63話 Curse Ⅱ
「…はぁ…はぁ…っ」
部屋に閉じこもり深崎は座り込みフードを外す。緊張感からか息づかいは荒く苦しそうな表情をしていた。
「私…が…私が…絶対に仇を取ってあげるから…ね」
机に飾る2つの写真立てに向けて話しかける。そこには七人の少女達が笑いあう光景が映されていた。そしてもう1つには深崎と一人の少女が手を繋いで居た。しかしもう一人の姿は光の影となり容姿が見えていなかった。その直後咄嗟に立ち上がり部屋を飛び出した。その姿を咲果が影から見ていた。
(苦しい…痛い…いたい…?)
眠っていた結彩は自身の身体の違和感を感じる。
(身体が…動かない…なんで!?)
息苦しさからもがこうとするが身動きが取れなかった。
(これは…本格てきに…まずい…息が…)
首を絞められ窒息するような感覚に襲われながらうっすらと瞳を開ける。しかしそこには何も居なかった。
(なにを…されたの…?)
苦しい苦しい苦しい苦しいもがこうにも、もがけない事が苦しさを倍に感じさせる。
霞む意識の中、揺らめく視界に人影が写り込む、それには三つの大角と中心の大角から二本、左右の大角から一本ずつ枝分かれする様にして生えていた。
(罪…人…かっ…!)
ツクヨミの力を行使しようとするが力が使えなかった。
(このタイミングで…運が…悪かったわ…)
京也が戦闘でツクヨミの力を行使している事が分かった。
(ただでさえ意識が朦朧としているなか京也の使うツクヨミの力を取り返す事が出来ない、それ以上に…京也くんがツクヨミの力を使っているという事は使わないといけない状況…そんな時に力を奪ったら彼…彼達の身が危なくなる……だけど…もう…私も限界に……)
意識が消えかけた直前に扉が蹴り開けられ憐斗と大和が飛び込み結彩の目の前に立ちはだかり罪人を睨む。その時罪人は窓をすり抜け逃走する。
「待て!」
窓に体当たりをし大和が罪人を追う。苦しむ結彩を見て憐斗はアマテラスの力を纏い結彩に手を翳す。
(モヤ…?)
翳した瞬間結彩の周りにまとわりついていた黒いモヤを視認した瞬間目を見開く。
「っ…!」
力を込めるとモヤが消滅する。
「結彩…結彩!大丈夫か!?」
「かはっ!」
解放された結彩は荒い息をしながらうっすら開いた瞳で憐斗を見る。
「あ…っ…」
「くそっ!」
瀕死状態になっていた結彩は手を憐斗に伸ばそうとするその手を憐斗は手を握った。
冷たく寒い感覚だった結彩だが暖かい感覚じんわりと全身に伝わる。
(暖かい…優しい温もり…)
「憐斗…?」
「!?」
その声を聞きアマテラスの力を解除し声を掛ける。
「大丈夫か!?」
「うん…罪人が…」
「あぁそうみたいだな、何をされたか覚えてるか?」
「分からない…苦しいかった覚えしか無くて…ごめんなさい」
「謝るな…謝るなら俺の方だ…隣にいたのに彼女に言われるまで気づかなかったなんて情けない」
憐斗の視線の先には咲果が心配そうに立っていた。
「警戒の為に廊下を歩いていたら人影を見て追ったら結彩さんの部屋に入ったのでまさかと思って…」
「その判断のおかげで結彩を助けれた感謝する」
「い…いえ!そんな大したことはしてませんから!」
土下座をするような勢いで感謝をする憐斗に慌てながら答える。
「それより…罪人は?」
「大和が追っているが…」
諦めているような声で呟き窓の外を見た。
「こいつ…!」
罪人の素早さは想像以上で縦横無尽に動き回る。大和は、腰に装備された砲塔を向けるが、的を絞ろうにも定まらず砲撃ができず、ただ追いかける事しか出来なかった。
(こうなったら…!)
腕の砲塔を前に向け同時に腰武装の砲塔から砲弾を放つ。それに気づいた罪人は背後の確認をしながら微調整をし自身の左右を砲弾が通過する。
「それが狙いだ」
腕の主砲から砲撃をし放たれた弾は真っ直ぐ罪人に向けて突き進む。しかし罪人は左足を浮かし身体を後ろに倒すことで寸前で弾を回避、その状態のままからを捻り左を地につけて方向を変え再び逃走する。
「くそっ! 」
砲撃の反動により僅かに遅れながらも大和も再び追跡。その時木の軋む音が聞こえ見上げると大木が大和に向けて倒れかけていた。咄嗟に前に飛び出し回避するが続けざまに今度は四方から木々が大和を押し潰そうとするかのように倒れてくる。
(こんな事で…逃がすわけにはいかない!)
倒れる木々全てが重なる瞬間を見て大和は頭上に砲撃、木々を吹き飛ばしそこから大きく飛び上がり回避。同時にレーダーを使い空中から罪人の位置を割り出し砲撃。爆発音にて着弾を確認し木を滑るようにして地上に着地し着地地点に向かう。
(やはり…かわされたか…)
周囲を見渡すが罪人は既に隠れ見当たらない。直後砲撃と共に大和に向けて突き進む砲弾に気づく。装甲を展開し防御するが咄嗟の行動だった為、衝撃まで受け止める事ができず体勢を崩してしまう。そこに突き出された刃先が大和の目の前まで迫っていた。
(しまった!)
後ろに下がろうにも下がった所で突き出された刃の間合いから逃れることができる見込みが無かった。
(避けられない…なら!)
自ら顔を刃先に向けて突き出した。
「ぐっ…!」
流石の罪人も大和の行動は予想外だったのか怯んだ様子を見せる。
「やっと…隙を見せたな!」
突きつけられた砲塔に気づき逃れようとするが
「逃さない!」
砲撃の衝撃波が罪人を襲い吹き飛ばされそうになるが大和は罪人の背後に装甲を展開し罪人を逃がさないように囲む。
続けざまに砲撃をしようとするが再び目の前から刃が迫る。
(もう一撃ぐらいなら…!)
大和も再び刃に向けて身を差し出す。その時頭上から大鎌が振り下ろされ大和に向けられた刃を防ぐ。
「流石に無謀すぎますわよ、大和」
「夕立!?」
「ふふっ」
月明かりが夕立を照らし紅い瞳が輝いていた。そして大和と入れ替わりに夕立が罪人に連撃を仕掛ける。左右の大鎌を振り下ろし、それが避けられると右の大鎌を地に突き刺しそれを支えに身体を浮かせ蹴りを打ち込む。よろめいた隙にアームから砲塔を出現させ砲撃。完全に体勢を崩した所を大鎌を突き出し罪人を切り裂く。
一撃一撃を重んずる大和とは違い手数で攻め僅かな隙を狙うタイプの夕立の攻撃は罪人にとっては苦手なのか形勢は夕立が優位だった。
それに気づいた夕立は連撃の最中に大鎌を切り離し手に持つ。その行動を警戒した罪人だったがその結果切り離したアームから向けられる主砲に気づかず、砲撃を食らう。不意の攻撃だったはずだったが罪人は砲撃を片腕で受け止めており平然としていた。
「流石罪人ですわね」
罪人は全身からオーラのようなモヤを放ちそれは大和と夕立を飲み込もうとする。
「夕立!」
「分かってますわ!」
二人は砲塔をモヤに向け空砲を放つ。空砲からの衝撃波がモヤを吹き飛ばすがその先には既に罪人の姿は無かった。
「くそっ!」
「それよりも…」
右の瞳に刺さったままの刃を抜き取ろうと夕立は手を伸ばすがその手を大和は払い除ける。
「これぐらい自分でやる…心の準備もあるし…」
最後の一言は小声で呟き自身に刺さる刃を掴む。
「っ…!あぁぁぁぁっ!」
痛みなどの痛覚は無いクリークだが自身に受けるダメージによっては痛みの様な苦痛を感じてしまう。その苦痛は大和ですら発狂する程だった。
「っ…」
片目を抑えながら大和は憐斗のもとに戻ろうとするがその足取りはおぼつかず見ていられなくなった夕立が手を貸し支える。
「危ない…」
フードを深く被った深崎が安堵したため息をつき大和と夕立の後ろ姿を見送りながら呟く。
「まだ…やられる訳にはいかないから…彼女のためにも」