65話 Curse Ⅳ
「海咲、ちょっとすまない」
「憐斗さん…」
望希の遺体を調べる為、憐斗はしゃがみ手を当てる。
(見た感じ傷もない…薬物を注射されたようなあとも無く…まるで本当に眠るように息を引き取ったような、調べた通りだったな)
「何か…わかりましたか…?」
涙を拭き取るもなお流れる涙を拭いながら海咲は憐斗に尋ねる。その問に答えることなく自身の唇に人差し指を当てる。
「今は静かに…」
その数分後、龍馬達が到着し憐斗は現場を龍馬達に託し海咲を連れその場から離れ一行は結彩の部屋に集まる。
「まず確認だが呪いは人の想像が作り出しているんだよな?」
その問いに咲果は頷く。
「ならその罪人も既に死んでいて誰かの想像によって生み出された可能性はないか? 例えばその人の死を認めたくない感情とかな」
そう言いながら憐斗は一冊のファイルを結彩達に向ける。
「調べて知ったがこの騒動が起こる直前、出撃で一人亡くなった人が居るんだな?」
確認を取るように憐斗は海咲と咲果に尋ねる。しかし二人は俯き答えようとしなかった。二人にとっては触れられたくなかった事だったからだ。それを理解した上で憐斗は話を続ける。
「その亡くなった『土佐弥咲』と同じ部隊だったのが君達だよな?」
「ちょっと待ってください!私達を疑ってるんですか?」
海咲は身を乗り出し憐斗に詰め寄る。
「確かに彼女の事は大切でしたがだからこそそんな死人を弄ぶような事はしません!」
憐斗の意見を否定する海咲の言い方に納得できなかった結彩が口を開くがそれを憐斗が止める。
「すまないが確かに今、君達を疑ってる」
はっきりと口にした憐斗に海咲は言葉を失う。
「呪いも負の感情が作り出すなら彼女が親しかった人物が起こしてる可能性があった、まず第一に彼女の家族が怪しいと思ったが既に亡くなっていた、となると同じ部隊だった君達に疑いが向く」
「そんな…」
いくら否定しても憐斗を納得させるほどの反論が思いつかず海咲は歯を食いしばる。
「あの…でももしかしたらあの子なら…」
口を挟むタイミングを見計らっていたように咲果は口を開く。
「あの子?」
「はい 、あの子と弥咲は家族が居ない同士で幼少期からの中らしいので…」
そう言う咲果の案内で一室の扉の前まで来る。咲果がそれにノックをすると、しばらくの間の後にゆっくりを音を立てずに扉が開き身体のサイズにあっていない大きな服を着て虚ろな瞳の深崎が姿を見せる。
「……なんですか?」
小さく呟く一言を辛うじて聞き取り憐斗は
「ここで起きてる事件について聞きたいんだ」
そう答えた深崎は顔を見上げる、しかし次の瞬間なにかに怯えるように瞳を大きく開き再び伏せる。
「言わないから…言わないから!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
しゃがみ頭を抑えパニックを起こす深崎を落ち着かせるように海咲が身体をさする。
「………この子は時々こうやってパニックを起こしてしまうのです」
咲果もしゃがむ深崎の肩に手を当てる。
「もう大丈夫、戻ろ?」
再び肩を震わせ恐る恐る立ち上がり深崎を部屋の中に入れる。その拍子に憐斗に部屋の中が見え机の上に深崎と弥咲が仲良く笑い合う写真が額縁に入れられて飾られてあるのが見えた。
(あれは…)
しばらくして部屋の中から海咲と咲果が出てくる。
「彼女は?」
「落ち着いたら寝てしまいました、弥咲が亡くなるまでは元気な子だったんですけど…」
「そうみたいだな、二人とも今日はありがとう、あとはこちらで調べてみるよ」
「いえ…私は声荒らげてしまったので…私も弟の為にも絶対真相を突き止めます!」
「あぁ頼む、あと俺も疑ってすまなかったな」
二人に一度別れを告げ結彩と共に憐斗は結彩の部屋に戻る。するとそこには紅茶を飲みながら資料に目を通す夕立と何故かメイド服を着ている大和が居た。
「なにをやってるんだ…?」
その問いに顔を赤くし顔を伏せる大和
「憐斗様をお待ちしていましたの、あと大和の其の姿は相談料ですわ」
「相談料…?」
「そーれより!なにか収穫はあったのか?」
強制的に会話を終わらせた大和は憐斗に尋ねる。
「あぁ、だが決定的な証拠がまだなんだ、だから二人にそれを頼みたいんだ」
「って言われて来たわけだけど…」
大和と夕立は深崎の部屋の前にて立ち止まる。明らかに入って来るなという雰囲気が滲み出ており大和は開けるのを躊躇う。
「何をそんなに躊躇ってるのですの?」
横から夕立の腕が伸び扉を開けようとするが何かが引っかかる感覚があり開けられ無かった。
「鍵がかかってますね」
冷静に言いながら大鎌をスカートの中から取り出し鍵穴に突っ込む。
「なぁっ!?」
「大丈夫ですわ、破壊したりしませんから」
「いやいや…そう言う問題じゃなくだな」
困惑する大和を後目に鍵を開け扉を開く。
「なんか泥棒みたいな…」
「…まぁ大丈夫ですわよ」
「一瞬間があったのはなんなんだ…」
そう言いながら大和と夕立は部屋の中を見渡す。
「深崎は今は居ないみたいだな…」
大和は机の写真に気づき手を伸ばす。
「誰もいないからと言って部屋の探るのはどうなんでしょうねぇ」
その声を聞き振り向こうとするが喉元に薙刀が突きつけられており動けなかった。
「居たなら返事して欲しいですわ」
砲塔を向けられた夕立は抵抗しない事を表明する様に両腕をあげる。
「お前達は何が目的かなぁ?」
「異変の解決」
「そう…それでここに来たということはぁ」
大和達の回答は聞かずに少し考えた素振りを見せ
「しーちゃんのぉ、望みを阻止しようと言うのならぁ…私はそれを阻止する」
殺気を感じた大和は身体を大きく後ろに逸らす。同時に薙刀が振り上げられる。手を床につけ手を支えに蹴りをクリークの腕に当て隙を作り出す、その一連の動作と同時に注意が逸れたのを見計らい夕立が大和とクリークの間に回り込み体制を立て直し反撃をしようとしたクリークの喉元に大鎌を突きつける。
「……っ!?」
「私達に勝てると思ったか?」
「あなた達の目的…教えて頂けますわよね?」
「嫌だなぁ〜しーちゃんを裏切れないから」
のんびりとした口調に反するようにそのクリークは向けられる砲塔に歩み寄り自身の額に当てる。
「あの子達の為なら私は何でもする、お前達を敵に回してでもねぇ」
「そうですか」
威勢は見せつつも二人には勝てないと思ったクリークは首を刎ねられる、そう覚悟した。しかし実際は夕立はクリークの喉元から大鎌を離す。
「そこまでの覚悟があるならこれ以上はあなたに何もしませんわ」
「ただ…しーちゃんが誤解されたままなのは嫌だからこれだけ伝えておくわぁ、あの子は何も悪くないって」
その時、地揺れのような揺れと共に爆発音が響き渡る。
「なんだ!?」
「まさか!」
クリークは血相を変え二人の間を押し通り部屋を飛び出す。
「どこに行くのですの!」
「いいからぁ!これ以上被害を出したくないならぁ!お前達の指揮官を連れてきて!時間ないわよぉ!」
「っ!夕立!憐斗に報告して連れてきてくれ!位置情報は同期させておく!」
「分かりましたわ!」
二手に別れ大和はクリークを追いかける。そして徐々に黒煙が濃くなり視界が悪くなる。
「しーちゃん!」
クリークの悲鳴を聞きクリークが深崎を呼びかける声を頼りに近づく。煙が晴れた場所にクリークは居たが、その目の前の光景に大和は目を見開いた。
目をつぶったまま動かない海咲と海咲を守るように覆いかぶさったまま気を失っている深崎、そして壁にぶつかった際に深崎が吐いたであろう血が床一面に広がっていた。