67話 Regret Ⅰ
「っ!はあっ!」
意識の中では流石に武器を出せない、そのため拳を振るうが思うように動けず拳にも力が入らない、そのためクシナダに突き出される拳は弱々しく軽々と回避される。
「なんで…なんでっ!」
「お、お、落ち着いてよっ」
慌てて落ち着かせようとクシナダは宥めるがそんな言葉に耳を貸さなかった。
「その拳が僕に当たると意識が戻っちゃうよ!?いいの!?」
「なっ!?」
拳をクシナダの寸前で押し止める。やっと話を聞く素振りを見せた事に安堵したクシナダは溜息をついた。その行動が癪に障ったがそれを押さえ込み話を聞く。
「確かに僕が居ることが原因…けど僕を受け入れたのは君なんだよ?」
「どういう事…?」
そんな事を言われても心当たりなんてない、どんな理由があってこんな化け物を受け入れるなんて…きっとクシナダの虚言だ、そう信じていた。動揺する表情を見てクシナダは話を続け始めた。
「信じられない、と言いたげだけどそれが真実、君は無意識的に僕を受け入れただけ」
「違う…!」
「違わなーい、なら証明してあげる、君が欲してるのは過去を受け入れることが出来る勇気」
その言葉に目を見開き否定をしようにも言葉が出なかった。図星だったのだ。
「っ…確かにその通りよ…私は弥咲が死んだ事が受け入れられない、受け入れようとすると頭が痛くなって目眩がして…吐き気がして、何も考えられなくなる…」
「そう、それが僕を受け入れた、そして彼女にそれを利用されて今の異変が引き起こされた、僕の力は想像の具現化だから」
「そういう事か…」
この異変の原因が自分自身であることはクシナダの発言で容易に察することが出来た。
「けど、僕の力を君以外の他人に利用される事は気に食わない、だから僕の力を貸してあげる」
と手を伸ばし胸の辺りを撫でるように触れる。
「くっ…!?」
胸の内から火傷をするような熱を感じる。息苦しい、炎に包まれている錯覚に陥りそうになるほどだった。
「これで完了」
その言葉と同時に先程まで感じていた苦痛が嘘のように晴れる。
「何したの…」
「そんなに睨みつけないでよ〜怖いなぁ〜」
(こんな事唐突にされたら誰だって怒るよ…)
クシナダの発言に内心ではそう思った。
「君に僕の力を分けただけ、大丈夫使い方は頭で覚えていなくても身体が覚えてる、それに僕の事はすぐに思い出させてくれるさ」
そう言い残しクシナダに勢いよく突き飛ばされる。背後には足場が存在しておらず落下をしている感覚になる。
「くっ……っ!?」
目を開けると今まで暗闇だった視界に明るさが差し込み目を細める。
「しーちゃん!」
聞きなれた声、その声の主を確かめるように視線を向ける。
「チハ…」
「よかった〜!目を覚まして〜!」
相変わらずのんびりした様な声だが今にも泣き崩れそうな表情をしていた。
「なにを泣きそうな顔…してるの…」
「だって〜!しーちゃん苦しそうにしてたし…」
確かにうなされるような夢を見ていた気がするがそれがどんな夢だったかまでは思い出せない。一番目覚めの悪い目覚め方をした。
涙目のチハの視線が手にむく。その視線につられ自身の手のひらを見ると包帯が充血し赤く染まっていた。
「なにこれ…」
「何かを必死に耐えてたみたいでずっと拳を握りっぱなしだったんだよ」
「何に耐えていたんだろうね…」
特に思いだそうという気にもなれなかった。無駄なのは察していたから。
「目を覚ましたんだな」
そこに呉の指揮官、相良憐斗が姿を見せた。
「意識が戻ってよかった」
「はい…ご心配をお掛けしました…」
正直、この人は苦手だ。雰囲気というか独特な空気を感じ、好きになれない。
「それより…海咲さん…は…?」
チハはその発言を聞き目を逸らした。
「海咲は亡くなった、死因は出血死だそうだ」
淡々と説明を憐斗さんが報告してくれる。その報告悔しさで歯を食いしばる。
「死後の時間からして君が来る前には既に亡くなっていた、君が悔やむ必要は無い」
恐らく罪悪感を感じていたのを察してかけてくれた言葉なのだろう。
「けど…私のせいで…」
「チハから話は聞いた、君の中に居る五神の正体も検討はついた」
「五神…?」
なんの事か全く分からない。
「クシナダを知ってるか?」
それを聞いた時頭の中にあったモヤが一気に晴れる。
「クシナダ…そうだ…!クシナダ…だ!」
「やはりか」
そんな様子を見て憐斗さんは予想どうりといった反応を見せる。
「どうして分かったの?」
綾乃さんが不思議そうに尋ねる。
「クシナダの持つ力は想像の力」
「想像の力?それって私と京也君のツクヨミの力と一緒なの?」
「いや、ツクヨミは『無』からを創る創造の力、対してクシナダは『概念があるモノ』から精製する想像の力だ、恐らく君はその力を利用され『ミサキ』という名のモノを想像、そしてそれをアルマ化させた人物が居るのだろうな、異変の仮説としてはあると思うが」
流石だ、クシナダの言う通りの事を推論として述べている。
「深咲っ!」
そこに咲果が入ってき抱きついてくる。
「良かった無事で!深咲に何かあったら私…どうしようかと…」
「そう…なんだ…ごめん」
そう、目を逸らしながら謝った。
「憐斗どうしたの?」
浮かない顔をしていると感じたのか結彩は覗き込むように尋ねてくる。
「いや、なんでもないさ」
確かに引っかかっている事があるがこの場で話すべきでないと判断し言葉を濁す。その事を察したのか結彩はそれ以上尋ねなかった。
「チハ、後は任せて大丈夫か?」
二人の様子を伺っていたチハは無言で振り返り頷く。
その反応を見て結彩、大和と共に部屋を出ていく。
「何を迷ってるんだ?」
大和の一言にはじれったいと言いたい感情がこもっていた。
「当たり前だ、この推測が本当なら彼女をさらに追い詰めてしまう、そんな事をしてたら彼女が可哀想だ」
彼なりの優しさなのだろう、それを聞き
「そうだね」
と答え、微笑んだ。大和もそれ以上問い詰めようとはしなかった。その時、目の前に気配を感じ反射的に身構えながら目の前を見る。そこには一人の人物がひっそりと立っていた。
(さっきまで全く気配を感じなかったのに…いつの間に!?…それにあの子は!)
憐斗にも気配を察知する事が出来なかったのか驚いた様子を見せていた。そしてその子の姿に見覚えがあった。
「お願いがあります」
その子が口を開き言葉を発する。
「僕を殺して、彼女を助けてください!」




