突き刺し空いた右手で携帯端末を操作、箱から狙撃銃が射出されそれを掴み結晶で強化する一瞬のうちに左手の小銃を頭上に投げ両手で狙撃銃を持ち安定させる。引き金を引くと同時に六角の脚を撃ち抜き倒れかける所を次弾で腕を更に玉を込め直し六角の角を撃ち抜きそのうちの一角が砕ける。
「近づけさせない!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」
小銃を手に銃弾を放つが六角の絶叫の直後、銃弾は消滅し更に六角が霧状に変化し結彩を包む。振り払おうと試みる結彩だが何かに掴まれて居るように身動きが取れていなかった。救助に向かおうとするがそれを五角に阻まれ肩の機銃で弾幕を張られ妨害される。
「結彩!」
「だい…じょうぶ!」
身体を強引に捩りもがく。自身の身体の状態を気にしないように動いている為、腕が曲がらない方向に曲がってしまっていた。
「くっ…あぁぁぁぁっ!」
六角の拘束から抜け出し距離を置く。関節は外れ、骨折もした腕だったがツクヨミの力により瞬く間に治癒される。
「これは…流石に二度とやりたくないわね…」
腕が動くのを確認し本音を漏らす。誰でもやりたいとは思わないだろう。
六角は霧状のまま五角を包み、五角はそれを吸収する。
「まじか…」
モヤを呑み込んだ五角は角が無くなり短髪の髪や身長が伸びより人間に近い姿に変わる。
「この姿にならないといけないとはね」
「喋り方まで流暢になってるのか…」
黒い髪を靡かせ紅い瞳を大和に向ける。次の瞬間目の前に結彩が現れ直後衝撃波が潮を吹き上げる。
「なっ…!?」
「くっ!」
「これを受け止めるか」
受け止めていた結晶の剣を受け流し小さく飛翔、身体を回転させつつ脚を振り上げ結彩を蹴り付ける。
寸前で回避するが衝撃波により結彩と共に吹き飛ばされる。
「ただでやられない!」
予め仕掛けていた罠を発動させ足元から罪人を巻き込むように起爆。片足を吹き飛ばしバランスを崩した所に結晶で槍を創り出す。
「大和!」
「り…了解!」
結彩の指示に戸惑いつつ向けられる脚に砲を合わせ空砲、衝撃波を味方に加速し槍を振りかざし突き刺す。勢いを減速させず地を蹴り投げ放つ。しかし同時に結彩の胸を結彩の槍を模した黒い槍が貫いていた。
「かはっ…」
吹き飛ばされつつも罪人が砲撃、間合いに割り込み装甲を展開、砲撃を受けるが装甲が粉砕、装甲の破片の合間から次弾が向かってくるのを確認する。
(こうなったら…)
両腕の主砲が装備された武装を重ね砲撃を受ける。両腕の武装が破壊されるのは覚悟していたが既に脆くなっていた為か頭部、上半身の武装までもが破壊、大破する。
「や…まと…」
槍を引き抜き寄ってくるが心臓の直撃は回避したものの掠めていたためツクヨミの力を用いても回復が間に合っていない様子だった。追撃をしようと試みる罪人を見て結彩を抱き上げその場から離れようとする。
「重っ…!?」
武装の補助が無いのを忘れていたため持ち上げる力が想像以上に必要になり動きが若干鈍る。
(くそ…!回避が間に合わない!)
その時上空からジェット機の音が鳴り響きそれが真上を通過した直後一人の影が舞い降り罪人を切り裂く。
「二人とも、大丈夫ですか!?」
目の前に立っていたのは左半身に結晶の鎧を纏う京也だった。
「京也…どうして…」
「先輩の指示でこちらに向かっている時、この力を結彩さんが使用しているのを感じて」
京也は自身の変色した片目を抑える。
「助かったわ…ありがと」
治癒により回復した結彩は立ち上がり京也の横に並び立つ。
「まだ、休んでいた方が…」
京也が心配するのも無理は無い、いくらツクヨミの治癒により傷口が回復した所で流れた血液まで補充されていないのだろう、顔色は青白く立つのもままならない様子だった。
「休むのはあの子を倒してからにするわ…と言ってもその為には君の力を貸して欲しいの」
「俺の…力?」
「えぇ、一時的にツクヨミの力を全開で使う…あの罪人に対抗できるのはそれしかない」
「わかりました」
京也の同意に安心し結彩は深呼吸をする。直後京也に纏う結晶が消滅しその力が結彩に継承される。
「お久しぶり」
「私…?いや、あなたは…ツクヨミ」
「あぁ…あの時はよくもやってくれたね、今すぐ報復してもいいんだよ」
不敵な笑みを向け、挑発をするツクヨミだったが
「あーはいはい、今はそれどころじゃないから」
「軽くない…?」
「話は後!」
結彩は全身に結晶の鎧を纏い、同時に罪人の間合いを詰める。両手に細長い刃を創造し左右に投げ放つ。弧をえがきながら罪人に迫り。三方向からの攻撃に罪人の判断を焦らせる。それに対し予想外にも罪人は自ら間合いを詰め左右から迫る刃を背後でかわし結彩の攻撃を受け止めようとする。しかし回避され地に刺さった刃は再び動き罪人の背中を切り上げる。ダメージを受け鈍る所を結彩が貫き次の瞬間刺さる刃は十字状に広がり、罪人を四等分に切り裂く。その状態でも罪人はそれぞれが意思を持つように動き上半身の二体が結彩を引き裂くが寸前に左右に盾を創造。それが隙になり下半身の蹴りが結彩に打ち込まれる。結彩は攻撃を耐え、僅かに後ろに下がる。
(一個ずつでも…!)
結晶を軟化、箱から全ての銃器を取り出し結晶の一部となる。
「はぁぁぁぁぁっ!」
重機関銃の弾幕を張り四つに分かれた罪人を囲むように結晶を展開、銃弾が結晶に触れると不規則に反射し罪人の一つを次々に撃ち抜き消滅。
(一つ!)
機関銃の弾幕を止め対物ライフルを手に持ち狙いを定め引き金を引く。轟音を轟かせ弾丸を放ち光の一線が罪人を撃ち抜き消滅。
(二つ!)
ダメージを受けすぎた為か六角と五角の罪人に再び分かれ結彩に立ち向かおうとする。両手にショットガンを持ち替え五角を狙う。それに感ずいた六角が五角を突き飛ばし身代わりになるようにしてショットガンから放たれる銃弾の雨が六角を撃ち抜く。
(庇った…!?罪人が…いや、動揺している暇は無い!)
ダメージを負った六角に対しバズーカ砲を持ち至近距離から打ち込み爆発を起こし一発で六角は修復不可能となり消滅する。
(後一体…!)
地に足を込め五角の周囲に結晶の檻を展開、破壊しようとする五角だが傷一つ付かず結彩の合図で檻から無数の針が飛び出し五角を串刺しにする。
そこに小銃型のレールガンを手にする。
「これで、やっと君の願い叶えさせて上げれる…かな」
衝撃に耐えるため背から結晶の柱を突き刺し地に刺す。
「さよなら」
引き金を引くと小銃から放たれるとは思えない巨大なレーザーが放たれ五角を飲み込む。
「ウウァ゛ァァァァァァァァッ」
レーザーは海面を裂き海底の地を顕にさせる。
「はぁ…はぁ…」
結彩はツクヨミの力を解き、倒れかけるのを京也に支えられる。
『ありがとう…』
その優しい声が結彩の耳に響き夜空を見上げ歯を食いしばった。